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People Interview

五木田智央インタビュー、展覧会という名の絵筆一本勝負

コンセプトは「ないです」。ポカンとする世界のアート関係者たちを尻目に、ひたすら絵を描く闘魂の画家、五木田智央。試合本番の展覧会「PEEKABOO」を前に、その意気込みを聞いた。(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2018年6月号掲載


都内某所、日々制作と向き合うスタジオの窓辺にて。

ある画家の現在

サブカル感の漂うイラストに発して、モノクロの人物画でいまや世界の脚光を浴びる気鋭の画家、五木田智央。しかし本人は飄々(ひょうひょう)として、ただ描くだけという。つらくても笑っても、自分にはそれしかできないから。そして迎えた東京オペラシティ アートギャラリーでの一大展覧会。五木田ワールドの現在に、刮目(かつもく)せよ。


『Old Portrait』(2016年)前澤友作氏蔵 ©Tomoo Gokita Courtesy of Taka Ishii Gallery Photo: Kenji Takahashi

“好きに描く”ことの怖さ

──2000年の作品集『ランジェリー・レスリング』を転機に、海外での活動が広がり、アートの世界に踏み込んで10年以上がたちました。

「流れに身を任せていただけですが、10年前にはいまのようになるとは思ってもみなかった。ともあれ、雑誌のグラフィックやイラストレーションの世界からギャラリーで展示されるようになって、本腰入れて絵に向き合わないとまずいとは思いました。それまでも本腰入れていないわけではなかったけど、芸術家になるとか、現代美術をやりたいという気持ちはむしろ、サイ・トゥオンブリーの真似をして抽象画を描いたり、大竹伸朗さんに感化されたりした10代の頃のほうが強かったです」


世界的注目を集めたモノクロームの人物画を象徴する作品『New Sad』(2014年 ※本展への出品なし/参考作品) © Tomoo Gokita

──デザインやグラフィックの仕事をしていたときは、その頃の気持ちを封じ込めていたのですか。

「オーダーがなかったからやらなかったというのが実情です。絵画とイラストレーションのいちばんの違いはそこだと思う」

──逆にいえば、美術の世界では注文もなく、真っさらなキャンバスに向き合わなければならない怖さもありますよね。

「描き始める前はいまでも怖いですよ。それを乗り越えるには、とにかく手を動かす。もちろん取りかかる前、構想は頭の中で練るんだけど、ほとんど役に立ちません。描いては消しを何度か繰り返すうちに引っかかりが見つかって、その方向に進んでいくのだけど、そのときは最初の構想はどこかにいっています。音楽でいえば、事前にアルバムのコンセプトはあってもそのとおりになった試しがないのと同じですね」


『記念撮影』(2017年)個人蔵 © Tomoo Gokita Courtesy of Taka Ishii Gallery Photo: Kenji Takahashi

展覧会名は「PEEK A BOO(いないいないばあ)」!

──東京オペラシティ アートギャラリーで開催される「PEEKABOO」展は、DIC川村美術館の「THE GREAT CIRCUS」展(14年)以来となる国内での大規模な展覧会です。

「展覧会のポスター用に1枚早く仕上げろという指令が来たのが、個展で香港にいた今年1月。帰ってきてすぐキャンバスに向かいました。最初は『THE GREAT CIRCUS』の時期に近い作風を試みて仕上がりも悪くなかったんですが、翌朝、アトリエであらためて見てダメだなと思った。せっかく新曲を発表するんだから、ちょっと前のと似たような曲だとね、ということですよ。


『Come Play with Me』(2018年) © Tomoo Gokita Courtesy of Taka Ishii Gallery Photo: Kenji Takahashi

ちょうどその日、ギャラリーの方から電話があって、進み具合を聞かれて、できたけど消しちゃいましたと答えたら『大丈夫ですか!?』と叫んでいました。真っ白なキャンバスを前にして、焦りながら昔のエロ本をパラパラ見ていたら、両手を上げた女性の写真があって、それをヒントにしたのが『Come Play with Me』。この絵を描いて、目の前が開けた感じがありました。『ランジェリー・レスリング』時代に戻ったというか、絵を描くのが楽しかった頃の感覚を思い出しました」


『Despair』(2018年) © Tomoo Gokita Courtesy of Taka Ishii Gallery Photo: Kenji Takahashi

──五木田さんにも絵を描くのが楽しくない時期があったんですか。

「仕事というかノルマを感じると楽しくなくなります。好きに描いていいと思っていた美術の世界も、実はそうでもなくて、個人的に“青の時代”と呼んでいる作風のときとかステンシルの作品を作ったときはほとんど売れなかった。ギャラリストにも『なぜ白黒じゃないんだ』と言われました。好きなことやっちゃダメなの、と一応抵抗するんだけど、おまえはまだグリーンボーイ(新人選手)なんだ、と言われたら納得せざるを得ない。もちろん白黒の顔のない作品でも、描いたら描いたなりに新たな発見はありますが、今回は楽しく描いていた頃に戻りたかった。1月末からの1カ月半で16点を仕上げたんですが、描きながら笑っていましたもん」


『妖怪のような植物』(2017年)川崎祐一氏蔵 ©Tomoo Gokita Courtesy of Taka Ishii Gallery Photo: Kenji Takahashi

──近作では背景を描いていますね。

「セザンヌの影響ですよ。去年、ニューヨークの展覧会に出品する作品に行き詰まって、セザンヌの模写をしたんです。セザンヌはリンゴとかワインの瓶とかばかりでつまらないと思っていたんだけど、模写してみると楽しくて、2枚が3枚になり、『FAKE CEZANNE』のタイトルで連作として出しました。そのなかで静物の背景に窓が見えたり、カーテンが揺れていたりするのを描いていたら、自分の近作ではほとんど対象の後ろに背景を描いていないことに気づいた。今回は元ネタにした写真そのままを描いているのもあるし、想像上のものもありますが、空間を描くのは面白かった。タッチも絵画的になったかもしれない。〝顔のない時代〟は看板の絵のようなチープでツルッとした質感を狙っていたのが、今回は例えば衣服の襞(ひだ)の部分とか、筆の跡を残す描き方をしています」


抽象画風の新作シリーズより『Easy Mambo』(2018年) © Tomoo Gokita Courtesy of Taka Ishii Gallery Photo: Kenji Takahashi

“アーティスト”って呼ばないで

──今回の展覧会では、キャンバス以外の作品も発表予定ですね。

「展覧会の話をもらったとき、紙の作品は作ると宣言していて、紙もすでに買っていたから、簡単にすぐできることはないかと思って、いろいろ試したんです。パレットに絵の具を出して、その上に紙をペタッと置いて剥がしたらけっこうよかったの。バッチャッ、パタン、ピャッて20秒で1枚完成するんですよ」

──シュールレアリストの手法のデカルコマニーみたいで格好いいですが、見る側にはありがたくない話でしたね。

「(笑)。それと、これは02年から取り組んでいる趣味みたいなものですが、レコードジャケットにプロレスラーの絵を描いたシリーズがついに美術館にお目見えします! 展示するのは220枚ぐらい。美術館をレコード屋にしてやるつもりです(笑)」


上下ともに、レコードの中身とは関係なく名曲のタイトルとプロレスラーの肖像をジャケットに描くシリーズ作品『Gokita Records』(2002-2018年) © Tomoo Gokita Courtesy of Taka Ishii Gallery Photo: Kenji Takahashi

──それらを含め「PEEKABOO」はアーティスト=五木田智央の現在地を示す展覧会になりますね。

「アーティストという言い方は嫌だな。照れが入るから」

──肩書きを自称するとしたらどうなります?

「芸術家とか美術家とかペインターとかいろいろありますが、画家がいちばんしっくりきます。俺はもう絵でいい。絵が好きなんですよ」


『Untitled』(2014-15年)Anzai Art Office, Inc.蔵 © Tomoo Gokita Courtesy of Taka Ishii Gallery Photo: Kenji Takahashi

五木田智央「PEEKABOO」

人物の表情を描き込むなど新たな試みが感じられる絵画やドローイングなどの新作を中心に、近年の代表作、800点以上のドローイングからなるインスタレーションなど、約40点の作品で五木田ワールドの魅力を探る展覧会。

会期/開催中〜2018年6月24日(日)
会場/東京オペラシティ アートギャラリー
住所/東京都新宿区西新宿3-20-2
TEL/03-5777-8600(ハローダイヤル)
URL/www.operacity.jp/ag/

Profile

五木田智央(ごきた・ともお)1969年、東京都生まれ。90年代後半にドローイング作品で熱狂的な支持を得る。その後、モノクロームの人物画を中心に制作し、海外でも高い評価を集める。2014年、DIC川村記念美術館で個展を開催。作品集に『ランジェリー・レスリング』(00年)、『Hol y Cow』(17年)など。(Photo : Yoshimitsu Umekawa)

Portrait : Yoshimitsu Umekawa Interview & Text : Masato Matsumura Edit : Keita Fukasawa

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