谷川俊太郎からマムアンちゃんまで。『nero』が手がけるエキシビジョン【#私の土曜日16:00】
音楽やアートを独自の審美眼で見つめ続ける井上由紀子さんによるカルチャーブック『nero』。その10周年を記念したエキシビジョン「VOICE – nero 10th anniversary」に行ってきました。
『nero(ネロ)』は音楽ライターの井上由紀子さんが立ち上げたカルチャーブック。1990年代前半から音楽ライターとして活躍する井上さんが、本当に美しいと思う音楽やクリエイティブ、エンターテインメントを独自の視点でピックアップして紹介しています。
私が『nero』を最初に知ったのは2014年に発売された4号目の「vol.4 more grrrls issue/independent issue」だった気がします。
たしか、カリフォルニアのロックバンド、ハイムがファーストアルバムのツアーで来日したときに彼女たちのインタビューが掲載されていることを知り購入したのですが、ペトラ・コリンズが撮影した映画のワンシーンのようなスカイ・フェレイラや脇毛を堂々と見せる(でも超絶かわいい)アルヴィダ・バイストロム、哲学を学ぶフレンチポップアイコンのペティート・メラーなど、かわいいけど一癖も二癖もあるアーティストたちの美しいヴィジュアルと読み応えのあるインタビューにたちまち夢中に。
その後も新しい号が出るたび、誌面に登場する音楽を聞きながら端から端まで貪るように読みました。まさに私の血となり肉となっている雑誌の一つです。
さて、前置きが長くなりましたが、心待ちにしていた『nero』の最新号「vol.14 VOICE」が2022年6月17日に発売になりました。COVID-19のパンデミックが起こった2020年からようやく復興の兆しが見え始めた2022年までに、井上さんがシンパシーを覚えたアーティストたちの声(=作品)を集めたアートブックです。
連動して、掲載されている作品の一部を伊勢丹新宿店のエキシビジョン「VOICE – nero 10th anniversary」で6月30日まで展示しています。
ウクライナのアーティストデュオ、シンクロドッグスの自然と人間が融合した作品は美しくも不思議で、思わず見入ってしまいました。ジバンシィのデザイナーも務めたコートニー・MCの描く女性はパワフルで元気になる!
特に谷川俊太郎さんの詩「無言」の生原稿を実際に見ることができたのは心揺さぶられる経験でした。谷川さんの凛とした優しい丸字はまさに詩の内容を表しているようで、活字で読むよりすっと体に染み入ってきました。
こちらはタイの漫画家、イラストレーターのタムくんことウィスット・ポンニミットさんが手がける大人気キャラクター、マムアンちゃんのフィギュア。通りがかった人みんなが立ち止まってしまうかわいさ。またイラストも展示されており、タムくんの発する優しく温かいメッセージにほっこりします。
後ろはテクノポップバンドDevoのマーク・マザーズボーさんによる作品。一見ポップな世界観ですが、書籍に載っている作品の制作意図を読むと見え方が変わります。
ほかにも坂本慎太郎さんや先日小誌のmightさんの連載に詩を寄せてくれた羊文学の塩塚モエカさんの作品も展示されていたり、書籍にはDYGLの秋山信樹さんやルビースパークスのNatsukiさんの詩が掲載されていたりなど、国内の気鋭の若手ミュージシャンもピックアップされていて、音楽を愛する井上さんならではのキュレーションがたまらない展示と書籍でした。会場では『nero』のバックナンバーや限定グッズも販売中です。ぜひ覗いてみてください。
「VOICE – nero 10th anniversary」
会期/2022年6月17日(金)~6月30日(木)
会場/伊勢丹新宿店 本館2階 イセタン ザ・スペース
住所/東京都新宿区新宿3-14-1
営業時間/10:00~20:00