シュールで混沌としたSFのような世界を、チューン・ヤーズとともに | Numero TOKYO
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シュールで混沌としたSFのような世界を、チューン・ヤーズとともに

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、Tune-Yards(チューン・ヤーズ)の最新シングル「nowhere, man」をレビュー。

こんなSFみたいな世界だからこそ味わえる、シュールで混沌とした楽曲とMV

「来年にはパンデミックが世界中を覆って、コミュニケーションは急速にオンライン化が進み、大勢で集まることが制限されている……」なんて、去年の今頃の自分が聞いたなら、にわかには信じがたいだろう。今まさに私たちが住んでいるのは、まるでSF映画みたいな世界。そんな奇妙な感覚にぴったりハマる曲に出合った。カリフォルニアのオークランドを拠点に10年近く活動してきている、一風変わったバンド、Tune-Yardsの新曲「nowhere, man」だ。

野趣あふれる、アフリカンやカリビアンなリズムやメロディを取り入れながらも、そこにエレクトロニックな音をぶつけるように作り上げる、実験的な音楽スタイルがインパクト大な彼ら。中心人物であるメリル・ガーバスは、ライブではマイクやウクレレをルーパーにつなげて、自らの出した音をミニマルに重ね、自在に曲を紡いでいくようなパフォーマンスが圧巻だ。バキバキに骨太でダンサブルなベースは、バンドのパートナであるネイト・ブレナーによるものだが、先ごろ米名門レーベル《Sub Pop》とサインした日本人バンド、CHAIがリスペクトを公言していることも頷けるサウンドだ。

この「nowhere, man」は、2018年以来の新曲(映画のサウンドトラックを2019年にリリースしている)。ファンキーかつブレイクビーツのようなドラムと深く歪みのかかったアタック感の強いベースがプリミティブで強烈な印象を残し、ブルージーなピアノのフレーズやヴォーカルやノイズのコラージュがカオス感を演出している。まさに、野生的なのに、どこか混沌としたSF然としている楽曲に一気に惹きつけられる。<Nowhere to run / Nowhere to hide>と繰り返す、耳に残るリリックは、「この世界にはもう後がない」とでもいうようなブラックなユーモアにも思えてくる。

MVもかなり面白いものになっている。実写とアニメーションを組み合わせたコラージュアートのような映像で、シュールなSFのような世界観。作者は、ビートルズの映画「イエローサブマリン」や70年代から80年代の東欧のダークなアニメに影響を受けたとしているが、ダダイズムの影響を強く感じさせもする作品だ。人間の理性を疑い、既成の秩序や常識に対する否定を掲げたダダイズムの思想は、これまでの既成概念が通用しない、今の世界のフィーリングとも妙にフィットする。とはいえ、どこかクスッと笑えてしまうようなコミカルさも秀逸。こんな混沌としたSFみたいな世界だからこそ、聴けば聴くほどその中に吸い込まれていきそうな楽曲と映像だ。

Tune-Yards 「nowhere, man」
2020年9月22日リリース

各種配信はこちらから

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Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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