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岡本太郎×芸術実行犯の無制限バトル勃発! Chim↑Pom『PAVILION』展

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Chim↑Pom「LEVEL 7 feat.『明日の神話』」(2011年) ©Chim↑Pom Courtesy of MUJIN-TO Production, Tokyo
 
それは、2011年5月1日のことだった。
福島第一原子力発電所の事故発生からわずか2カ月、様々な情報が入り乱れて混迷を窮め、「ただちに影響はありません」「いや、溶け落ちた核燃料が土壌深くで地下水と反応、大爆発するらしい」「そんなときこそ絆だ。がんばろう!」……など、政府発表や陰謀説、根性論に誹謗中傷までが日々、もはや幻魔大戦のようにコントロール不能な渦を巻くなか、ある衝撃的な噂が日本全国を駆け巡った。
 
「渋谷駅コンコースに設置されている岡本太郎の巨大壁画『明日の神話』は、実はこの事故を“予言”していた!」
 
……『明日の神話』といえば、岡本太郎の代表作『太陽の塔』と同時期の1969年に制作され、その後、30年以上もの長きにわたって海外で行方不明になっていたものの、奇跡的に帰国&復活を遂げた“幻の傑作”。原爆の炎に焼かれながら、その惨禍に打ち克つ人間の生命の輝きを、幅30メートルの圧倒的スケールで描き出したその片隅に、どこかで見たような4棟の原子炉建屋と、キノコ雲が描かれている……! 恐るべき、岡本太郎の予知能力!
と思われたのも束の間、実は何者かが太郎のタッチそのままに、福島第一原発を描いた絵を“付け足し”ていたことが発覚。こんなことをするやつは誰だ!(怒)
数日後、報じられた犯人の名は……Chim↑Pom(チンポム)。6人のメンバーからなる若手アーティスト集団だった。
 
「なにが芸術だ!」「太郎さんへの冒涜だ!」と、非難囂々の合唱、合唱、大合唱のなか、岡本太郎記念館の館長を務める平野暁臣は、「明らかにアートの文脈で行われた行為です。(中略)日本の置かれた状況や不安感、そういうものをモチーフにして、表現をしたいと思うのは当然。それをぶつける舞台として太郎が選ばれた。未来を考えるときに参照されるアーティストだということでしょう」と発言。(産経ニュース 2011年5月18日)
もし岡本太郎が生きていたならば、決して怒らず、待ってましたとばかりにニヤリと笑い、表現で思う存分、ぶつかり合ったに違いないーー。まさに、矛盾や対立、あるいは逆境に対して、あえて自分自身をぶつけていくという、岡本太郎独自の芸術思想「対極主義」を思わせる応酬。ここから岡本太郎を巡る、新たな芸術的爆発が始まるのか!?
……と思いきや、それからは特に何も起こらず、事態は沈静化したかのように見えた。
しかし……やはり、そのままで済まされるはずはなかったのだ。
 
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Chim↑Pom『スーパー☆ラット』より、渋谷センター街でドブネズミを捕獲中のメンバーたち。 ©Chim↑Pom Courtesy of MUJIN-TO Production, Tokyo
 
渋谷センター街(現・バスケ通り)で捕獲したドブネズミを剥製にし、黄色くペイントして、誰もが知っているあの(ピカピカな)アニメキャラクターをリアルに再現した作品『スーパー☆ラット』。
あるいは、メンバーが福島第一原発の収束作業現場にアルバイトとして勤務し、崩壊した3号機前で「FAIR PLAY PLEASE」と書かれたサッカーのレッドカードを掲げる作品『レッドカード、2011』。
著書のタイトルにしても、『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』『芸術実行犯』といった具合ーー。
過激かつ社会批評的な作品を展開し、アートの枠を超えた賛否両論を巻き起こしてきたChim↑Pomに、岡本太郎との“正規のリング”が2年の時を経てついに用意され、無制限勝負のゴングが打ち鳴らされたのである。
 
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岡本太郎記念館での展示風景より。 ©Chim↑Pom 写真提供:岡本太郎記念館
 
「太郎の聖地をコラボレーションで埋め、数ヶ月にわたる評価に晒される。
 それはゲリラよりはるかに難しい仕事だ。注がれる視線も甘くはないだろう。
 だがあの一件で世間を騒がせた彼らにはそのリスクを引き受ける責務がある。
 
 こうしてこの展覧会ができた」
 
平野のコメントとともに幕を開けた展覧会の舞台は、岡本太郎が暮らし、創作活動を行った様子をそのままに残しながら、数々の作品に触れることができる“太郎の聖地”こと、東京・青山の岡本太郎記念館。
しかし……Chim↑Pomと岡本太郎とのコラボレーションといっても、すわ、決定的すぎる問題が。太郎はすでに死んでいる! いったいどうやってぶつかり合うというのだろう。
そこでChim↑Pomが選んだのは、なんと他ならぬ岡本太郎本人の“遺骨”だった……!
 
原発事故直後、先が見えない状況の中で、「不謹慎!」という世間の空気の槍玉に、自ら進んで身をさらしたChim↑Pomの行動。そして湧き起こった、「岡本太郎という偉大な芸術家先生の作品を冒涜する不逞の輩」「芸術家集団を名乗っているが、こんな奴らはまともな人間ではない。社会のクズ」という無数の声。
そこに、「芸術は、爆発だ!」という台詞と仕草を物真似され、テレビなどで “芸術家(=よくわからない奇妙な人)”として笑われ続けた晩年の岡本太郎と、彼を笑いの種にしながら今や“芸術家(=先生)”としても知られるようになったタレントたち、そして一転、もはや不可侵の権威に祭り上げられかけている現在の岡本太郎のイメージが、いま、輪を描くようにつながり合って浮かび上がる。
つまりこれは、「なぜ、いまの世の中に“芸術”が必要なのか」という議論を呼び起こす、岡本太郎との死亡遊戯の試みなのだ。
芸術を爆発させるには燃料がいる。その炎をさらに熱く燃え上がらせるのか、それともドロドロに溶け落ちて近寄れないまま、誰かが冷や水を浴びせるのを静観し続けるだけなのか。そのカギを握るのは、私たち自身だ。
 
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岡本太郎記念館での展示風景より。 ©Chim↑Pom 写真提供:岡本太郎記念館
 
『PAVILION』展
期間/開催中〜7月28日(日)
場所/岡本太郎記念館 東京都港区南青山6-1-19
 
information
03-3406-0801
HP/http://www.taro-okamoto.or.jp

 

profile

深沢慶太(ふかさわ・けいた)
 
フリー編集者/ライター/『Numéro TOKYO』コントリビューティング・エディター。『STUDIO VOICE』編集部を経てフリーに。『Numéro TOKYO』創刊より編集に参加。雑誌や書籍、Webマガジンなどの編集・執筆、企業企画のコピーライティングやブランディングにも携わる。編集を手がけた書籍に、田名網敬一、篠原有司男ほかアーティストの作品集や、編集者9人のインタビュー集『記憶に残るブック&マガジン』(BNN新社)など。

 

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