人類への問いかけに満ちた、ceroによる美しき最新曲「Nemesis」 | Numero TOKYO
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人類への問いかけに満ちた、ceroによる美しき最新曲「Nemesis」

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、Cero(セロ)のシングル「Nemesis(ネメシス)」をレビュー。

緻密なコードワークとアンサンブルに潜む、地球と人類の末路への問いかけ

先日封切られた『最後にして最初の人類』という映画を見た。イギリスのSF小説家、オラフ・ステープルドンの1930年の小説をもとにしたもので、原作は『2001年宇宙の旅』にも影響を与えたという作品だ。原作中では、世界戦争、核エネルギーの暴発による地球の荒廃、月の軌道の変化などを経て、人類が地球を離れて金星、そして海王星へと移り住む過程が描かれ、映画ではその終末期がナレーションのみにて語られる。過去の人類(つまり私たち)に対して、今ならばまだ止められる、といった調子で「私たちを助けてほしい」と語りかける未来の人類の声は、どこか寂しげだ──ceroの新曲「Nemesis」。この曲を聴いた時、筆者は自然とそんな人類の未来を想起していた。

2010年前後にシーンに登場したcero。当時は、パーカッションや管楽器なども取り入れた、エネルギッシュでグルーヴィーなアンサンブルと練り込まれたアレンジを武器にしつつも、どうしたって漂う牧歌的でチャーミングな“手作り感”もまた、リスナーをワクワクとさせてくれるバンドであった。転機になったのは、2015年のサード・アルバム『Obscure Ride』、そして、2018年の4枚目『POLY LIFE MULTI SOUL』。この2作でぐっとソング・ライティングが洗練され、今やリズムやコードワークの複雑で緻密な構成力こそが、ceroの代名詞に。本曲もその流れを受けた楽曲で、特に舌を巻くのがやはりコードワーク。Aメロ・サビ……といったわかりやすい展開がなく、ほぼ2つのパートを繰り返すのみのミニマルな構成の楽曲ながら、冒頭をはじめとして、楽曲中に瞬間的な転調を細かく挟み、それらを滑らかにつないでいくことで、優美さと聴き手を飽きさせないスリルを両立させているのは、やはりさすがだ。巧みで緻密なハーモニーで楽曲の厚みを支える、小田朋美、角銅真実が紡ぐ女声コーラスも絶妙の一言。

また、「ポン・ポン……」とシグナルのように鳴るビートや、スペーシーなSEは宇宙的なイメージをもたらしており、浮遊感 / 無重力感のあるコードワークも相まって、この曲が宇宙への旅を表現していることを暗示している。だがよくリリックを聴くと、<太陽は翳った><最後の便が発った>とあるように、実は決して楽しい宇宙旅行ではないのではないか?ともふと思わされるのだ。<珊瑚礁の死んだ>地球を離れて、新たな土地へと去ろうとする様子は、まるで前述の『最後にして最初の人類』の描く人類の末路とも似ているような気がする……こんなにも優美な楽曲なのに、どこか寂しい気持ちになるのはそのせいだろうか。

“Nemesis”というのは、実は“天罰”という意味だと知って、ちょっとゾッとした。故郷の星を破壊し続ける私たち人類は、いずれこの曲のように、住む場所を自ら追われることになるのだろうか。その時「また会おう」と言いながら、後に生きる者たちに希望を残しておくことができるのだろうか。美しく、刺激的ながらも、人類への問いかけに満ちた1曲である。

cero
「Nemesis」
2021年8月6日デジタルリリース
各種配信はこちらから

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Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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