変わりゆく世界で、そっと心に火を灯すような折坂悠太の新曲「トーチ」 | Numero TOKYO
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変わりゆく世界で、そっと心に火を灯すような折坂悠太の新曲「トーチ」

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、折坂悠太の配信限定シングル「トーチ」をレビュー。

人の力ではどうしようもない、次の世界での暮らしに火を灯すうた

草の根的な活動で「うた」を紡いできたシンガーソングライター、折坂悠太。幼少期をロシアやイランで過ごしたからなのか、あくまでポップスでありながらも、ブルースをベースに民族音楽的なギターの奏法やアレンジを取り入れた、異国情緒の漂うソングライティングが非凡な存在だ。昨年の月9ドラマの主題歌への起用などで一気に広い世界へそのうたが届くようになった彼が、「トーチ」という曲を新たに世に送り出した。

折坂悠太名義ではあるが、今回は、同世代のシンガーソングライター、butajiが作った曲に折坂が歌詞をつけるかたちで完成した楽曲なので、民族音楽的な意匠よりも、都会的なスウィート・ソウルといった趣きの、甘く切ないコードワークが耳を惹く。ただ、耳触りは良いがこの曲は、butajiが台風の経験をもとに「人の力ではどうしようもない」自然災害を題材に作ったという曲なのだそう。演奏には折坂の「重奏」と呼ばれるバンドのメンバーである京都の音楽家たちが参加しているが、ピアノとギターのシンプルな演奏を引き立たせるような穏やかなバンドアレンジは、まるで災害が過ぎ去った後の街に取り残されたような情景を表現しているかのようにも思えてくる。

折坂の淡々とした言葉と歌=「うた」も、そんな題材に応える。がらりと一変した世界を見渡しながらも、<倒された標識示す彼方へ>と歌われるように、そこから始まる全く別の世界へも祈りを捧げるような彼のうたには、奇しくも、感染症の流行によって生活や価値観が根本から変わり始めているこれからの世界で、暮らしを作っていかなくてはいけない私たちの姿も透けて見えてくる。レコーディング日は2月9日とあるから曲ができたのはもっと前のことだろうが、自分自身の暮らしに向き合う時間が増えている今現在の生活にさえも寄り添うような「トーチ」は、その名の通り、今の人々の心にこそポツリと火を灯してくれる。

折坂悠太「トーチ」
配信限定2020年4月1日リリース
各種配信はこちらから

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Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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