マイカ・ルブテの新作『Numbers』はスパイスの効いたポップ・ソング
最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、Maika Loubté(マイカ・ルブテ)の『Numbers』をレビュー。
シンガーソングライター、トラックメイカーとして、国内外のさまざまなフィールドで活躍するマイカ・ルブテ。彼女が偏愛するアナログシンセを使った色鮮やかでエモーショナルなポップソングは、日本を飛び越えてアジアやヨーロッパなど世界中で愛聴されている。今年は台湾やスペインでのライブをはじめ、Netflixで全世界に配信されているアニメーション『キャロル&チューズデイ』への楽曲提供、新宿のファッションビルFlagsのムービーや街頭ビジョンでの起用、3年ぶりのアルバム『Closer』のリリース、渋谷WWWでの初ワンマンライブ、そして『Closer』のアナログレコード発売など、トピックの多い一年を過ごした彼女。
今夏に発売されたアルバム『Closer』は、耳に残るメロディラインと少年のような歌声、どこか懐かしくざらつきのある質感のシンセ・サウンドはそのままに、より彼女の芯の部分に触れるようなパーソナルな世界観が広がった、静かな感動に満ちた一枚。何も考えずに心地よく踊れるアルバムであると同時に、内省的でありながらもポジティブな言葉たちが背中を押してくれる。
「“Closer” は直訳で「もっと近づく」という意味で、何かに接近したときにだけ見えてくる、本質みたいなものをテーマにしました。表面からは見えづらい、自分の中の認めたくない感情、言いようのない肯定的な気持ち、このアルバムのジャケットぐらいの近さでしか感じられない何かを、作品で伝えようとしました。物事の裏側を想像して、もっと接近して確かめたい、確かめてみてほしいという想いも込めています。言葉にするのはあまり得意ではないですが、アルバムの中で表現できたと思います。──(Maika Loubté)」
そして2019年の締めくくりとなった11月リリースのシングル『Numbers』。「数字」をテーマに制作したというこの曲は以前、agnès b銀座店でのクリスマスイベントに出演した際に無料配布されていたデモ盤を完成させたもの。ホリデーシーズンにぴったりの煌めくポップサウンドの中に、ドキッとするような皮肉やスパイスを効かせた寓話のような一曲。「魔物は数を数えるのが好き」という日本やヨーロッパの伝承をアイデアに、普遍的なテーマを見つけるのも彼女らしい。
「『Numbers』は、“魔物(鬼やドラキュラ)は数を数えるのが大好き”という言い伝えが色々な国にあることを知ったときに、不思議だなぁと思って作った曲です。節分の豆まきも、夜に魔除けで家の外に麦をばらまくという東欧の古い風習も、魔物が豆など細かいものを数えている隙に逃げられるようにするためだとか。私たちにとって数字は信じられる存在で、生活とも切り離せないものですが、数字にとらわれすぎると身を滅ぼすこともあります。魔物も人間も、数字には弱いという哀しさと可笑しさを曲に詰め込みました。──(Maika Loubté)」
『Numbers』は新宿駅東南口にある「Flags」の秋冬ファッションムービーのテーマソングとして起用され、10月15日より約3ヶ月にわたりFlagsビルの街頭ビジョンなどでパワープレイされている。映像作家のReina Hamaneが監督を務めたこのムービーでは、歌詞に登場する悪魔の役としてマイカ・ルブテ本人も特別出演。最新アルバム『Closer』から先行配信された『Nobara』が話題を呼んだ春夏バージョンに引き続き、Flagsムービーへの楽曲起用は二期連続となるそう。
彼女を語るうえで欠かせないのは、「ミックス」というキーワード。フランス人の父と日本人の母を持つルーツ、子供の頃から日本、パリ、香港などさまざまな国で暮らしてきた経験、クラシックやポップスといったミュージシャンとしてのアイデンティティ、フランス語、英語、日本語などが自由に混ざり合う歌詞世界(ホームページに載っている和訳を読むのもおすすめ)。音楽と親和性の高いファッションブランドや企業とのコラボレーションなども含めて、マイカ・ルブテの活動の中には数え切れないほどの魅力的な「ミックス」を見つけることができる。
電子音を使ったエレクトロ・サウンドを奏でる一方で、アナログシンセを愛用し、レコード、カセットテープ、ZINEといったパッケージを好むコントラストも彼女の特徴。大きな組織に所属しないインディペンデントなスタイルも、風通しがよく自由なクリエイションを生んでいる。
種類・性質の異なるものを組み合わせてひとつのものとすること。混ざり合うこと。彼女の言葉で言えば、「ビタミン豊富で栄養たっぷりのミックスジュースみたいなポップス」。その一杯のジュースの中には、甘かったり酸っぱかったり苦かったりする、複雑な感情やストーリーが混ざり合っている。あらゆるものが分断されていく時代のなかで、彼女の音楽とスタイルは、ポジティブでエネルギーに満ちた「ミックス」を感じさせ続けてくれる。
Maika Loubté『Numbers』
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Text:Mayu Sakazaki