注目のシンガー/トラックメイカーermhoiの「夢うつつな」ソロ作『DREAM LAND』
最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、ermhoi(エルムホイ)のソロ・アルバム『DREAM LAND』をレビュー。
エレクトロニックとトライバルが溶け合った、注目のシンガー/トラックメイカーの「夢うつつな」ソロ作
King Gnuの常田大希が率いるバンド、millennium paradeのヴォーカルとしても活躍、その他にも3人組ユニットBlack Boboiのメンバーとして、劇伴作家として……等々、昨今の活躍の幅とともにその注目度が高まっているトラック・メイカー/シンガーのermhoi(エルムホイ)。その活動の充実ぶりを感じさせるソロ・アルバムが満を持してリリースされた。
密室的なムードに包まれたダーク・エレクトロニック作品、といった趣きの強かった約6年前のソロ・アルバムと比べると、セカンド・フルアルバムとなる今作では飛躍的に色彩感あふれるサウンドへと進化を遂げた。前作は楽曲制作を始めたばかりの大学時代に制作したものだそうなので、この6年での技術的な面での向上ももちろんあるのだろうが、それを差し引いてもこの変化はすごい。アルバムの前半ではグッと立体感とアタック感を感じさせるサウンド・メイクでヴィヴィッドで幻想的な世界観へと一気に引き込み、後半に向かうにつれウッドベースやピアノのような生楽器の音色で構築したミニマルなトラックなども登場、少し汚しをかけたような処理をサウンドに施して、瞑想を思わせるようなまどろみの中へと誘っていく。今作はタイトルの通り「夢と現実の狭間」をイメージした作品だそうだが、喩えるなら眠りに落ちかかりヴィヴィッドな夢を見ているレム睡眠の浅い眠りから、ぼんやりとしたイメージの夢を見る深いノンレム睡眠へと移行していくような……というとちょっと具体的すぎるだろうか。
面白いのが、エレクトロニックな作品であるのにどこかオーガニック、かつトライバルな空気をほんのりと感じるところ。よく聴いてみると、アルバムの中のいくつかの曲ではコンガのようなパーカッションの音を効果的に混ぜ込んでいたり、かと思えばマンドリンで奏でられているようなフレーズが彩りを添えていたりと、琴のようなサウンドがアクセントとして効いていたりと、具体的に「どの地域」とは特定できないもののうっすらと異国情緒が漂っていることに気付かされるのだ。あえてこれ見よがしにエキゾチックな演出をしているわけでは全くない。むしろ、「言われてみれば…」というようなレベルではあるが、それでも、今作をなぜか何度も再生してみたくなるのはまさにこうしたさりげないフレーバーが作品にもたらしている複雑さと奥行きゆえなのだろうと思わされる。実は彼女自身、イタリアに留学した際に現地のさまざまな土着の祭りに参加した経験があったり、最近ではルーツであるアイルランドの音楽にも意識を向けていたり(母がアイルランド人とのこと)ということだそうで、今まさに勢いに乗る彼女のバックグラウンドを、今作は改めて知るきっかけにもなった。
その意味でも今作から連想するのは、自身も民族音楽へ関心が高く、過去の来日時に民謡を織り交ぜたDJセットをプレイしていたことでも話題になったビョークだ。メロディののびやかな浮遊感にもその相似を感じ取れるが、とりわけ、エレクトロニックなトラックとオーガニックで民族的なエッセンスが最も見事に調和し、先鋭性と神秘的な生命力を同時に湛えたラストの「Mountain Song」はまるで『バイオフィリア』(2011年)の頃のビョークを思わせる壮大な1曲で、聴くたび心が何か大きな力で包み込まれ、清浄な空気で満たされていくような感覚を味わうことができる。これからますます存在感を増していくであろう彼女から、今年は目が離せなさそうだ。
Text:Nami Igusa Edit:Chiho Inoue