上坂あゆ美とひらりさの”本音むき出し”の魂の往復書簡『友達じゃないかもしれない』| Numero TOKYO
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上坂あゆ美とひらりさの”本音むき出し”の魂の往復書簡『友達じゃないかもしれない』がすごかった

歌人の上坂あゆ美さんと文筆家のひらりささんの往復書簡連載を書籍化した『友達じゃないかもしれない』が中央公論新社より発売に。気軽な気持ちで読み始めたのに、二人の文章の鋭さ、熱さよ! 「火の玉往復書簡」というキャッチコピーに違わない燃え盛る火の玉のような魂のやり取りに、強烈なパンチを食らったような衝撃と、ああこういう本が読みたかった!という爽快さでニヤニヤが止まりません。

みなさんは、友達と”魂のやり取り”していますか? 魂というと厨二病みたいなんですが、思想や信条、価値観などなど、根底にあるものの話です。私は、悩み相談ベースなどで断片的に話すことはあっても、大人になればなるほど考えの根底にあるものを丸ごとさらけ出すのは難しいなと感じています。体力も、時間もいることだから。

だからこそ作者の魂が投影された小説や短歌や映画、音楽に触れることが大好きだし、それをだれかとシェアしたり、感想を言い合ったりすることで間接的に魂の交換をしているのだと思います。そしてまさに「魂全力投球」みたいな上坂さんの短歌やエッセイ、ポッドキャストに惹かれていました。(歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』、エッセイ集『地球と書いて〈ほし〉って読むな』、ポッドキャスト『私より先に丁寧に暮らすな』、どれも魂むき出しです)

ところが上坂さん、人に対しても「魂全力投球」をするんですね…!

書籍の元になった読売新聞が運営するウェブサイト『大手小町』の連載「まじわらないかもしれない」の説明には「似た者同士のようで、実は全く似ていない2人が、今の気分にぴったりくる短歌を引きながら、仕事や恋愛、人間関係など、さまざまなテーマについて語り合います」とある。またひらりささんは初回で「短歌を楽しむティータイムくらいの感覚で読めるノートをお届けしていきたい」と言っている。

それなのに続く上坂さんの回では「私はあなたのことが少し怖い」と正直に魂フルオープン!! そこから二人の魂のやり取りが始まるのです。

たとえば、「女であることに憧れている」ひらりささんと「自分の女性性を全面的に肯定できない」という上坂さん。「利益さえ生み出せば存在価値を認めてくれる会社が好き」と言いながら会社を辞めた上坂さんと「会社は自分から人間性を奪う場所」と定義しながら会社を辞めずに文筆業との兼業を続けるひらりささん。「常に筋の通った自分でありたい」上坂さんと対面している人によって出す面を分ける分人的思考のひらりささん。

この二人、違いすぎる。

違うのに、ずっと魂レベルの本音をぶつけ合う。

あまつさえ、上坂さんはひらりささんを怒らせようとする(!)

この二人、本当に友達なんでしょうか。

価値観が違うなら、触れずにスルー。あるいは共感できる部分だけを話していく。大人になれば、いくら仲良い友達といってもライフステージや働き方の違い等で、そんな処世術で乗り切っていくしかない場面も多いと思うのですが、この本では二人が「あなたはなぜそう思うの?」「私は違うよ」と本音をぶつけ合っていました。共感しなくたっていいんですよね。違うとしても、違ったまま、ここまで魂をむき出しにして見せ合えるって、最強。二人の関係がまぶしく、かっこよく、憧れます。二人はやっぱりとても素敵な友達だと思うのです。

『友達じゃないかもしれない』
著者/上坂あゆ美、ひらりさ
定価/2,090円
発行/中央公論新社

Profile

金原毬子Mariko Kimbara エディター。2017年扶桑社に入社し営業職を経て、19年『Numéro TOKYO』編集部に異動。主に人物取材やカルチャー、ライフスタイルなどの特集や連載「開けチャクラ! バービーのモヤモヤ相談室」、くどうれいんと染野太朗の短歌連載「恋」、松岡茉優の書籍『ほんまつ』などを担当。音楽、ラジオ、ポッドキャストが好きで片時もヘッドフォンが手放せない。
 

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