成熟と変化を感じさせる、ジョルジャ・スミスの新しいプロジェクト『Be Right Back』 | Numero TOKYO
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成熟と変化を感じさせる、ジョルジャ・スミスの新しいプロジェクト『Be Right Back』

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、Jorja Smith(ジョルジャ・スミス)の8曲入り新プロジェクト『Be Right Back』をレビュー。

正統派ながら「優等生」を逸脱する、UKネオ・ソウル・シンガーの成熟と変化

1997年生まれで、わずか20歳でデビューを飾った、UKネオ・ソウル界の若手本格派シンガー、ジョルジャ・スミス。エイミー・ワインハウスやアデルなどに影響を受けたというのも頷ける、ついその若さを疑ってしまうようなスモーキーな歌唱に、風格と早熟さを感じさせる、ジャジーでスムースな完成度の高いソングライティングを引っさげてシーンに登場した彼女にはUKのみならず世界中で感嘆の声が上がり、グラミー賞の新人賞にもノミネートされたことも記憶に新しい。とはいえ、今改めてそのデビューアルバム『Lost & Found』(2018年)を聴いてみると、その声はまだ細く繊細で、不安定な憂いを湛えたようなメロディやリリックにもその若さゆえの「青さ」が滲みでていることに気づかされる。もっとも、「Blue Light」というデビュー曲は、黒人に対する警察の暴力を歌った楽曲であり、BLMとも共振する極めて思慮深いナンバーではあったのだが。

そのデビューアルバムのリリース後は、今日に至るまで、他アーティストとのコラボでの活動が目立ったジョルジャ。決して寡作というわけではないようなのだが、『Lost & Found』も16~18歳までの間に書き溜めた曲をまとめたものということだから、自分が納得のいくまで曲を温めるタイプなのだろう。ほぼ3年を経ての、久々の新作となった今作『Be Right Back』は、アルバムではなく、EPと位置付けられる作品だ。「新しいプロジェクト」とも称されている今作は、アルバムには収録できないような、これまでの彼女のイメージとは逸脱した楽曲を集めたものなのだそうだが、その点、いわゆる「UKネオ・ソウルらしい」一定のトーンで保たれた前作アルバムに比べ、はるかに多面的で、そして成熟を感じさせる作品となっているのが面白い。

まずはビートの変化が大きい。生ドラムの演奏で聴かせる楽曲の多かった『Lost & Found』に対し、打ち込みのビートの存在感が増した今作。波打つようなサブベースを効かせた冒頭の「Addicted」などは、これまでの楽曲に比べぐっと奥行きが感じられるように。また「Bussdown」ではUKガラージ風に始まり、レゲエのリディムを思わせるビートへと展開、さらに「Digging」にはラテンのリズムであるクラーベのようなビートまでもを感じられ、トラックの躍動感が格段にアップ。こうした南米や南米由来の音楽への接近は、ジョルジャ自身がジャマイカ系の父(元・ミュージシャンでもある)を持ちその影響を受けてきたからだとは思うが、しかしながらそれをこれまでになく明確に打ち出したのは、彼女がデビュー時に纏うこととなった正統派なイメージが引き寄せた、ある種の「優等生」的なイメージを逸脱しようとする意図もあるのかもしれない。

ヴォーカルもまた深みを増しているだけでなく、「Gone」のようにどこかエキゾチックにたゆたうコーラスを使ったり、前述の「Bussdown」では同郷のフィメール・ラッパー、shayboとの掛け合いの中でラップのように変化する部分が現れていたりと、決して媚びることのない表現力も多彩に広がっているのが圧巻だ。ジャケットのメインカラーにもその違いが投影されているようにも思うが、デビューアルバム『Lost & Found』(2018年)が「青」だとすれば、今作『Be Right Back』のイメージカラーはやはり「赤」だろうか。すでにセカンド・アルバムのリリースを来年に控えているというジョルジャだが、今作を聴く限り、次作への期待も自ずと高まるというもの。オーセンティックなイメージに留まらない、表現者としての一層の成熟と変化、そして飛躍を望んでやまない。

Jorja Smith
『Be Right Back』
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Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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