ますますサイケデリックで今っぽい。テーム・インパラの4thアルバム | Numero TOKYO
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ますますサイケデリックで今っぽい。テーム・インパラの4thアルバム

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、Tame Impala(テーム・インパラ)通算4枚目となるアルバム『THE SLOW RUSH』をレビュー。

様々な時間軸が交錯しながら流れていく、現代の写し鏡

幻夢か、それとも悪夢か──。オーストラリアのサイケデリック・ロックバンド、テーム・インパラの4thアルバム『The Slow Rush』は、中心人物のケヴィン・パーカー曰く「時の流れを表現した」作品なのだという。前作『Currents』(2015年)から、70年代のウエスト・コーストを思わせるAORをオマージュしたメロディ、コードなどが流れ込んでいた彼らの楽曲だが、今作ではより一層その方向性が深められている。だが、前作から5年あまりの時が経過した今、それらが音楽シーンに持つ意味は大きく変化した。ヨット・ロック~シティ・ポップのブームによってそうした音楽たちは新たな新鮮さを伴って、今の時代の主流にすらなっているのである。

とはいえそんな現象には、時間軸が歪みを感じることもある。それを表現するかのように、今作のサウンドはこれまで以上に“サイケデリック”だ。極端に変調された音の波のレイヤーは今まで以上に濃密で、どこかドロドロとゆっくり流れていくような質感を持っている。それはまるで、前に進んでいるようでいて私たちの興味が過去にばかり注がれ、時が止まっているような感覚を抱く時の気分のようでもあり、あるいは逆に、あまりに流れの早い現代という時代の中で自分だけが止まっているのではないかという悪夢的な錯覚のようでもある。

彼らの原点である60年代サイケ・ロックのリバイバルを下地に、70年代的なノスタルジックで甘美なコーラスワーク、ディスコ・ファンク的なビート、シカゴ・ハウス風のピアノリフ、そして90年代R&B風のメロディなど、影響源となった音楽的にも様々な時間軸が交錯する今作。そして<かつてのような若さはないが / そろそろ現実を見つめよう>(「It Might Be Time」)という歌詞にふと我に返る。前に後に入り乱れながら流れていく時間の中で「今」を確かめるのに、今作はある意味最適なのかもしれない。


Tame Impala『THE SLOW RUSH』
国内盤 ¥2,500(Caroline International/2020年2月14日リリース)

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Text:Nami Igusa Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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