モードの新時代をつくるクリエイターのつながり vol.1 アレッサンドロ・ミケーレ
アレッサンドロ・ミケーレ、ジョナサン・アンダーソン、ヴァージル・アブロー。今のモードを牽引する3人の審美眼と、世代とジャンルを超えて彼らとつながる次世代クリエイターとは。vol.1は、Gucci(グッチ)を率いるAlessandro Michele(アレッサンドロ・ミケーレ)。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2019年9月号掲載)
グッチを率いる不世出の天才が有する独自の美学
「美に制限もルールもない」と公言してはばからない彼にとって、フッション業界のお仕着せのルールはあまり意味をなさない。証拠に「GG」ロゴを用いたヴィンテージウェアをカスタマイズしたアート作品を創作してきたトラブル・アンドリューに対し、ミケーレ自らオフィシャルのコラボレーションを提案し、実現させた。また、80年代にブランドのブートレグアイテムで名を馳せたダッパー・ダンとは、新しいアトリエを開きオマージュを捧げ、新しい世代へ発信した。権威におもねらない自由なマインドと独自の美学が独創的なクリエイションを支えている。写真とペインティングの融合が生んだゴースト
Angela Deane(アンジェラ・ディーン)/アーティスト
アメリカ・ボルチモアを拠点に活動する彼女は、写真に映った人物を白く塗りつぶしてゴーストに変えた作品が話題に。gucci DIYプログラムでは、子どものゴーストがセーターを着用したアートワークに加え、ミラノの巨大なアートウォールを手がけた。アイテムを自分好みにDIYできる同プログラムに、一見、没個性的なキャラをぶつけるミケーレらしいシニカルなセンスも秀逸。
グッチのロマンティックな世界観を具現化する作家
Alex Merry(アレックス・メリー)/イラストレーター
ザ・ウェスト・オブ・イングランド大学でアートを学んだ英国出身のイラストレーター。伝統的な西洋美術の流れをくみながら、古代占術を想起させるモチーフや意外性に満ちた色彩でメタファーの世界を描き出し、これまでインテリア コレクション「グッチ デコール」の新作アイテムや、世界で展開するアートウォールなどにフィーチャーされている。
名門「ラフ・トレード」発の大注目バンド
Amyl and the Sniffers(アミル・アンド・ザ・スニッファーズ)/ミュージシャン
メルボルンを拠点に活動するガレージパンクバンド。グッチの新プロジェクト #GucciGigでミケーレは12組のミュージシャンとアーティスト
にデジタルチャンネル向けオリジナル作品の制作を呼びかけた。また、ボーカルのエイミー・テイラーとベースのガス・ロマーは、モデルとして
グッチのファッションショーや広告キャンペーンにも登場している。
海外で絶大な支持を集める逆輸入ロックバンド
幾何学模様/ミュージシャン
ミケーレの目利きとしてのセンスが如実に表れたのが、#GucciGigにおける彼らの起用だろう。この日本人5人組のサイケデリックバンドは、フェスの出演やヨーロッパツアーを行うなど海外での人気や評価こそ高いが、日本での知名度を考えると大抜擢。
#GucciGigではイタリアのイラストレーター、アレッシオ・ヴィッテリとのコラボでグラフィカルなイラストを制作した。
インスタグラムから世界に羽ばたく才女
Phannapast Taychamaythakool(ファナパスト・タイチャメールコール)/イラストレーター、デザイナー
タイの名門・チュラーロンコーン大学でデザインを学んだアーティスト。インスタグラムに投稿していた作品をミケーレによって見いだされ、グッチのコラボプロジェクト#GucciGramTianに参加。2016年にフェアリーテイル ブックの制作を依頼され、猫を擬人化した「キャットヘッド」と呼ばれるキャラクターをロマンティックに描き、色鮮やかで不思議な魅力に満ちたイラストを収めた。
相思相愛がもたらしたコラボレーション
ヒグチユウコ/画家、絵本作家
ミケーレの審美眼を語る上で、彼女の存在は外せないだろう。猫をモチーフにしたファンタジーあふれる作風で人気の彼女は、グッチとのコラボレーションでその名声を海外にまでとどろかせた。2018年春夏チルドレンズ コレクションをきっかけに、日本限定コレクションやグッチ ガー
デンの展示室には幻想的で神話的なイメージを創作し描いた。ミケーレのグッチが大好きという彼女にとっても幸福な出会いとなった。
平等な世界を願う、グッチに共鳴するアート
MP5(エムピー5)/ヴィジュアルアーティスト
イタリアのアーティスト MP5は、モノトーンによるシャープな表現に込められた社会問題や政治に対するメッセージが特徴。グッチが展開するジェンダーの平等と自己表現を訴えるプロジェクト「CHIMEFOR CHANGE」では、そのアイデンティティをアートで表現。「若者たちの自己表
現への恐怖心のなさに接するときに、自由と平等の未来が実現する希望を抱く」というミケーレの想いに応えた。
慣習に従わず、モダンで自由な精神の象徴
Zumi Rosow(ズゥミ・ロソウ)/ミュージシャン、女優
「クラッシュ」と「ザ ブラック リップス」という二つのバンドを掛け持つ、パンクスにして実験音楽家、さらに女優やジュエリーデザイナーとしても活躍。彼女の個性と振る舞いはミケーレの“美”のヴィジョンを体現している。パリで行われた2019年春夏ファッションショーへの起用や、新作ハンドバッグに彼女の名前を付けた「グッチ ズゥミ」も発売されている。
ミケーレが思い描く“美”の象徴
Dani Miller(ダニ・ミラー)/ミュージシャン
「サーフボート」のリードボーカルで、グッチビューティのフィロソフィーを体現する存在。ミケーレのコンテンポラリーな美学を表現するリップスティック コレクションの広告キャンペーンに登場した彼女は、2本欠けた前歯をありのままに見せた。それはミケーレのメッセージ「真の美しさは、不完全なものの中にこそ宿る」を代弁している。その上で、ミケーレは誰もが等しく美しいと説いた。
Text:Tetsuya Sato Edit:Sayaka Ito