夏の終わりのマジックアワーに聴きたい。ウォッシュト・アウトの新アルバム | Numero TOKYO
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夏の終わりのマジックアワーに聴きたい。ウォッシュト・アウトの新アルバム

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、Washed Out(ウォッシュト・アウト)の最新アルバム『Purple Noon(パープル・ヌーン)』をレビュー。

10年の時を経て、耽美で妖しげに進化した、真夏の夜のチルウェーブ

“チルウェーブ”という言葉とそれが指し示すジャンルがブームを巻き起こしていたのが、2010年頃のこと。よく考えてみると、当時からもう10年近い年月が経っていることには、素直に驚かされる。80年代のイタロ・ディスコやユーロビートを思わせるビートと、ドリーミーだがどこかチープなシンセのサウンドが、文字通りゆるりとチルで夢見心地なダンスフロアに誘う、チルウェーブ。インターネットがそのブームの発端となっただけあり、その特徴はローファイ・ヒップホップといった現代のインターネットやYouTubeを起点として生まれたジャンルとも地続きで、だからこそ今では“チルウェーブ”という音楽はすっかり当たり前のものとして、普段音楽を楽しむ私たちの間に定着していることに気づかされる。

アトランタ出身のトラックメイカー/ソングライターのウォッシュト・アウトことアーネスト・グリーンは、トロ・イ・モアらと並び、そんなチルウェーブのムーブメントの立役者としてシーンに登場したアーティストだ。今作『Purple Noon』は彼の4枚目のアルバムだが、ヒット作となった2011年リリースのファーストアルバム『Within and Without』と通じる、原点回帰といった趣きの作品となっている。ヴィヴィッドなサウンドながらスローなテンポで繰り返されるファンクビートに、幻想的なサウンドが飛び交う、まさにチルウェーブの王道を行くトラックメイク。だが、デビュー作と異なるのは、メランコリックなムードが漂っていることだ。サウンドのアタック感を控えめに、抑制されたミックスは大人っぽく、10年間の彼の成長を感じる。「Time to Walk Away」で聴ける東欧~地中海音楽のようなエキゾチックなメロディや、「Reckless Desires」での琴のような中華風のサウンド、レゲエのリディムのような「Paralyzed」のドラムのフィルインなど、異国情緒を覗かせるアレンジも作品の耽美さに拍車をかけている。

収録曲「Too Late」のMVはイタリアでの撮影を予定していたが中止となり、ファンから募った海辺の映像を使って作られたものなのだそう。また、アルバムのタイトルの“Purple Noon”とは、アラン・ドロン主演で有名な映画『太陽がいっぱい(Plein Soleil)』(1960年)の英語訳で、今作のイメージも、舞台である南イタリアの海を意識したものだという。ただ、“Noon=正午”といえども今作のイメージは、夕暮れ時を思わせる。実際、リリース記念ライブのYouTube配信は、夕暮れの海辺をバックに行われ、夕日が落ちとっぷりと夜が暮れていく風景は、ぴったりと作品に寄り添い、演奏を彩っていたのだ。そんなマジックアワーに耽りながら今作を聴いたならば、過ぎ去っていく、刹那の真夏の夜の夢に誘われていくことだろう。

Washed Out(ウォッシュト・アウト) 『Purple Noon(パープルヌーン)』
¥2,400(ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ)
2020年8月7日世界同時リリース
解説/歌詞/対訳付、日本盤のみボーナス・ディスク封入(初回盤のみ)

bignothing.net/

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Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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