劇団「マームとジプシー」主宰・藤田貴大インタビュー | Numero TOKYO
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劇団「マームとジプシー」主宰・藤田貴大インタビュー

劇団「マームとジプシー」を2007年に旗揚げし、4年後には26歳で岸田國士戯曲賞を受賞した藤田貴大。演出家として順風満帆に活躍している彼のこれまで、そしてこれからの話。

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──劇団の旗揚げから10年、初期のころと比べて仕事の仕方に変化はありましたか? 「実はもう3年後まで予定が入っています。3年後といってもまだわからない部分もある程度余白は残しておきますが、戯曲賞を獲ってからは、以前よりも大分前倒しのスケジュールで動くようになりました」 ──設立10周年の記念ツアー第二弾は、作家の川上未映子さんの作品を取り上げています。川上さんと初めて一緒にお仕事されたのは? 「最初は13年で、未映子さんの詩を演劇化するというものでした。そのときに未映子さんが「まえのひ」という詩を描き下ろしてくださいました。僕自身、自分以外の言葉を扱ったのが初めてだったし、未映子さんも自分の文章が身体を通して表現されるのは初めてだとおっしゃっていました。未映子さんに会う随分前に、未映子さんの『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』という詩を大学生の時に読んで衝撃を受けて、今回出演する青柳いづみに詩集を貸したりもしていました」

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ユリイカ(青土社)×川上未映子×マームとジプシ─『初秋のサプライズ』(2013)撮影:橋本倫史

──お二人が出会ったきっかけは何だったのでしょうか?

「未映子さんが僕の舞台を観に来てくれたんです。10年だったから、その頃の僕はまだアルバイトをしながら演劇をしていた時期ですね。……びっくりしました」

──びっくりというのは?

「初めて未映子さんの文章を読んだとき、途方に暮れたんです。具体的なイメージをそのまま具体的に描くのではなく、もやもやでぐじゃぐじゃな状態がそのまま文字に表現されていて、感情や体温だけが受け渡される、みたいな。こんな文章を書けるのはどんな人だろう、って思うと同時に、作家ってこういうことか、と衝撃的でした。それくらい僕にとっては、巨大な存在だった人が観に来てくれたので本当にびっくりして。ただ、僕の演劇を好きではないだろうな、って思っていました(笑)でも、終演後とてもよかった、とすごく褒めてくれたのでうれしかった」

──そんな川上さんとの作品づくりはいかがでしたか?

「すごく身体的でした。リズムや音として出してみたときに主演の青柳いづみの生理感覚に合うというか。」

──他の作品との違いはありますか。

「例えばシェイクスピアなんかだと、いま自分が表現する意味を探しながら作業するけれど、未映子さんとの共同作業はそういう感じではなかった。彼女との作業自体が自分たちの必然に向かって走っているような気がして、気持ちよかったです。この現場は「未映子さんとの作業」という事で、マームとジプシーとは別のひとつの劇団だと思って取り組んでいるくらいです」

──他にも穂村弘さんなどいろいろな方とコラボレーションをされていますよね。

「当時は思わなかったのですが、26歳で戯曲賞を取ったのは早かったと思うんです。みんなが一度僕の言葉に満足してしまったとそのとき思った。その後どうやってやっていこうかと考えた時に僕は僕の言葉だけでやっていてはダメだと感じたんです。それでファッションブランドやミュージシャン、そして小説家、といろいろな作家とコラボレーションをするようになりました」

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特殊能力を持つ女優、青柳いづみ

──今回の主演でもある青柳さんは、藤田さんの作品を表現する女性としてなくてはならない存在だと思うのですが、彼女ならではの魅力とは?

「彼女には特殊能力があるんです。一度読んだら、ぺたっと身体に貼りついちゃうようにセリフを覚えられる。それから、人の言葉がそのまま彼女にバトンタッチされるというか。今回でいうと、未映子さんが書いた文章の文字の正確さだけだけはなく、未映子さんがその文章を書いたときのニュアンスまで体現してくれる。だから、仕事のパートナーとして信頼しているし、特に作家さんとコラボレーションする時は必要な存在です」

──藤田さんの考えも的確に表現してくれるんでしょうか。

「してくれます。僕だけじゃなくて未映子さんもそうだったのだと思います。詩や小説って、ここは漢字や平仮名の使い分けも含め作家が文字のデザインをしているじゃないですか。特定の誰かに読んでもらうとか、想定して書かれたものではないから、それをこうして表現するのはそもそも無理のある作業だと思うんです」

──そのつもりがなかったものを違うかたちに置き換える作業ですね。

「そうです。平面だったものを立体に立ち上げていくときに、それを完成させてくれる身体はやっぱりだれでもいいわけではないと思います。文字だけで成立していたものをライブにしてしまうわけだから、その詩を発語して、ライブ表現として一歩先の表現を着手できる俳優は、本当に少ないと思う。」

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身体を通すことで初めて作品が成立する

──藤田さんが作品を書くときはどうですか? そういった小説や詩みたいに、最初から平面として書くわけではないですよね。

「そうですね。僕は、小説家や詩人のように、文字だけで成立させるプロではないと思っています。演劇作家として、“身体に起こす”っていうのが常に念頭にあります。劇作家ってそれが念頭にあるかどうかってすごく重要なんじゃないかと思います。自分の言葉を俳優の身体に通すからこそ、敢えて余白も書く。小説だったら明らかに言葉が足りなくても、俳優の身体があって、観客がその言葉を劇場で聞くという事で、成立する事って大いにあります。だからさっきも言ったように僕は、文字だけで成立する言葉ではなくて、俳優の身体を通したときに成立する言葉を突き詰めるのが、劇作家の仕事だと思います。だからある意味、未映子さんのような人たちとのコラボレーションは相反していると思う。だけど、それが僕はやっていてすごく楽しいです」

ΛΛΛ1
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『ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと──────』(2017)撮影:井上佐由紀

──言葉に表現されない余白を埋めるのが身体、ということでしょうか?

「僕が思う俳優の身体を含めた言葉の配置のバランスと、未映子さんが言葉だけで成立させた配置のバランスがそれぞれある中で、そのすり合わせが俳優の身体を通して行われるというか。その作業って、言葉を文字として読んで完結する詩でもなければ、未映子さんの言葉を舞台化するというだけのものでもない。俳優の身体が素材としてそこにあって、僕の手つきで他の音と一緒に新しく配置し直して、今までの文字として完結してきた言葉とは全く違ったニュアンスを持った新しい言葉として立ち上げて、それをお客さんが体験するみたいな。だから、すでに発表された言葉であるのに、見たこともないものになるんです。会場に来た人たちが、いままでに味わったことのない表現だなって気付いてくれたら、うれしいですね。未映子さんの詩はそれができるテキストだと感じているので、言葉を浴びることができる気持ちのいい空間を作っていきたいです」

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「てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。」撮影:橋本倫史

──藤田さんは女性のものの見方に憧れている部分はあるのでしょうか?

「はい、やっぱりありますね。風景とか、女性ならではの見え方があるので。だから女性のことをいつまでたっても、わかったとは思えないし、けどわかりたいと思うし、でも、そこが苦しいときがあります。だけど、性別以前に、「人」としてわかり合える部分ももちろんあるじゃないですか。性別がどうであれ生きているわけだから、性別とか関係なく、生きていたらその細やかさはわかるはずだよ、っていうのを未映子さんの小説からは感じるんです。未映子さんにはなんでこの人、男の子のことをこんなにわかるんだろうって思ったりするけど、でもそれってたぶん男の子とか女の子とかそういうこととかじゃ、もはやないのだろうなと」

◎「ロミオとジュリエット」10_0002
◎「ロミオとジュリエット」10_0002
『ロミオとジュリエット』(2016)撮影:田中亜紀

──今回はもちろん川上さんとだからというのもあると思いますが、根本的に作品を通して性差を超えた一人間の本能的なものを描いていきたいという想いは?

「あります。16年に演出した『ロミオとジュリエット』では、ロミオもジュリエットも女性で作りました。そのことが普通である世界として描きました。そこに対して誰も疑いは持っていない。語り方として、性別としてではなく、生きている人間の存在自体の視点で描きたいと思っていました。そういうのは、未映子さんの作品の影響があった気がします」

──考え方を与えるきっかけのような、泉のような存在なんですね。

「そんな感じですね。作品以上に未映子さんと関わっていて、心地いい。」

──藤田さんの作品の人を惹きつける力は、ご自身ではどこにあると?

「演劇が好きな人たちだけでなく、いままで演劇に無縁だった人たちが見に来られるフックが僕の作品にはあると思っているので、それを嫌味なくやる方法ばかり探っています」

──いろいろな場所で公演するのもそこに繋がっている?

「はい。僕が地方出身だからわかるんだけど、お店は手軽にないし、CDショップもレンタルビデオショップも映画館もすぐに行ける場所にない。だからこそ家で完結させてしまうけれど、そういうところだからこそ公演をして、そこに向かわせて、なんかよくわからないけどすごかった、と思わせたいんです。そのためにならなんでもやれると思っています」

川上未映子×マームとジプシー

MUM&GYPSY 10th Anniversary Tour vol.2「みえるわ」


テキスト/川上未映子

演出/藤田貴大

出演/青柳いづみ
衣装
「先端で、さすわ さされるわ そらええわ」ヒグチユウコ
「少女はおしっこの不安を爆破、心はあせるわ」ANREALAGE
「戦争花嫁」suzuki takayuki
「治療、家の名はコスモス」overlace
「冬の扉」malamute
「水瓶」「夜の目硝子」l i r o t o

[東京]1月31日(水)-2月3日(土)|WWW
[宮城/塩釜]2月6日(火)|塩竈市杉村惇美術館・大講堂
[長野]2月10日(土)|まつもと市民芸術館・小ホール
[福島/郡山]2月12日(月・祝)|LIVE STAGE PEAK ACTION

[北海道/札幌]2月15日(木)-2月16日(金)|PROVO 

[神奈川/横浜]2月20日(火)-2月21日(水)|横浜市開港記念会館・講堂

[山口]2月25日(日)|山口情報芸術センター・スタジオA

[大阪]2月28日(水)-3月1日(木)|味園ユニバース
[熊本]3月4日(日)|早川倉庫
[沖縄]3月7日(水)|水円
[沖縄]3月10日(土)-3月11日(日)|アトリエ銘苅ベース

URL/mum-gypsy.com/

Photos:Koji Yamada Interview:Sayaka Ito Text:Sakina Noda Edit:Masumi Sasaki

Profile

藤田貴大(Takahiro Fujita) マームとジプシー主宰、演劇作家。1985年生まれ、北海道伊達市出身。桜美林大学文学部総合文化学科にて演劇を専攻。2007年マームとジプシーを旗揚げ。象徴するシーンのリフレインを別の角度から見せる映画的手法が特徴。さまざまな分野の作家との共作を積極的に行う。11年、三連作「かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。」で第56回岸田國士戯曲賞を受賞。14年2月横浜市文化・芸術奨励賞を受賞。16年4月に初のエッセイ集「おんなのこはもりのなか」を、5月に初詩集「Kと真夜中のほとりで」を上梓。

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