気になるiPad、どうなの3D/菊地成孔×伊藤俊治 対談連載 vol.4 | Numero TOKYO
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気になるiPad、どうなの3D/菊地成孔×伊藤俊治 対談連載 vol.4

多彩な肩書きを持ち、音楽、映画、グルメ、ファッション、格闘技などボーダレスな見識を披露するアーティスト菊地成孔と、写真、先端芸術からバリ島文化まで幅広く専門とする、美術史家にして東京芸術大学美術学部教授の伊藤俊治。アカデミックな2人が、世の中のニュースや日常の出来事、氷山のほんの一角の話題をダイナミックに切り崩しディープに展開する、かなり知的な四方山話。

 

vol.4 気になるiPad、どうなの3D
iPadの出現により出版業界の危機が噂されるが、果たしてどこまで現実となるのか? そもそもiPadの魅力や役割とは? さらに、アバター以来、人気の3D映画にはじまり、家庭のテレビの3D化と、立体視の一般化はどこまで浸透していくか? その鍵を握るiPadと3Dの意外な共通点を検証。

 
批評家の無法地帯。批評の軸はどこへ行く
 
菊地成孔(以下K)「またどんどん雑誌が潰れるじゃないですか」
 
──iPadから復活したりする雑誌もあるって噂も聞きますが…。
 
伊藤俊治(以下I)「『スウィング・ジャーナル』とかもiPadで復活すればいいのに」
 
K「iPadの使い方わかりませんよ、ジャズオヤジは(笑)」
 
I「何となく『スウィング・ジャーナル』とかはディスコグラフィをすぐ検索できて、iPad向きの雑誌のような気がしますけどね」
 
K「『スウィング・ジャーナル』を経由しなくてもディスコグラフィに接触できますからね。ただ、長年の読者としてとても寂しいという気持ちと、自分の作品が無理解と冷遇にあったという恨みから、ざまぁみろ、当然だろという痛快感があって、実に趣深いです(笑)」
 
──でも音楽誌から音が聴こえればいいですよね。
 
K「 ただ、もう10年以上前から、音楽誌はブログによってみんなが批評家である権利を一律手に入れたことで、グラグラになるのは目に見えていましたよね。プロの批評家の存在価値がわからなくなってしまう。ブログが流行り始めた頃に一番疑問だったのは、音楽誌に書いてるプロのライターが自分のブログでも音楽批評してて、どっちなんだっていう。紙に書いたら金がもらえるっていう線引きで、本誌じゃ書けないからここにバーンと書きたいこと書いてある。という感じでもなく、似たようなこと書いてる。メディア感のわからないような人が音楽批評をしてたんだな、ずっとと思いました。ブロガー時代というのをちゃんと準備してあげた格好になりますよね。批評家ってライセンスがあるわけでもないし、特別、試験をくぐってきたわけでもない、CDを今まで1000枚ぐらいだけ聴いただけの音楽ライターの人たちの意見が、紐やホチキスで綴じられてる束なんて誰が買うかって言われたら、どうアゲインストするんだろうかと思っていたら、単にどんどん潰れた」
 
I「そうですね。プロフェッショナルから素人までの間にいろいろな階層があって、だからこそプロフェッシェナルなんだけど。そのことを認識することが難しくなってしまった。書き手もブログとかツイッターとか、いろんなメディアで同じようなこと言ってるし。文章とか批評ってすぐ真似られて、ある発想が出ると、その周辺に同じようなテキストが蔓延するから、なかなか難しいですよね。音楽だったら全然技量が違うって聴くとすぐわかるけど」
 
──肩書きや職業がブロガーというのも一般的になりましたからね。
 
I「職業ブロガーって、それで生計成り立ってるんですか?」
 
K「パリコレのフロントロウをジャーナリストがブロガーに提供したっていうね。でもアメリカの本当にすごく忙しいブロガーが過労死したとか話題になったんですけども、本気でブロガーやろうとすると、もう株屋と同じで夜も寝れなくなるっていう(笑)」
 
I「ラーメンブロガーは、毎日ラーメン5杯くらい食べないとダメなんですよね」
 
K「ラーメンブロガー肝硬変で死んでいく。高血脂で死んでいく」
 
I「みんなに期待されてるからラーメン食わなくちゃ。どう考えてもラーメンって体に悪すぎるでしょ」
 
K「まあ諸刃の刃だよね。毎日ラーメン食ってられるほど元気なんだってね。いろんな考え方ができますよ(笑)。あれももうアルコールと同じで、中毒や依存症として考えてあげればいいと思う」
 
I「うちの学生にも、毎日ラーメン食ってて、便が硬くならないって嘆いている奴がいますが(笑)。でもそうすると批評の軸って、なかなか立てられなくなりますね」
 
K「むしろ、ユーザーが頼りにしてるブロガーってアマチュアの人ばっかりですね。僕が知ってる世界は狭いけど、料理、格闘技、映画っていったら傾聴に値することを言ってるのはアマチュアですよ。そいつの鶴の一声で人が動くという、プロの神通力なんて、今やマスヒロ(山本益博氏)にしか残ってない(笑)。後はみんな食べログ」
 
I「でも食の世界とかもあんなに情報が溢れてると、どうやってみんな判断してるのかな」
 
K「食べログは素人が好きなこと書いてるんですよ。あれは無法地帯です。でも、掲示板的な評価フォームはみんなそうだけど、しっかり読んでいくと、読み師みたいな力が着いてくるの(笑)、星数は3.5ぐらいが一番旨いとか(笑)。こいつがコキ降ろしているということは、オレは好きな店だなとか(笑)」
 
──菊地さんも食べログに書いたりされるんですか。
 
K「さすがに食べログには書かない(笑)。近所の店を応援するために自分のサイトに書くだけです。でも、初めて行く店を食べログ見て参照にするってことはしちゃいますよね」
 
I「知らない店に行くわけだから、何らかの規範を見ようとするよね。失敗したくないし」
 
K「でもあれはひどいよ、本当に。結構野放しよ。特にサービスに関する考え方が日本人はよくわかってないままやっちゃうんで。フランス式のギャルソンでいい味だしてる人とかが、どんどんボロカスに書かれてクビになるっていうひどい状況があるんですよ。どんな店であれ、マクドナルド型のサービスをしないと、食べログのユーザーってサービスされたって書かないんで。とにかくニコニコ笑って優しいのが一番で、それこそもうホスピタリティっていう天下の宝刀でバサバサ切っていくんだけど。別にパリのビストロとか行っても、態度の悪いオヤジがいて、「食うの?」「座れば、そこ」みたいな感じとか、そういうのがよかったわけじゃない。料亭で仲居さんが慇懃すぎるとか、そういう厚みが無くなっちゃって、とにかく全部マクドナルド式にならないと、みんなもうヒステリックに斬っていくっていう。サービス0点!みたいな。食べログの、あの優しくしてくれヒステリーぶりはすごいですね(笑)。赤ちゃんレストラン大会だよ」
 
I「昔、パリのビストロへ入って、メニュー(カルト)を見せてもらおうと思って、カルト、カルトって言ったら、ギャルソンがカルト・ジュエ(トランプ)かって怒ってたけど。あれが懐かしい(笑)」
 
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