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People Interview

安藤忠雄インタビュー、生涯“青いまま”の挑戦者宣言

現在、国立新美術館にて開催中の「安藤忠雄展―挑戦―」。巨星、建築家・安藤忠雄が、命懸けで挑む展覧会を前に「一生“青いリンゴ”でいたい」と語った、その未来への決意とは。(ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2017年11月号

Portrait : Masayuki Nagamine
Interview : Yoshikuni Shirai
Text & Edit : Keita Fukasawa

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大阪の安藤忠雄建築研究所にて。「建築以外の趣味は読書だけ」。5層吹き抜けの壁面を埋め尽くす無数の書物を血肉に変え、挑戦の日々は続いていく。

独学で建築を学び、手がけた住宅から巨大施設、景観(ランドスケープ)まで、すべてに驚嘆すべき美が薫り立つ──。世の既成概念と格闘し、年齢を重ねてなお自らを“青き果実”にたとえ、躍動し続ける巨星・安藤忠雄。空前の展覧会に「挑戦」の二文字を掲げて臨むその人を訪ね、青く輝く不屈の闘志を目撃した。

前へ進もうとする熱い思い
“挑戦する心”をすべての人へ

──半世紀ものキャリアの集大成となる展覧会に「挑戦」という言葉を選んだ理由は何でしょうか。

「私はこれまで『前へ進む』という思いを絶えず肝に銘じてきました。その“前に進む力”が今の日本には失われてしまっているように思えます。戦後、日本が焼け野原から奇跡の経済復興を遂げるなかで、私もまた、人々の熱い気持ちを肌で感じてきました。1964年の東京オリンピックのために丹下健三さんが手がけた国立代々木競技場など、素晴らしい建築を目の当たりにしたときもそうですし、本田技研工業を創業した本田宗一郎さんやサントリーの会長を務めた佐治敬三さんなど、確固たる熱意と愛情を持った人たちとの出会いを通して、大きなエネルギーを受け取ってきたのです。

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『水の教会』(1988年/北海道勇払郡)ガラスの空間を抜けると、開口部から息をのむような景色を見晴らす礼拝堂へ。川から水を引いて水盤を設け、光とともに変化する景観を生み出した。(撮影:白鳥美雄)

でも、そうした先人たちの不断の努力の上に胡座をかいたままでは、安定は決して長くは続かないでしょう。世界は変化し続けているのに、自分たちの足元だけは変わらないと考えている。それが今の日本の姿です。だからこそ、私自身の原点に立ち戻り、未来を見据えながら物事を考えて生きることの大切さを伝えたいと思い、『挑戦』という言葉を選びました」

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『住吉の長屋』(1976年/大阪市)木造長屋をコンクリート打ち放しに建て替え、豊かな空間をつくり出した、実質上のデビュー作。今回の展示ではスケッチや模型をはじめとする設計資料を公開する。(© 安藤忠雄)

──挑戦する姿勢にこそ、安藤さんの原点があるわけですね。

「私はまだまだ“青いリンゴ”でありたいと思っています。人間は年を取るほど穏やかに、物わかりが良くなっていくものです。でも、私はそれでは面白くない。一生涯、心が青いままでいたい。その思いを込めて、青いリンゴのような展覧会をやろうと思ったのです。例えば『住吉の長屋』(1976年/大阪)のように小さな住宅にも、社会を変える可能性がある。一方で、歴史的な建築の中に新しい建築をつくった『国際子ども図書館』(2002年/東京)や『プンタ・デラ・ドガーナ』(09年/ヴェネチア)のように、古い建築の再生でもまったく新しい可能性を見いだすことができる。どんな状況でも心に希望があれば、可能性は必ずつかむことができるものなのです。

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『プンタ・デラ・ドガーナ』(2009年/イタリア・ヴェネチア)フランソワ・ピノー氏の美術館。17世紀の税関倉庫を復元、内部に挿入されたコンクリートの新たな展示空間との対比が心を打つ。(撮影:© Palazzo Grassi SpA. Foto: ORCH, orsenigo_chemollo)

印象的だったのは、ベネッセの福武總一郎さんから初めて直島の計画を聞いたときのこと。便利で快適な暮らしが求められるなか、電車や船を乗り継がなければたどり着けない瀬戸内の離島に現代アートの美術館をつくるという話に、思わず自分の耳を疑いました。

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『直島 ベネッセハウス』(1992年/1995年/同 撮影:松岡満男)“アートの聖地”直島の建築群。美術館と一体化した宿泊施設と、地中に埋設された空間に光を導き、荘厳なアート体験を導く美術館。

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『地中美術館』(2004年/香川県直島町 © 安藤忠雄)

実際、『ベネッセハウス・ミュージアム』(92年)がオープンして5年ほどは、客足もあまり伸びなかった。でも、福武さんの心には燃えるものがあったのでしょう。直島は今や世界中から年間数十万人が訪れる“アートの聖地”になりました。最初は反対していた島の人たちも目を輝かせて、ガイドをしたりお店を開いたりと、自ら進んで行動するようになったのです。思いが人の心を動かし、人々の目を輝かせていく。それはまぎれもない事実です」

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『光の教会』(1989年/大阪府)コンクリート壁のスリットから光の十字架が堂内を照らす祈りの空間。今回の展示には原寸大の再現空間が出現する。(撮影:松岡満男)

可能性を生み出す“青リンゴ”
現在形の安藤忠雄、ここにあり

──会場には中に入って体験できる原寸大の『光の教会』(89年/大阪)も登場します。なぜ、この作品を選んだのでしょう。

「『光の教会』には今や世界中から見学者が訪れるようになりましたが、祈りのための場に人を無制限に受け入れるわけにはいきません。でも、建築の面白さは実際に体験してみないとわからないもの。そこで、実物と同じコンクリートを使って、誰もが中へ入って体験できる1/1スケールの展示をやろうと考えました。法的には“展示”ではなく“増築”になってしまうなど苦労は絶えませんが、やるからには昔と同じことを繰り返すのではなく、一歩前に進まないと面白くない。それが私の信念です。

」
同上(模型撮影:Nacása & Partners Inc.)

展覧会の会期中は私も20回ほどトークを行います。亡くなった建築家の展覧会であれば作品を展示するだけで成立しますが、生きて挑戦し続けている建築家の展覧会ということで、私も積極的に出ていきたい。建築にしても展覧会にしても、体験した人が『面白かったね』と言えるようなものであるべきだというのが私の考えです。だから今回も、命懸けで臨みますよ」

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『フォートワース現代美術館』(2002年/アメリカ・テキサス州フォートワース)コンクリートの内部から水庭に面したガラス壁の展示室へ。季節とともに感覚の変化を誘う。(撮影:松岡満男)

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『上海保利大劇院』(2014年/中国・上海)中国初の作品は、立方体に円筒形のヴォイドと二つのホールを挿入したオペラハウス。複雑に組み合った空間に驚嘆する。(撮影:小川重雄)

──7月には、ケリング・グループの創業者フランソワ・ピノー氏の美術館『ブルス・ドゥ・コメルス』(19年完成予定)の計画が発表されました。ピノー氏とともにパリでの再挑戦ともいえるプロジェクトですが、その大型模型も展示されます。

「ピノーさんとはパリ郊外のスガン島の計画(00年発表/実現せず)以降、ヴェネチアで『パラッツォ・グラッシ』(06年)、続いて『プンタ・デラ・ドガーナ』(09年)、『テアトリーノ』(13年)を手がけてきましたが、彼の素晴らしいところは決して諦めずにやり遂げるところです。私は14年に膵臓や脾臓などを取る大手術を受けており、ピノーさんも『安藤さんも今回ばかりは引き受けられないだろう』と思っていたそうですが、たまたまタイミング良くピノーさんに会いに行った私の元気な様子を見て『やはり安藤さんに頼みたい』とおっしゃってくださいました。そうやって、常に自ら動いてチャンスをつかむ姿勢が何よりも大切。チャンスがなければ、挑戦することもできないのですから。

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フランソワ・ピノー氏と。(François Pinault and Tadao Ando. Fred Marigaux 2016. Courtesy Collection Pinault – Paris.)

ちなみにその模型は、大学生たちに作ってもらいました。半年かけて、実物と同じように鉄筋にコンクリートを打って……誰一人、途中でやめることなく作り上げました。いわばこれは彼らの“挑戦”の賜物。諦めずに続ければ、あらゆる人に可能性がある。何よりの証拠です」

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現在進行中のフランソワ・ピノー氏との美術館計画(2019年開業予定/パリ)。旧穀物取引所『ブルス・ドゥ・コメルス』にコンクリートの円筒を挿入。学生たちが手がけた模型を今回の展示で公開する。(© 安藤忠雄)

──この展覧会自体が、安藤さんと人々の挑戦の証しになるわけですね。

「そうです。日本を代表する大企業が経営難に陥るなど、今や何が起きるかわからない時代です。先が見えないなか、企業も人も利益を追求しがちになりますが、私は自分が面白いと思うことをやり続ける姿勢に意味があると信じています。だからこそ、ずっと青いリンゴのままでいなければならない。そう信じて、これからも挑戦を続けていきます」

国立新美術館開館10周年「安藤忠雄展―挑戦―」
会期/2017年12月18日(月)まで
会場/国立新美術館 企画展示室1E+野外展示場
住所/東京都港区六本木7-22-2
TEL/03-5777-8600(ハローダイヤル)
URL/www.tadao-ando.com/

安藤忠雄の半世紀に及ぶ挑戦の軌跡と未来への展望を、安藤自身による空間デザインと、模型やスケッチなど総計270点余りの資料でたどる、過去最大規模の展覧会。21_21 DESIGN SIGHTにて『安藤忠雄 21_21の現場 悪戦苦闘』も同時期開催中。

『安藤忠雄 21_21の現場 悪戦苦闘』
会期/2017年10月28日(土)まで
会場/21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3
住所/東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン
TEL/03-3475-2121
URL/www.2121designsight.jp

Profile

安藤忠雄(Tadao Ando) 1941年、大阪市生まれ。建築家。東京大学名誉教授。独学で建築を学び、69年に安藤忠雄建築研究所を設立。79年『住吉の長屋』で日本建築学会賞を受賞後、プリツカー賞、フランス芸術文化勲章(コマンドゥール)など受賞多数。MoMA(ニューヨーク近代美術館)やポンピドゥー・センター(パリ)で個展を開催、今回が過去最大規模の個展となる。

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