ファッション界も注目するシンガーソングライター、Arlo Parksのデビュー作『Collapsed In Sunbeams』 | Numero TOKYO
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ファッション界も注目するシンガーソングライター、Arlo Parksのデビュー作『Collapsed In Sunbeams』

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、Arlo Parks(アーロ・パークス)のニューアルバム『Collapsed In Sunbeams』をレビュー。

カジュアルな親密さで人の心をやさしくほぐす、話題のシンガーソングライター/詩人

短髪に、スマートに着崩したスウェットやスラックス姿がトレードマーク。ひとたび歌えば、小鳥のさえずりのような可憐なソプラノ・ヴォイス。デビュー前からGucciのプロモーションドラマに主演するなど、今、音楽シーンのみならずファッション業界からも注目を集めているのが、ウェスト・ロンドン出身で、ナイジェリア、チャド、フランスのミックスの、現在20歳のシンガーソングライター、アーロ・パークスだ。デビューアルバムであるこの『Collapsed In Sunbeams』を先ごろリリースしたばかりのアーロ。だが、彼女が今世間から求められているのは、そうしたファッショナブルな一面からだけではなさそうだ。彼女のもつ共感と癒しの力──それが注ぎ込まれた彼女の音楽は、多くの人に寄り添うものとなっているのだろう。

イギリスでは、彼女の特集番組が放送されるなど、早くもスターダムな活躍を見せているアーロ・パークス。その音楽は、一聴するとなんてことはないベッドルーム・ポップやネオ・ソウルに聴こえるかもしれないが、そのサウンド作りは実にやわらかく丁寧。ゆるくリバーヴのかかったギターを軸に、彼女の透き通ったソプラノ・ヴォイスが丁寧にレイヤードされた、なんとも言えない幸福感の溢れるサウンドはある種、ヒーリング・ミュージック的だと言ってもいいかもしれない。一方で、ビートメイクから音楽制作を始めたというだけあり、ブレイクビーツを実際に生ドラムやドラムマシン叩き直したようなビートも耳を引く。その影響源には、ポーティスヘッドらトリップホップの影響もあるらしく、ユーフォリックなウワモノのサウンドとドライでカジュアルなビートとの組み合わせが個性的で面白い。

実は、彼女が音楽を作り始めたのはごく最近のことらしく、それまでは自作の詩を書いていたのだそう。その詩にビートをつけ始めたのがミュージシャンとしての第一歩というから、本来はシンガーソングライターという呼び方と同時に、彼女のことは詩人と呼ぶのがふさわしいのかもしれない。実際、この『Collapsed In Sunbeams』は、彼女のポエトリーリーディングから始まるのだが、それだけでなく彼女の書くリリックはいずれも、ごく個人的な経験を、文学的な言葉づかいでポツリポツリと書きつけた日記のような手触りのものになっていて、固有名詞も多く登場する。けれど、だからこそ、それはまるで1日の終わりにその日あったことをおしゃべりし合っているかのような親密さを伴っていて、決して他人事ではないように感じるのである。

彼女自身、昔から他人への共感力が高かったと語るが、そうした彼女の資質が、やわらかなサウンドやカジュアルなビート、親密さを感じさせる詩的なリリックの表現を産み落とし、それを受け取る少しお疲れ気味な現代の私たちの心を、やさしくほぐしてくれるのだろう。それが、今彼女が引っ張りだこになっている理由なのではないだろうか。

Arlo Parks 『Collapsed In Sunbeams』
世界同時発売、日本盤ボーナス・トラック5曲収録
¥2,400(ビッグ・ナッシング / ウルトラ・ヴァイヴ)
各種配信はこちらから。

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Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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