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STUTS & 松たか子 with 3exes「Presence I(feat. KID FRESINO)」

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、STUTS & 松たか子 with 3exes「Presence I (feat. KID FRESINO)」をレビュー。

過去を噛み締め新しい朝を生きる、“かつて若かった人たち”の人生歌

今クール(2021年4月期)のテレビドラマも折り返し地点に差し掛かってきた。中でも、つい「あるある」と共感してしまう絶妙な瞬間を切り取る軽妙洒脱な会話劇、小気味良いテンポ感と大胆さが光る巧みな構成に中毒者が続出しているのが、「大豆田とわ子と三人の元夫」(関西テレビ、フジテレビ系)である。随所に張り巡らされた伏線と、その捉え方を見る者の想像に委ねる脚本は、さすがやはり坂元裕二という作風の今作。そして坂元作品との魅力と言えば、「音楽」もまた、切っても切り離せないポイントだ。

2017年の「カルテット」(TBS系)でも、キャストが歌唱するエンディング・テーマ(作詞曲は椎名林檎)が話題となったが、「大豆田~」もまた、ドラマ本編の続きかあるいはMVのようなエンディング・ロールがひとつの見所となっている。そのバックに流れる楽曲がこの「Presence I (feat. KID FRESINO)」だ。楽曲を演奏しているのは、MPCプレイヤー / ビートメイカーのSTUTS。自身名義での作品も多数発表しながら、PUNPEEをはじめ他アーティストとのコラボも目立つキーマンだ。星野源の「アイデア」にも参加していた、と言えばピンと来る人がいるかもしれない。ちなみに、MPCとは、音源のサンプリングとシーケンサー(自動演奏機能)を兼ね備えたパッド型の電子楽器のこと。STUTSはこれを使ってビートを人力で叩きながら、他のサウンドを同時に重ね合わせ、1人で演奏をしてしまうプレーヤーだ。実際この楽曲を聴いてみると、パッドを叩きながら作る彼のビートにはただPCでプログラミングしたのでは生まれない僅かな揺れがあり、温かみを感じるサウンドづかいも相まって電子音ながらも人肌を感じさせ、そんなところにどこかノスタルジーさえも覚えてしまう。

コーラス(サビ)部分を歌うリードヴォーカルは主人公を演じる松たか子だが、その手間のヴァース(サビ前)部分でラップを聴かせるアーティストが各話ごとに異なっているのも面白い試みだ。2話~5話では、BIM、NENE、Daichi Yamamoto、T-Pablowが登場、各話の内容ともリンクするリリックを繰り出していたことからも、音楽がドラマ本編を紐解き、補完するキーであることがうかがえるだろう。なお、現在音源としてリリースされているナンバリング“Ⅰ”のバージョンで、フィーチャリングされているのは、1話、そしてターニングポイントとなる6話で登場した、KID FRESINO。英語と日本語を織り交ぜた切れ味の良いラップは、物語の推進力としての役割をも果たしているように思う。

また、本曲の作詞曲を手がけたのは、シンガーソングライター・butajiだ。切なげなメロディ・ラインを引き立たせたメロウなR&B風のソング・ラインティングはどこか90年代のディーヴァ・ポップのような甘やかさで、さながらトレンディドラマのようだし、そしてまさしくその時代に歌手デビューした松たか子がそれを歌うからこそ、みずみずしくも聴こえてくる。ただ一方で、リリックに綴られているのは、「過去へのほろ苦い想いを噛み締めながら、それでも新しい朝とともに続く人生を肯定したい」という、ある程度歳を重ねた主人公(と元夫たち)の心情なのである。よく考えてみると、このメロディとリリックの落差こそ、実にリアルで生々しくはないだろうか? つまりこのドラマは、かつて若かった人たちに送る、“現代のトレンディドラマ”なのだ。そんな特徴こそが、同世代の視聴層の人たちにこの作品が沁みる理由なのかもしれない。

衝撃的な展開で視聴者を驚かせた、第1章完結となる6話を経てドラマはいよいよ後半戦へ。劇中では「人生には失敗はあるけど、失敗した人生はない」と語っていた大豆田とわ子。取り戻せない別れと、新しい出会いの予感は、主人公たちをどこに導いていくのだろうか。ぜひ、ドラマを彩る本曲とともに堪能してほしい。


STUTS & 松たか子 with 3exes
「Presence I feat. KID FRESINO」
2021年4月14日配信限定リリース(ソニー・ミュージックレーベルズ)
各種配信はこちらから

「ヌメロ・トウキョウ」おすすめミュージックリスト

Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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