静寂が心地よい、FKJの最新作『Ylang Ylang EP』 | Numero TOKYO
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静寂が心地よい、FKJの最新作『Ylang Ylang EP』

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、FKJの『Ylang Ylang EP』をレビュー。

自然と一体化しながら紡がれた、オーガニックでセンシュアルな夜の静寂の音楽

フランス出身のマルチ奏者/プロデューサーのFKJ。今年のサマーソニックにも出演した、ここ日本でも人気者の彼の新作EPのタイトルは『Ylang Ylang EP』。イランイランは、精油やアロマオイルに利用される南国の花でその官能的な香りから女性の魅力を高めるとされるが、今作もまたそれになぞらえてか、魅惑的な雰囲気の楽曲が並んでいる。この“Ylang”というのは、実はFKJ自身が数か月を過ごしたフィリピンの地名なのだそう。電気もないジャングルの中にスタジオを設置し、夜の間だけ発電機を使って音楽制作をしていたそうで、そんなシチュエーションも手伝ってか、今作の楽曲のセンシュアルなタッチの音色は、1日を終えた夜の時間によく似合い、聴き手の心に静寂をもたらし、やさしく癒してくれる。表題曲「Ylang Ylang」へと続く冒頭3曲でリラックスしたのち、少し強めのビートとシンセやサックスの刺激的なソロが印象的な後半の3曲を通して、だんだんと身体に熱を取り戻していくような作品構成も見事だ。

ところで、今作の「インフラを絶ったフィリピンの自前のスタジオで制作した」というエピソードはまるで、今年デビューアルバムをリリースしたフィリピン在住の女R&Bアーティストの ((( O )))こと、June Marieezyとそっくり……いやそのものと言っていい。それもそのはず、彼女はFKJの出世作『French Kiwi Juice』(2017年)に参加したことで注目を集めた逸材。そして、今作には表題曲「Ylang Ylang」に参加もしている。FKJも彼女の、周りの自然環境と一体化した音楽を作る制作スタイルにダイレクトに影響を受けたのだろう。打ち込みを使いながらもオーガニックなニュアンスがたっぷり織り込まれている今作は、フレンチ・エレクトロ、R&B、ジャズ、チルウェーブといった彼の今までの枠組み以上に、よりアンビエントに接近したといってもいいような、FKJの新たな魅力が開拓されたEPだ。

FKJ 『Ylang Ylang EP』
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Text:Nami Igisa Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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