あなたはどう思った? 鑑賞後に思わず会話したくなる映画『ドラマなふたり』にクリストファー・ボルグリ監督が込めた想い

それぞれ『スパイダーマン』シリーズや『THE BATMAN』シリーズといったスーパーヒーロー映画で活躍する一方、2026年を代表する2大超大作『オデュッセイア』と『デューン 砂の惑星PART3』では共演。問答無用、今をときめくトップスターのゼンデイヤとロバート・パティンソンが、ボストンで暮らすどこにでもいそうなカップルを演じ、結婚式を挙げるまでの7日間を描いた『ドラマなふたり』。それがどんな驚きの「ドラマ」として展開していくかは内緒だが、そんな夢のキャスティングをインディペンデント規模の作品で実現できた理由は、A24、アリ・アスターが共同設立者の映画製作会社スクエア・ペグ、そして今最も注目されている監督の一人、クリストファー・ボルグリの吸引力に他ならない。母国ノルウェーからLAに拠点を移し、スター俳優たちとも同じ世代感や問題意識を共有しているクリストファー・ボルグリ監督に、さまざまな角度から貴重な話を聞くことができた。

ゼンデイヤとロバート・パティンソンとの協業
──ゼンデイヤとロバート・パティンソンはそれぞれその世代を代表する、現在の映画界における屈指のスターアクターですが、『ドラマなふたり』ではそんな2人の魅力をスポイルすることなく、どこにでもいる女性や男性のように見えます。どういうアプローチで臨んだことで、それを可能にしたのでしょうか?
「キャラクターについて2人とじっくり話し合っただけさ。彼らの演じるキャラクターがどういう考えを持った人間で、これまでにどんな生い立ちや交友関係の中で育ってきたか。重要なのは、2人に寄せてキャラクターを調整していくのではなく、あくまでも2人からキャラクターに合わせてもらうことだった。ゼンデイヤもロバートも脚本に書いたキャラクターをよく理解してくれた。最高のコラボレーションになったよ」
──あなたはロバート・パティンソン、そして彼が演じたチャーリーというキャラクターと同じ世代ですよね。これまでのあなたの作品と比べても、今作は主人公の一人であるチャーリーのキャラクターに、ご自身を投影している要素も多かったんじゃないかと推測できるのですが。
「基本的に僕が描くキャラクターは自分の過去の経験や周囲の観察、もしくはその両方に基づいているわけだけど、確かにチャーリーのキャラクター設定に関しては自分との共通点も多い。まず、チャーリーも僕もアメリカで暮らしているヨーロッパ人だ。特に自分のような北欧系のヨーロッパ人は考えすぎの傾向が強くて、それで自分で自分の首を絞めてしまう。つまらないことで、ずっと悩んだりするんだ。僕自身、日々の生活で浮上してくるふとした出来事でふさぎ込んでしまうようなところがある。チャーリーのキャラクターにも、そういう神経症的傾向があると言える。ロバートは『チャーリーには共感できない部分がある』と言ってたけど、僕にとってチャーリーの苦悩はすべて当たり前のことに思えるんだ。ロバートにもそう伝えたら、よく理解してくれたよ」

道徳的にグレーな領域に問いを投げかける
──今はLAで暮らしているんですか?
「数年前にノルウェーからLAに越してきた。インターネットが普及して以来、少なくとも欧米では文化に境目がなくなってきたから、移住は以前より容易になったと思うよ。道徳的な規範もどんどん似てきているしね。だから、LAに引っ越してからは、ノルウェー映画ではなくアメリカ映画を作るようになった。LAの暮らしがとても気に入っているんだ。ありきたりの感想だけど、ノルウェーと比べるとLAはまるで天国のような気候だからね。ノルウェーの鬱々とした天気によってもたらされるネガティブな思考もだんだんなくなってきた。人は心地よくハッピーな環境じゃないとなかなかクリエイティブにはなれないんだよ。そういう心理面や感情面の変化は、フィラデルフィアからLAに越してきた頃のデヴィッド・リンチみたいな感じかもしれない(笑)」
──デヴィッド・リンチの名前が出ましたが、自分はあなたの前作『ドリーム・シナリオ』(2023年)を観たとき、もしウディ・アレンが今の時代に30代だったとしたら、こういう作品を作ったかもしれないと思ったんです。限定された場所で、限定された人間関係を、ダークなユーモアを交えてその深層まで描くこと。その作風は、今回の『ドラマなふたり』にも共通しています。
「確かに1970年代の特定の作品、特にイングマール・ベルイマン、ポール・マザースキー、そして君が指摘したウディ・アレンの作品については、その流れを自分が引き継いでいるのかもしれないと思う。積極的に誰かの作品を模倣するつもりはないけれど、僕という人間がこれまで観てきた数々の映画に形作られているのは事実だし、それらの作品に導かれて自分がどういう作品を好きなのかも理解している」

──その傾向を言葉にするなら、どういうものになりますか?
「“内側と外側の接点を描いた作品”と言えるかもしれない。つまり、ある個人の精神が、その周辺の世界や社会と接したときに生じる緊迫感を描写している作品が好きなんだ。小説では今もそういう個人の内面や心理を描いた作品は多いけど、映画では減ってきているね」
──身に覚えのないことや現実に起こしたことではないことで、急に周囲の人間の態度が変わる。前作『ドリーム・シナリオ』から続いて、本作もモチーフの一つとしてキャンセルカルチャーを扱っているという解釈が可能ですが、それはあなたがそこに現代的な問いの核があると考えているからなのでしょうか?
「何が正しいのか間違いなのか、社会全体もまだ決めかねているような道徳的にグレーな領域を描くことに興味があるんだ。そして、作品を観終わった後、観客を“会話”に誘い込みたいと思っている。自分の作品をきっかけに、みんなにも考えを巡らせて葛藤してほしい。白黒はっきりした世界を観客に提示することには関心がない。リアルで曖昧なものに関心があるんだ。特にこの10年ほどは、社会自体も何が正解がわからずにもがいているような気がする。キャンセルカルチャーは、そのグレーな領域で起こっている議論の一つだね。みんながインターネットでつながっていて、誰でも意見を言えるから起きている現象と言える」
──『ドラマなふたり』を観た後、自分も周りで作品を観た人を探していろんな“会話”をしました。もしかしたらここがアメリカではなくて日本だからかもしれませんが、そこでは自分も含め「エマ(ゼンデイヤ)よりもレイチェル(アラナ・ハイム)のほうがヤバいよね」という意見も多くて(笑)。
「それは理解できるよ。レイチェルは一方的に何かを決めつけるタイプだからね。アメリカの観客の間でもその反応は多く見られる。彼女みたいな人間が周りにいたら僕も『勘弁してよ』って感じだけど(笑)、どう判断するかは観客次第だし、そこに正しい答えなどない。本作はそうやって観る人のナイーブさや道徳観を試しているんだ」

“内面”を深く掘り下げていく映画作り
──気になったのは、エマの子ども時代を演じたジョーディン・キュレットが、大人になってからのエマを演じたゼンデイヤとあまり似ていないことです。日本映画ではそういう作品のノイズとなるような雑なキャスティングは珍しくないのですが、そういうのとは違って、これは明らかに何らかの意図があるキャスティングですよね?
「その通り。そこでは芸術的表現の自由を行使させてもらった。現在のエマは子どもの頃の自分のことをうまく認識できていないから、それを見た目でも表せたらと思ったんだ。実は、もっと大きな差異を出すアイデアもあったんだけど、そうすると観客の心が離れていくかもしれないと感じた。だから、生物学的にも身体的にも完全に不可能に見えるようにはしなかった。あと、純粋にジョーディン・キュレットと一緒に仕事をしたかったんだ。実際、彼女は本当に素晴らしい役者だった」
──あなたは長編映画を作る際、監督だけでなく、自分で脚本を書き、近作では自分で編集もしています。優れた映画監督にとって、同時に優れた脚本家やエディターであるということは必要条件ではないと思いますが、あなたにとってはそれが必要なことなのでしょうか?
「そう。僕にとっては必要不可欠なことだ。作品の原点にあるアイデアや好奇心やそこでのジレンマは、脚本の段階から湧いてきて、それは編集までずっと続く。脚本の時点で、どのショットをどこに入れるとか、編集のことも考えながら書くんだ。すべての作業はつながっている。それを総括して、僕は映画作りと呼んでいる。だから今後も自分で脚本を書くつもりだ」

──短いシーンはテンポよくスピーディに、長いシーンは腰を据えてじっくりと。そんなあなたの作品の変幻自在なリズムとそれによって生み出される心地よさも、脚本と編集も手がけているからなんじゃないかと思っているのですが。
「とても直感的なものだから、そこを言葉で説明するのは難しいね。作品の構成やペースは、作りながら自然と決まってくるものなんだ。でも、脚本の段階でかなり決まっていると言えるかもしれない。脚本を書きながら、どういう映画になるのかがだんだん見えてくる。だから、自分の場合、最終稿は映画の完成形に限りなく近い。自分にとって映画作りはスカルプティング(彫刻のように素材を削っていく)というより、内面まで掘り下げていく感覚なんだ」
──前作に続いてアリ・アスターがプロデューサーの一人としてクレジットされてますが、彼との出会いは何がきっかけだったんですか?
「アリとは、製作会社スクエア・ペグの共同設立者ラース・クヌードセンを通じて知り合ったんだ。ラースはデンマーク人で、僕はノルウェー人で、文化的、地理的背景が似ていたこともあって、まずラースと意気投合して、脚本を書いてラースに送ったら、その脚本が自然にアリにも渡ることになった。そして、そこからアリのフィードバックが届くようになった。アメリカに来たばかりで、彼らのような仲間と出会えたのは本当に幸運だったし、今後も一緒に映画を作り続けることになると思う。アリは、自分の関心のあることだけを追求する、恐れを知らない監督だよね。日和見主義ではないし、戦略的に動くこともない。そこはとても尊敬しているよ」
『ドラマなふたり』
ボストンのカフェで運命的な出会いを果たしたチャーリーとエマは、この上なく幸せな日々を送っていた。結婚式まであと7日と迫った夜、付添人の親友夫婦と4人での食事中、これまでにやらかした最悪の行いを告白することに。軽い気持ちで始めたゲームだったが、エマの【最悪の秘密】に全員がドン引き。チャーリーはエマには想像を絶する別の顔があるのではないかと恐れを抱く。幸せの絶頂は一転、疑心暗鬼のどん底へと墜落するが、結婚式の準備を止める術はなく、遂に当日を迎えるー。
監督・脚本/クリストファー・ボルグリ
製作/ラース・クヌードセン、アリ・アスター
出演/ゼンデイヤ、ロバート・パティンソン 、アラナ・ハイム、ママドゥ・アティエ、ヘイリー・ゲイツほか
2026年8月21日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
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Interview & Text:Koremasa Uno Edit:Mariko Kimbara
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