ジェシー・ランザの最新作、熱くて涼やかなダンス・ポップでチルな夏を
最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、Jessy Lanza(ジェシー・ランザ)のアルバム『All the Time』をレビュー。
真夏の夕べの海岸のような、熱くて涼やかな、ダンス・ポップ
うだるように真夏の太陽が照りつけ、身体も溶けてしまいそうな灼熱の陽気が続くこの頃。思いっきり身体を動かしたいけれど、できれば心地よく涼しい風の通り抜けるところで──。そんな場面に聴きたくなるのが、カナダはオンタリオ州、ハミルトン出身のトラックメイカー/ソングライターのジェシー・ランザのアルバム『All The Time』だ。今作の制作はニューヨークで行なったそうだが、現在はサンフランシスコに住んでいるという彼女。そんなベイエリアへの移住にも納得の、涼やかな風を感じさせるようなダンス・ポップ作となっている。『All The Time』は、ジェシー・ランザにとって3枚目のアルバムだ。UKダブステップの代表格、Burialなどを擁するレーベルである《Hyperdub》のアーティストとあって、これまでの作風は硬派なアンビエント・テクノ・チューンという印象が強かった彼女。今作は、《Hyperdub》らしい音数や音のレンジの幅を抑えた知的なクールさを宿すトラックメイクが息づきながらも、キャッチーなメロディが耳に残る、ポップな作品となっている。つい腰が動いてしまうようなファンキーなグルーヴを繰り出すベースラインとは裏腹に、クラップやハイハットのサウンドのリズムセクションは軽やかで、リゾート感たっぷり。熱さと涼やかさが同居したトラックを聴いていると、次第に、真夏の夕べの海岸で踊っているかのような気分にもさせられる。「Lick In Heaven」といった前半のダンス・チューンから、次第に「Like Fire」、「Baby Love」といったテンポの遅いR&B風の楽曲を聴かせる後半への、緩急のある流れも心地いい。
そんなご機嫌なバレアリック・ハウス風のトラックの中で使われているサウンドは、よく聴いてみると、80年代へのオマージュを思わせるものばかりで、「かつてイビサのどこかでかかっていたのではないか……」と思わせる、さりげないノスタルジーも漂わせているのも興味深い。アンビエンスのきいた、控えめながらも煌びやかさを添えるシンセのサウンドに加え、ミニー・リパートンのようなかわいらしいウィスパー気味のジェシーのヴォーカルを聴いていると、意識も「いま、ここではない、どこか」へ連れていかれるよう。ワンマイルの範囲の中で過ごす日も多いこの夏だが、今作をリピートしたなら、チルなリゾート感を存分に味わうことができそうだ。
Jessy Lanza『All The Time』
2020年07月24日リリース
輸入盤 ¥2,000(Hyperdub)
http://beatink.com/
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Text:Nami Igusa Edit:Chiho Inoue