坂口健太郎、俳優として転機を迎えている今を語る
現在放送中のドラマ『シグナル 長期未解決事件捜査班』で初主演を務めている坂口健太郎。昨年約7年間活躍した『メンズノンノ』モデルを卒業し、現在俳優としてのターニングポイントを迎えている彼に、インタビュー。(「ヌメロ・トウキョウ」2018年6月号掲載)
坂口健太郎といえば、雑誌『メンズノンノ』の看板モデルとして活躍しつつ2014年に俳優デビュー。立て続けに話題作に出演し、数々の新人賞を受賞するなど、俳優としての存在感を増している。そして昨年、約7年務めた専属モデルを卒業。現在は連続ドラマ『シグナル 長期未解決事件捜査班』で初主演を務めるなど、俳優として、新たな道を歩み始めたばかりだ。
──『メンズノンノ』では専属モデルとして約20年ぶりに単独表紙を飾るなど、充実した7年間。大きな気持ちの変化があったがゆえの卒業だったのでしょうか?
「特に大きなきっかけはないんです。そんな空気になってきたんですよね(笑)。いちばんの古株ではなかったですけれど、ありがたいことに表紙をやらせていただいたり、誌面に多く出させていただいたりして、もう後輩にバトンタッチしてもいいだろうという感じはありました。そろそろタイミングがきたかなと」
──モデルと俳優では、心持ちが違いますか?
「僕はもともと、モデルはモデル、俳優は俳優と分けて考えてはいました。モデルの仕事もすごく楽しかったし、昔からの仲間もいる。俳優はチームでお芝居をするにしても、もう少し孤独な作業の積み重ねです。芝居ってすごく変な仕事じゃないですか、別の人になりきるって。でもそこがすごく面白いし、楽しいと思っています」
──“メンノンモデル”というのはある種、自分のキャラクターを立てる仕事でもあったと思いますが、いま取材などで他人に自分のことを話す機会が増えたのでは?
「めちゃくちゃ増えましたね。取材などであらためて言葉に出したりすると、なんとなく頭の中が整理される気がします。またお芝居をするときも『どうしてこういうセリフが出るんだろう?』と役のことを考えるのはイコール自分のことを考えることで。そういうときに、自分はこういう面があったんだと再確認することもあります」
──慣れ親しんだ環境を離れ、気持ちの変化はありましたか?
「年末は、一年を振り返る取材が多かったのですが、不安定な時期もあったなあと。たぶん俳優として微妙なポジションだったんでしょうね」
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激しい負の感情は持たないけれど、笑顔で距離を置くタイプ
──お芝居を始めて今年で4年目。一般的に新人といえる3年も過ぎましたね。
「毎年毎年が全然違うんです。最初の年は目新しいことや刺激的なことばかりで、2年目はいい意味で少しずつ慣れて自分の表現ができてきて。そして3年目は曖昧な自分にちょっとぐらついている気持ちのときもあった。でもそれは、役に対して自分がどういうアプローチをして、どういうものを求められているのかっていうことを考えるようになってきたから」
──悶々とした時期は過ぎた?
「どうだろうなあ。ふわふわとした時期があっての今だとは思います。今年に入ってから、初めてのことがすごく多くて。写真集を出したり、ラジオのパーソナリティをやったり、ドラマ主演だったり。意図したわけじゃないんですが、このタイミングが続いていますね」
──以前ヌメロに出ていただいたのが2年前。この時のインタビューで、目標は主演とおっしゃっていて、この4月から『シグナル 長期未解決事件捜査班』で連続ドラマ初主演。有言実行ですね。
「あ、本当だ! ありがとうございます」
──すでに映画ではW主演も経験されていますが、主演という立場は今までと何か違いますか?
「うーん、あまり変わらないかもしれないですね。やっていること自体は2年前とも変わらなくて、主演で何がいちばん違うかというと、宣伝ですね(笑)。バラエティなどでドラマの告知をするのが本当に苦手なんですよ(笑)」
──『シグナル』は海外で大ヒットしたドラマのリメイクです。原作は観るタイプですか?
「はい、すぐに観ました。観ないでゼロからっていうのももちろんあると思うんですけれど、僕は観てもゼロにはできるなと。一回通り抜けることが大事だと思って。日本と海外の司法の違いもあるから。オリジナルの部分もあるんですが」
──役作りはどのように?
「プロファイリングができる役なので、関連書などは読みましたね。でもそれが100%反映されるわけではないです。例えばボクサーの役だったら、トレーニングするだろうし、知識として同じ分野のものを入れておくことが必要かなってだけで。どこかで何かには使えるかも、くらいです」
──今回の役柄は、頭脳明晰だけど人を信用しない骨太な警察官の三枝健人。坂口さんのイメージからは遠いのかなと。
「今までは情けなかったり、優しくて繊細だったりする役が多かったから、一瞬すごく距離を感じるんですけれど、深い部分までいくとなんとなく似ている部分もあったりします。健人は若いときは特にいろんなものにトゲトゲしているし、犯人を捕まえるために先走る瞬間もあったりして、すごく不器用。興味のある役ではありますね」
──坂口さんはなんでもしなやかに対応して、穏やかに見えます。健人のように、自分の中に激しい反発心や怒りはありますか?
「うーん、怒りとか、そういうものに対しては鈍いのかも。でも意外と取捨選択はしているかもしれないですね。苦手だなと思った人とは、ニコニコしながら距離を置くタイプだし(笑)。冷めているし、そこは健人と距離のある部分だと思いますね。僕は健人のような人生を経験していないし、根本からその役になることは無理だからこそ、演者としてわかってあげたいなっていうスタンスでいます」
現実主義の自分にとって“夢”はふわふわしすぎている
──私生活では役との切り替えができるタイプですか?
「癖として出てしまうことはあるけれど、役が抜けないみたいなことはあまりないですね。26年間も自分として生きていたので、そこまで変われないかなと思います」
──常に自分を客観視していますよね。
「現実主義なんだと思います。1oo%役になりきることは羨ましいし、なりたいなって気持ちも強くあるんですけれど、きっと自分に合っているのは役になりきるというより、役に寄り添うほうなんだろうなと」
──それは最近気づいたことですか?
「そうですね、始めた頃は役にならなきゃって思いが強かったかもしれないですね。でも100%役になりきってしまうより、役90%で自分10%でいたほうが、僕の場合は120%を目指せる気がしています」
──ドラマのキャッチフレーズは「過去を変えろ 未来を救え」。変えたい過去はありますか?
「ないです(即答)」
──じゃあ恋愛に限っては?
「ないです(即答)」
──迷わないですね(笑)。
「過去は変えたくないなあ。こういうところも現実主義だなって思うんですが、過去を変えることで今の自分じゃなくなるほうが怖い」
──思い当たる後悔もないですか?
「うーん、ピアノは続けていればよかったなあ。先生が怖すぎて、保育園のときにやめました(笑)。それくらい」
──では未来について。今年27歳になり、30歳ではどうなっていたい?
「ここまでの役者になっていたい、というのはあんまり定めていないかもしれない。きっと積み重ねだろうし、僕はすごくタイミングを重視しているというか。『シグナル』で主演をさせていただいているのも、今がやるべきタイミングだからという解釈をしていて。だから本当に現実主義だし、夢っていうものって、ちょっとふわふわしすぎちゃっていて、嫌だなあって」
女性には転がされるものだと思っているし、それでいい
──プライベートはいかがでしょうか。例えば、誰かと一緒に暮らしたり、家に他人がいるのは大丈夫なタイプですか?
「一人暮らしを始めて2年ちょっとですが、誰が来てもOKな家にはしているかも。この前も照明さんと衣装さんと一緒にうちで飲んでいました」
──女友達も多いタイプですか?
「いますね。30半ばくらいの女友達が何人か。でもいつの間にか僕は弟キャラにされているんですよ。それがおかしい!といつも思っていて(笑)」
──いい意味で女性慣れしているというか、女きょうだいがいる雰囲気はありますね。
「それもよく言われますね。実際、2つ上の姉がいるんです。でも弟扱いはおかしい(笑)」
──魅力的だなと思う女性はどういう人でしょうか。
「うーん、女性にはかなわないなとは思いますね。主導権を握っているのは女性だし、姉がいるせいで転がされ慣れているかもしれないですね。ああ転がされているな~と気づきながらもそういうものだと思っている(笑)」
──逆らわずに転がされると(笑)。
「はい、大丈夫ですね。そういえば、前に手相を見てもらったとき、男性と女性の両方の性の感覚を持っていると言われたんですよ」
──坂口さんのしなやかさとか器用さは、女性の持つ芯の強さに通じるところがあるかもしれないですね。ちなみに以前は、理想の女性にナウシカを挙げていました。
「あ、そこは変わらないかもしれない!強いだけじゃなくて、置かれた環境で攻撃を受け続けても立っている感じが素敵だなと思って。リアルにそういう女性がいたとして近寄るかといわれたらわからないですけれどね(笑)」
Photos:Motohiko Hasui Styling:Demi Demu Hair&Makeup:Chika Kimura Edit:Sayaka Ito Interview&Text:Saori Asaka