勝手にデパート文化論[前編]/菊地成孔×伊藤俊治 対談連載 vol.7 | Numero TOKYO - Part 4
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勝手にデパート文化論[前編]/菊地成孔×伊藤俊治 対談連載 vol.7

日本の道徳と倫理教育の鍵を握るのは、吉本芸人とジブリ?   I「話を戻すけど、パリのデパートとか行くと、1階ほとんど全部、化粧品ですよね?デパートにおけるフロアデザインて時代や都市によっても変わってゆくんでしょうね」   K「1階はコスメとサングラスとアクセとストッキングですね。その形をとらないのは、駅ビル的というか、要するにルミネとかでしょう。既にどこが1階なのかわかりづらいという。でもルミネはものすごく元気。吉本っていう日本のファシズムみたいな会社とキメラになってるところもスゴイ。実は静かに新宿は吉本の街だからね。ほとんど日本人の若者の社会性っていうものを規定しているって言われている吉本カルチャーですよね。だってKYをどう救うかとか、イケてないやつは皆でカバーするとか、先輩を立てるとか、昔は会社で養成したものを、バラエティ番組見て吉本のタレントの動き見て勉強してるもんね。突っ込んだり引いたり、落としたりっていうようなことを、痛い人をみんな突っ込むことで何とかするっていう健全な社会性が、お笑い芸人によって教育されてると思いますよ。そういう意味では吉本は社会人のエシックみたいなものを発信してるよね。ネタも確かに重要なんだけど、それよりもたくさん集まって、ひな壇なんて上下関係があって、先輩がああ言ったら後輩はこう言うっていう。社会性の塊。昔は山口瞳のエッセイみたいなもので勉強してたサラリーマン社交術が、今は日々テレビで吉本芸人が実践している。だからルミネはそういう強さもありますよね」   I「笑いと躾のデパート(笑)吉本はベーシックなコテコテ大阪カルチャーと接木してどんどトランスフォーメーションしてきましたよね。でもそういう上下関係とか礼儀とか厳しいという一面もある。極端に言うと、吉本とジブリが日本人の感性を決定しているのかもしれない」   K「ジブリはロリコンはここまでOKとかいう、ここまでだったら家族で見れるという倫理審査委員がありそう。アドレッサンスはどっちにしろ、ある程度ガス抜きしてあげないと無理じゃないですか。だけどTバック小学生モデルDVDってのは地下化せざるを得ないけど、『借りぐらしのアリエッティ』だったら地上化するわけで、そこの一線は誰が引くかっていうと、タイトなヘイズ・コード(映画製作倫理規定)みたいなものは今、映倫は言うまでもなく、コードなんて事質上なんの力も持ってなくなってしまって、だから、倫理審査がない世の中になってるから、全部自主規制、要するに力のある集団が決定してくっていう。そこで吉本とジブリですよね」   I「『借りぐらしのアリエッティ』って見たんですけど、少女趣味というより、あれはなんか日本の先々住民族といわれるコロポックル伝説ですね。本当にコロポックル研究をやった民族学者の鳥居龍蔵が出てきて講義してもおかしくないくらい」   K「原作はケルトっていうか、ヨーロッパのものですよね?」   I「そうですね、実はなかなか変な映画なんだけど、表面的には可愛らしく洗練されて、その伝説がカモフラージュされてた。その前の『崖の上のポニョ』も、水難よけの観音菩薩信仰や、海の女神の媽祖信仰と関わってますね。もともとは宮崎(駿)さんが瀬戸内海の鞆(とも)の浦で構想を練ったというし。海洋民族としての日本人のアーキペラゴ(群島)精神をもとにしたものでしょう。山が島になり、島がまた山になる。ジブリの映画は日本の民族学と深い繋がりがある」   K「ジブリがその民族学的な見立てっていうか、見立て以上のものですよね、テーマに深く根付いて、民俗学的なものが芳醇に入ってて、ものすごく数が売れて、さっき言ってた吉本じゃないですけど、なんか漠然と日本一般人の国是を決定してしまうような、洗脳とはいわないけど、力があって、アニメとしても面白くというような、力のあり方に対していろんな人がいろんなこと言うじゃないですか?そこらへんどうなんですか?」   I「いろんな見方ができるっていうのもジブリの魅力でしょうね。『もののけ姫』なんて、日本の被差別の問題を集約したものとも見れるし。日本の文化に深層をどんどん送りだしてる」   K「「大人」ということを規定していますよね。さまざまな意味で。「おとなの週末」とかよりもずっと(笑)。通過儀礼なく、アドレッサンスが無制限にまき散らされ、定着している、という状況を整えているとも言える。深層の構造にまで意識的にやっている唯一の集団だからでしょうけれども。規定したり整えたりという強度というのは、そういう方向でしか成り立たない」   I「『もののけ姫』は網野善彦さんの歴史学の影響を受けていると言われますね。常民論とか被差別民の視点とか。もともと『アルプスの少女ハイジ』もレニ・リーフェンシュタールの処女作「青の光」と同じように、差別された山の民を扱ったものですね。「青の光」はチロル地方のユンタという山の少女をレニが演じていて、村人に排除され、水晶の洞窟にひきこもってしまう。ジブリの映画を見ていると、そうした日本人の深いエートスを現代的なオブラートで包みこみながら次々に引きずりだしてるように見えますね。吉本も、芸人はみんなオシャレになってしまったけど、笑いを通してそうした民族精神を表出しているんじゃないでしょうか。2010年代はそうした排除されてた深層の問題が浮上してくるでしょうね。駅ビルを深層のデパートにしてもいい(笑)」  

 

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伊藤俊治(いとう・としはる) 1953年秋田県生まれ。美術史家。東京芸術大学先端芸術表現科教授。東京大学大学院修士課程修了(西洋美術史)。美術史、写真史、美術評論、メディア論などを中軸にしつつ、建築デザインから身体表現まで、19世紀~20世紀文化全般にわたって評論活動を展開。展覧会のディレクション、美術館構想、都市計画なども行う。主な著書に、『裸体の森へ』『20世紀写真史』(筑摩書房)、『20世紀イメージ考古学』(朝日新聞社)、『バリ島芸術をつくった男』(平凡社)、『唐草抄』(牛若丸)などがある。
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菊地成孔(きくち・なるよし) 1963年千葉県生まれ。音楽家、文筆家、音楽講師。85年音楽家としてデビュー以来、ジャズを基本に、ジャンル横断的な音楽活動、執筆活動を幅広く展開。批評家としての主な対象は、映画、音楽、料理、服飾、格闘技。代表的な音楽作品に『デギュスタシオン・ア・ジャズ』『南米のエリザベス・テイラー』『CURE JAZZ』、『ニューヨーク・ヘルソニック・バレエ』(ewe)などがある。著書に、『スペインの宇宙食』(小学館)、共著『アフロ・ディズニー』(文藝春秋)、『ユングのサウンドトラック』(イーストプレス)など。映画美学校・音楽美学講座、国立音楽大学非常勤講師として教鞭もとる。PELISSE www.kikuchinaruyoshi.net/

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