新生フランツ・フェルディナンドの挑戦「慣れ親しんだ方法や環境に甘えない」 | Numero TOKYO
Interview / Post

新生フランツ・フェルディナンドの挑戦「慣れ親しんだ方法や環境に甘えない」

新作『Always Ascending』のリリースを前に、2018年1月、フランツ・フェルディナンド(Franz Ferdinand)が一夜限りの来日公演を開催。ヘッドライナー級のモンスターバンドとして安定の人気を誇りつつも新たなサウンドを模索し続けるバンドはどこへ向かうのか?フロントマンのアレックス、そして昨年加入した新メンバーのジュリアンに話を聞いた。

<左から>アレックス(Vo/G)、ボブ(B)、ジュリアン(Key/G)、ポール(D)、ディーノ(G) 5人体制となったことで得られたもの ──新メンバーとしてキーボードのジュリアンとギターのディーノが加わり、5人編成になりましたね。加入にあたって厳しい条件はあったのでしょうか? アレックス「もちろん!シンプルに、ベストであること。そして背が高いことだね。なんて冗談はさておき、どこかクレイジーなところがありつつ、一緒にいて楽しかったりユーモアの感覚を共有できることかな。バンドだって人間関係だからね。ジュリアンはグラスゴーで10年近く過ごしていたから感性を共有している部分はあるんだけれど、だからといって穴埋めのメンバーを探していたわけじゃない。Miaoux Miaouxという彼のプロジェクトも好きだったし、新しい風を吹き込んでくれると思ったんだ。付け上がるかもしれないから、本人を前に言いたくないんだけど(笑)。ところでジュリアン、このジャケットは黒に見える?ネイビーに見える?」 ジュリアン「!?(笑)」 ──確かにどちらにも見えますね(笑)。ジュリアンにもお聞きしたいのですが、外から見ていた“モンスター”バンドの一員に加わってみて、何かイメージと違ったことはありましたか? アレックス「みんなもっと背が高いと思ってたんじゃない?」 ジュリアン「そこは本当にガッカリだよ(笑)。一人で音楽を作っていた時は、曲が完成するともうそれ以上触らずにいたんだけど、フランツの曲作りは、固まりつつあるアイデアに固執することなく、いろいろなパターンを試していくんだ。そこが面白いと思ったね」 ──なるほど。5人でプレイすることで、ステージ上の動きも変わりましたよね。 ジュリアン「アレックスがギターを弾く場面が減ったよね」 アレックス「そうだね。ヴォーカルに集中し、曲の世界に没頭できるようになったことで、より自由になれたというか。もちろんバンドとしても、アレンジやサウンドに広がりが出たしね」


『Always Ascending』MV

生っぽいサウンドにこだわった最新作

──新作『Always Ascending』について、昨年発表されたタイトル曲の中毒性はもちろんのこと、今回、プロデューサーにカシアスのフィリップ・ズダールの名前があり、フランツのサウンドとの相性の良さに驚きました。彼の起用はいつ頃からのアイデアだったのですか?

アレックス「フィリップとの出会いは5年ほど前、僕らが前作に取り組んでいた頃かな。当時は挨拶して立ち話をした程度だったけれど、話もすごく合ったし、いつかぜひ一緒に仕事をしたいと思っていたんだ」

ジュリアン「彼が手がけるサウンドには深みがあって、なんというか、喜びも感じられるんだよね」

アレックス「そんなわけで、今作に取りかかるにあたりプロデューサー候補として彼の名前が筆頭に挙がった。さっそくレーベルのスタッフに連絡を取ってもらおうとしたんだけど、電話もメールもなしのつぶてだったらしくて。イビサにいるとか、マネージャーが変わったとかいろいろ噂は聞いていたんだけど、そういえば5年前に連絡先を交換したことをふと思い出して、簡単なテキストメッセージを送ってみたら、『OK、やろう!』とすぐに返ってきたんだよ(笑)」

──念願のフィリップとの仕事はどうでしたか?

アレックス「グラスゴーの南西にある僕らのスタジオで、書きためていた曲を演奏するのをフィリップが聞きにやって来たんだ。いろいろなアレンジを聞かせているうちに、どんどんイメージが湧いてきたらしくて」

ジュリアン「面白かったのは、彼がスタジオの広さを測り始めたんだけど、それは彼が戻った後、同じ配置や間隔で機材をセットし、メンバーが顔を付き合わせて演奏するサウンドの質感を反映させたいから、ということだったんだ」

アレックス「ボーカルも後から録り直さず、そのまま採用しているものもあるね」


<左>アレックス(Vo/G)<右>ジュリアン(Key/G)、ポール(D)、ディーノ(G)

過去は過去、新たなことにチャレンジしたい

──今作の流れを決めた曲をあげるとしたら?

ジュリアン「そうだなあ、『Feel The Love Go』とか?」

アレックス「今回の曲作りでは、まずギターとかでメロディを書いた後、コンピュータで各パートを構成していき、さらにバンドで音を合わせながらアレンジを進めていったんだ。そこにフィリップのプロダクションも加わるから、サウンドとしてはダンスミュージックのようなんだけれど、とても生っぽくなるんだよね。ジュリアンが言った通り、『Feel The Love Go』、そして『Always Ascending』がそのフィーリングをよく表していると思うよ」

──複雑ながら面白いプロセスを経ているんですね。

アレックス「そうだね。僕たちとしてもプロセス上、電子音から生演奏へと大きく振り切るは初めての試みだった。それだけでなく全般的に、慣れ親しんだ環境や方法に甘えず、いかに聞いたことのない音楽を生み出せるかにチャレンジできたと思う」

ジュリアン「たとえば『Glimpse Of Love』では、まずコード進行が決まりメロディを書いていくにあたって、従来のキーボードを使うと指先のクセが出てしまうから、あらかじめ音をプログラミングしておいたグリッドを使うことで、耳で聞きながら進めていった」

アレックス「そうやって一人一人が作業していくとたとえば60くらいのメロディができあがるんだけど、犬の散歩をするなりお茶を飲むなりしていったん寝かせてから聞いてみると、残るのはだいたい5つといったところ。手癖で書いたメロディより無意識から生まれたフレーズのほうが自分たちでもびっくりするようなものになっていて、そういった成果を積み上げていったんだ」

──既にやったことでなく新たなことチャレンジしたい、という思いは今作のキーワードになったのでしょうか。

アレックス「デビューしてからの10年はバンドの歴史として誇れるものだけど、過ぎ去ったものであって、同じことを繰り返したいわけじゃない。もちろん過去の曲をライヴでプレイするのは楽しいよ。でも今の自分たちは当時と全く同じではないというか」

ジュリアン「本当にそうだよね。確か初めて会った時に音楽観についてもみんなで話したんだけど、ビートルズはアルバムごとに違った音楽性を追求していてもやっぱりビートルズである、というところにいつも刺激されるんだ。自分が加入する前の4作でのフランツ・フェルディナンドにも同じことを感じていたよ」


<左>ポール(D) <中>ボブ(B) <右>ディーノ(G)

スタイルセッターのショッピングの成果

──アレックスは今回の来日ではたっぷりショッピングを満喫したそうですが、今のファッションの気分は?

アレックス「東京に来るとヴィンテージショップに行くのが楽しみで、今回は中目黒の『ジャンティーク(JANTIQUE)』で1950年代のパンツ、バレンシアガのスーツ、それから『Feel The Love Go』のMVで着ていたのと雰囲気の似たウェスタンスーツを買ったよ」


『Feel The Love Go』MV

──ウェスタンはウィメンズファッションのトレンドキーワードのひとつなんですよね。さすがです!

アレックス「そうなの?知らなかった。じゃあ僕がメンズの世界にも持ちこまなきゃね(笑)」

──やはりアレックスがバンド内のスタイルセッターなのでしょうか?

アレックス「いや、それぞれがスタイルにはこだわりを持っていると思うよ。(ベースの)ボブでさえも(笑)。以前はファッションにまったく無頓着だったんだけどね」

ジュリアン「彼は帽子が好きだよね(笑)」

アレックス「最近はジャケットにもこだわっているみたいで、もしかしたら今、身体が引き締まっているからそれを見せつけたくなったのかも(笑)。ちなみに僕が今日着ているセットアップは『コム デ ギャルソン』のもの。コム デ ギャルソンは好きなブランドのひとつなんだ。ところで、ジュリアン、このジャケットは黒?それともネイビー?(笑)」


¥2,689(Domino/Hostess)

Franz Ferdinand『Always Ascending』
新生フランツの実験的アイデアとサウンドに満ちた意欲作!
5人体制となって初めてリリースする4作目。ダンス・オリエンティッドなグルーヴを追求ながらバンドサウンドにもこだわった、攻めの一枚。プロデューサーにはカシアスのフィリップ・ズダールを起用。

Photos:Kohey Kanno Interview&Text:Minami Mihama Edit:Masumi Sasaki

Profile

フランツ・フェルディナンド(Franz Ferdinand)イギリスはグラスゴーにてアレックスとボブを中心に2001年に結成された5人組バンド。04年にデビュー・アルバム『フランツ・フェルディナンド』を発表すると、全英3位を記録するスマッシュヒットとなり、マーキュリー・プライズやブリット・アウォード等の主要音楽賞を総なめし、一躍世界的な注目を集めた。05年、セカンド『ユー・クッド・ハヴ・イット・ソー・マッチ・ベター』をリリース。この作品は全英チャート第1位を獲得すると同時に、世界各地で大ヒットを記録。翌年フジロックフェスティバル史上最速のヘッドライナーを務め、大きな話題を呼ぶ。16年バンドのオリジナル・メンバーであるニック・マッカーシーが脱退、ジュリアン・コリーとディーノ・バルドーが加入し5人編成に。

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