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森美術館が勇気を出して初めての開催!『LOVE展:アートにみる愛のかたち』


1. ジェフ・クーンズ『聖なるハート』(1994-2007年)ピンチュック・アートセンター蔵、キエフ © Jeff Koons Photo: Sergey Illin
2. 草間彌生『愛が呼んでいる』(2013年)
3. 『初音ミク』Illustration by KEI © Crypton Future Media, INC. www.piapro.net

 
時の流れに身をまかれ……ている間に、気が付けばこの春、森美術館が開館10周年を迎えていた。
10年という節目の年に、六本木ヒルズの中心で何を叫ぶのか? と思いきや、飛び出た言葉は「LOVE」。——ずばり、「愛」である。
実際のところ、「えっ」と思った。なぜならば、その言葉はいわば諸刃の剣。「愛」の字をやたら書き殴る者といえばスプレー片手の珍走団(aka. 暴走族)、手料理にケチャップでやたらとハートマークを描きたがるのはヤンママ or ギャルママと相場が決まっているように、人は通常、知的とされている界隈の階段を上れば上るほど、その言葉を安易には発しづらくなる傾向がある。
しかも森美術館といえば、日本最高層へと昇りつめた遥か53階に位置する、我が国を代表する美術館のひとつ。
当然、キャッキャウフフな絵面ばかりを並べてごまかすような、スウィーツ(笑)だましの話では済まされない。
 
それにしても、なぜ「愛」なのか。
現代という時代を見渡してみるに、領土問題や関税交渉に陰謀論が渦巻き、空を見上げては事実上のミサイルや大気汚染の飛来の報に目をこすり、みんな大好き小動物ネタが原発を停電させるほどに躍進して、ステマや炎上騒動が夜通しの護摩祈祷のように黒煙を上げ、愛されファッションが価格と労働対価の崩壊感を漂わせている2013年も道半ば。どう見ても、時代に愛が追いついていない。
ならば、逆にこの「愛」とは、もはや愛に飢えた人々のサバンナと化した現世に、どうか1本の蜘蛛の糸を垂らしてください……という、釈迦牟尼に祈りすがるような本気の姿勢の表れ、なのだろうか。
 
だがしかし。森美術館の姿勢は、まったく逆の方向を向いていた。
いわく、それでも世界は愛に満ちあふれているのだと語りかける。
なんとなれば、恋愛、家族愛、人類愛。
一方で、自己愛、所有愛、略奪愛に、領土愛、民族愛、トモダチ作戦的な親愛の駆け引きetc.…。
愛ゆえの執着や嫉妬、憎しみや流言の果てしなき応酬が、リアルとネットでもはや縦横無尽に連鎖して、この世界を織りなしている。
その愛を求め、想いを吐露し、悲喜こもごもに死んでいく……人類の歴史とは、問答無用で愛の光と闇の間を堂々巡りさせられてきた無数の生命の輝きが圧倒的スケールで渦を巻く、まさに愛の銀河系でもあったのだ。
 
森美術館が勇気を出して初めての開催!『LOVE展:アートにみる愛のかたち』
森美術館が勇気を出して初めての開催!『LOVE展:アートにみる愛のかたち』

4. アルフレド・ジャー『抱擁』(1995年)Courtesy: Kenji Taki Gallery, Tokyo
5. ギムホンソック『ラブ』(2012年)
6. 浅田政志『浅田家「ラーメン屋」』(2005年)

 
その「愛」に、照れず気負わず、真っ向勝負を宣言する。
題して、『LOVE展:アートにみる愛のかたち』。
つまりそれは、アートを通して人間そのものをしっかりと見据え、そのありようを問いかけるという、美術館としての根源的な態度表明。
愛なくして人生なし。愛なくしてアートなし。それならばアートなくして人は……ありか、なしか?
その答えに臨む本気度を展示作品で計るならば、ニューヨーク近代美術館(MoMA)やロンドンのテート・モダンなど所蔵の名画をはじめ、フリーダ・カーロ、フランシス・ピカビアの日本初上陸作品、デミアン・ハースト、ソフィ・カルら現代美術のスターアーティストたちの話題作、草間彌生の新作インスタレーションに加えて、現代におけるヴァーチャルな愛の象徴と呼ぶべきボーカロイドの歌姫・初音ミクに至るまで、約200点がずらり。
それを、六本木という名の六芒星の中心、現代文明のエネルギーをギンギンに充満させてそそり立つ六本木ヒルズ森タワーの先端付近、最も鋭敏なる大事な部分から、時代の裂け目へと先走らんばかりに注入することで、人間を人間たらしめている文化的な知や表現の営みを、この先、我々の子々孫々へと受胎していくことができるのかどうなのか。
 
愛でむせかえるようなこの宇宙の酸いも甘いもすべて噛み分け、世の中の諸相とがっぷり四つで組まなければ、アートの本懐は遂げられない。
ずばりこれは、「よりよい世界のため、アートに何ができるのか」を、この世の中と私たち全員に問いかける、愛ゆえの試み。
これほどまでの本気の企画——それ自体がもはやかぐわしき芳香を放つ「愛」である!

…と、こんな感じの煽り文句をこれまでさんざんこねくり回してきた間に…すみません。展覧会が華々しく開幕し、早くも1カ月が経過しました。でも、だからこそ言いたい。言わせてください。もしあなたが、その愛を、愛の告白を、まだ目にしていなかったとしたら。
森美術館が勇気を出して、初めての…『LOVE展』。その本気の愛をぜひ、感じてみてください。
 
 

六本木ヒルズ・森美術館10周年記念展
『LOVE展: アートにみる愛のかたち —シャガールから草間彌生、初音ミクまで』

期間/開催中〜9月1日(日)
場所/森美術館 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53F
 
information
03-5777-8600(ハローダイヤル)
HP/http://www.mori.art.museum

 

profile

深沢慶太(ふかさわ・けいた)
 
フリー編集者/ライター/『Numéro TOKYO』コントリビューティング・エディター。『STUDIO VOICE』編集部を経てフリーに。『Numéro TOKYO』創刊より編集に参加。雑誌や書籍、Webマガジンなどの編集・執筆、企業企画のコピーライティングやブランディングにも携わる。編集を手がけた書籍に、田名網敬一、篠原有司男ほかアーティストの作品集や、編集者9人のインタビュー集『記憶に残るブック&マガジン』(BNN新社)など。

 

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