自分らしさとは何か? に深く踏み込んだtofubeatsのアルバム『REFLECTION』 | Numero TOKYO
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自分らしさとは何か? に深く踏み込んだtofubeatsのアルバム『REFLECTION』

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、tofubeatsのアルバム『REFLECTION』をレビュー。

自分らしさとは何か? に深く踏み込んだ、内省とダンスフロアの理想的な融合

少し前の作品になるが、最近繰り返し聴いてしまうのが5月にリリースされたtofubeatsの『REFLECTION』。実に約4年ぶりのフルアルバムだ。私事だが筆者はtofubeatsと同世代の、90年代前半生まれ。生まれた時からバブルは弾けていて、はてない成長と未来があった80年代の残滓を街の片隅に嫌というほど見つけながらもその煌びやかな思い出は共有しておらず、その遺産としての均質化と効率化を推し進めた単調な景色とともに育った世代である。神戸のニュータウンというその象徴のような環境で生まれ育ったtofubeatsは、そんな単調な消費社会の空虚さを身をもって実感してきたことだろう。実際、彼の作品にはそんな自意識が滲むことが多く、クラブ・ミュージックにはさほど明るくない筆者でも共感する点は多い。

もっとも彼の初期の作品は、我々バブル後世代が“時代の亡霊”として接してきたコマーシャルなムードの漂う80年代のオマージュ的な作風だったわけだが、2017年の『FANTASY CLUB』からはトラック・メイクのみならず自ら歌唱もするシンガー・ソングライター的な側面を深めてきている。そして今作も、いや今作こそ、これまで以上にパーソナルな趣きが強い。というのも、この4年の間に彼は神戸から東京への移住と、難聴の発症を経験していることが、今作の制作の背景にあるのだそうだ。

冒頭に「Mirror」という曲が収録されているように、テーマは“鏡”。故郷を離れたことと、ミュージシャンとしては致命的とも言える“耳が聴こえない”という状態から、自分を自分たらしめるものとは何なのか? ということに思案を巡らせることとなったのだろうか。オートチューンがかかっているものの<自分の知らない自分なんていないはずだった>と歌い上げられる歌声にはどこか虚しさや切実さが感じ取れ、胸が締め付けられそうになる。とはいえ、今作は決して切なさだけが通底する作品ではない。自らの実存の危機をすぐそばに常に感じているが故の儚さのようなものは確かに作品中について回るが、聴き進めるにつれ、どん底の暗がりから上がっていこうとする、いい意味での楽天的さも感じられるのが魅力的なのである。例えば2曲目に続く「PEAK TIME」では<迫り来る夜を君は打ち返すだろう>とハウス風のトラックに乗せ爽快にテンションを上げてくれるし、軽やかなスネアと厚みのあるキックについ体を動かしたくなる「SMILE」では<自分の服で街を歩いた>り、<遅かれ早かれ行こう>と歌うなど、徐々に自分を取り戻していく様子が見て取れる(アルバムの冒頭で聞こえてくる<OKです>というサンプリングと、後半に登場する同じ<OKです>のニュアンスもまた、どこか違って聴こえてくるような錯覚にも陥るのである)。

サウンドについても、これまで以上に洗練された印象だ。ディープハウスからドラムンベース、バブルガムベース風までとアルバムを構成する曲ごとのトラック自体もかなり幅広く、かつそれぞれの楽曲に対して音数を選び抜いているように感じる。その結果、内省的なムードと擬似的なダンスフロアを両立させ、トラック・メイカーとしての側面とシンガー・ソングライターとしての側面が、極めてバランスよく融合された完成度の高さにも唸らされる。

『FANTASY CLUB』収録の楽曲「SHOPPING MOLE」の<何かあるようで 何もないな>というラインは、個人的に強烈に今でも頭に残っている。バブル後世代として消費社会の空虚さとともに生き、むしろその“何もなさ”を自らのアイデンティティーとして肯定してきたようなところのあるtofubeats。自分を自分たらしめるものとは何か? というテーゼに、さらに一歩も二歩も深く踏み込んだ、今年屈指の作品だと思う。

tofubeats『REFLECTION』

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Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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