デザイナー鈴木えみを直撃!
新ブランド「ラウタシー」の魅力とは?
2017年秋冬シーズンより、自身のファッションブランド「ラウタシー(Lautashi)」を立ち上げ、デザイナーとして活動し始めた鈴木えみにインタビュー。
モデルとして約20年間第一線で活躍している鈴木えみが、ついに本格的にファッションデザイナーとして始動する。これまでも類稀なる美的センスを生かして、ブランドとのコラボレーションや、自身のメディア『s’eee』の編集長を務めるなど、クリエイティブな才能を発揮してきた彼女。ブランド「ラウタシー」立ち上げのきっかけやコレクションに込めた思いを聞いた。
100%コントロールできるものづくりへの思い
──「ラウタシー」の立ち上げの経緯とは? 「モデルとしてほぼ20年のキャリアを積んできて、これまで本当にたくさんの洋服を着てきましたし、コラボプロジェクトとして服をつくらせてもらったり、本をつくらせてもらう機会にも何度も恵まれてきました。そんな日々のなかで、少しずつ自分が100%コントロールできるものづくりをいつかはやりたいという思いが芽生えてきたんです。30歳を越え、結婚して子育てもして、ライフスタイルにも変化が生まれた今、仕事の内容としても残るもの、実のあるものの比率を増やしていきたい、そんな気持ちがきっかけとなりました」 ──実際に自身がすべてに関わりながら作業していく上で、どんなことを感じましたか? 「ゼロからものをつくっていくと、反応がダイレクトに届くし、学びがとても多いんです。いくつも生産工場を試したり、パタンナーさんとのコミュニケーションも大事ですし、1着の服をつくるためにとにかく工程が多く、モデルの仕事とは桁違いに内容量が多いですね」──ブランドコンセプトを教えてください。
「シーズンテーマは特に設けていません、今まで積み重ねてきた、洋服によって生じる気持ちの変化というものを感じてもらいたいんです。モデルという仕事の経験から、服による気持ちの変化は人一番体感してきたかもしれません。服っていつもとちょっと違う自分を演出できる大切なアイテム。特別なシーンに着るものよりも、デイリーに着て欲しい服をつくりました。女性像としては、心に余裕があって、自ら楽しみたいっていう前のめりな姿勢の女性を考えてつくりました」
──着ると感じることができる「何か」とは何なのでしょうか?
「『ラウタシー』はデイリーに着て欲しいので、着心地は重要なキーワードだと思っています。それは素材のことだけではなく、フィット感にもいえます。女性の体って締め付けたいところと締め付けられたくないというところってありますよね?素直に心地よいと感じてもらえる着心地というのは大切だと思います。シルエットやバランスについても気に掛けていますが、仮縫いではいろんな身長の人が着たバランスを見て調整しています。また、動いたときにどういう見えるか、そこも考えながら作ります。洋服って飾りではなくて、人が着て動いて初めてその役割があると思うので」
スタンダードすぎるものが得意じゃない
──素材のお話が出ましたが、生地はどのように選んだのですか?
「デビューコレクションでは生地を作ることはできませんでしたが、次のSSシーズンではオリジナル生地を使ったアイテムをつくっています。正直、ブランドを始める前、まだ知識がなかったときは、世の中には生地がものすごくあるものだと思っていたから、オリジナルの生地を作る理由ってなんだろうと思っていたんです。でもいざリサーチを始めると、流通している生地では表現の限界があることを感じました。この感じでもうちょっと厚くしたいとか、洗濯ができるようにしたいなど、突き詰めていくとやはりオリジナルを開発するしかないことがわかりました。全部がオリジナルでなくてもいいと思っていますが、表現したいものを実現するために妥協はしたくないです」
──デザインに関するこだわりや特徴とは?
「基本的には自分が着たいものをベースにコレクションをつくり出したいと思っています、アニマルプリントのドレスはオリジナルでイラストを描き下ろしていて、カラフルなニットトップスは、生地展で一目惚れしたインポートの生地を使っています。レイヤードしたようなデザインのボンバージャケットは、実際に私のMA-1と夫のMA-1を重ね着したときの見え方をヒントに作ったものです。外側のジャケットをいい具合に肩を落として着られます。真冬にも着られる暖かさで、ムートンやファーほど重たくないジャケットがつくりたかったので。それからショート丈のカーディガンも、私が欲しかったものの一つです。普通の丈の薄手のカーディガンは、どうしても自分らしくなくて、苦手なアイテムでした。どうしたら自分にに似合うか考えた末、ボリュームをとことん出し、ショート丈にし、さらにハンドニットにもこだわったアイテムが出来上がりました」
──今コレクションはニットやブラウスからパンツ、ドレス、アウターまで展開していますが、構成や型数などはどのように決めたのですか?
「型数自体は少ないので重要じゃないものはつくりたくないなと思いました。デザインしていくなかで感じたのは、何かしらディテールを盛り込んだ、個性のあるものしか私には作れないということ。せっかく買ってもらうなら、服の持つキャラクターを存分に楽しんでほしいなと思います。手持ちのベーシックなアイテムと組み合わせてもらっても良いと思います」
──それは今、鈴木さんが本当に着たいという服の好みが反映されているのですね。
「そうですね。そこをスタートにしないと私が作る理由がないので、たぶんスタンダードすぎるものが得意じゃないんです。シンプルなものを作るにはまだ早いと思うし、今の私の価値観としては、存在感のあるアイテムを打ち出していきたいですね。コレクションを見てくれたバイヤーさんに「このミックス感が面白い」っていってもらったのですが、普段の私にとってはこれが普通なので、そういったコメントをいただけて逆に新鮮でした」
モデルとデザイナー、両立は大変?!
──服づくりをする上で、モデルとしての経験を生かした部分とは?
「たくさんの服を着ていると服の細かい部分がすごくよく見えてくるんです。首の空き具合とか、えりの高さとか本当に細部なんですけれど、「あと数mmこうだったらな」とか「この袖丈、素敵だな」とか。いっぱい服を着てこその気づきというのはあると思います」
──モデルとして現役で活躍しながら、自身のブランドを発表するケースはあまりないですよね?
「そうですね。模索しながらも両立させていただきたいと思います。お声が掛かる限り、服を着る側のお仕事も続けていきたいですし、自分のクリエイションを追求し続けたい思いもあります。これだけやってきてもモデルの仕事って毎回発見があるので両立できる環境を感謝しながら、モデルのお仕事にも、服作りにも自分の経験を還元できたらいいですね」
Photos:Wataru Fukaya
Interview&Text:Etsuko Soeda
Edit:Masumi Sasaki