礼真琴、新章へ。喜びもゆらぎも力に変えて、歩み出す理由 | Numero TOKYO
Interview / Post

礼真琴、新章へ。喜びもゆらぎも力に変えて、歩み出す理由

2025年8月に宝塚を退団し、新たな一歩を踏み出した礼真琴。「ひとりで歩き始めて2歩目」だと語る彼女は、毎日揺れ動く心境の中で、新しい出会いや挑戦に身を委ねながら、自分自身の輪郭を更新し続けている。トップスターとして積み上げてきた覚悟と、まだ知らない未来への高鳴り。そのすべてを抱えながら、“礼真琴の第二章”は静かに加速していた。

「宝塚で過ごした時間は、“礼真琴”を形づくったすべてなんです」

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──宝塚歌劇団を2025年の8月に退団されて少し時間が経ちましたが、どんな心境の変化がありましたか?

「毎日、心境が変化しています(笑)。退団した後、まだ宝塚に自宅があった頃は、家に帰るたびに少し切なくなったり、悲しくなったりしていたんです。でも、上京をしてからは、いい意味で“帰る場所がない”状態になったからこそ、『前に進むしかない』という気持ちに切り替わりました。今回のような撮影を経験したり、新しい方々と出会う機会が増えて、新鮮で刺激的な日々を送っています」

──宝塚歌劇団での経験はすべてが宝物だと思うのですが、振り返ってみていかがですか?

「宝塚で過ごした時間は、“礼真琴”を形づくったすべてなんです。だから退団した今も、つい『宝塚ではこうだったけど、ここではどうなんだろう』と、何事も宝塚を基準に考えてしまいます。でも、環境が変わった今でも、人との関わり合いのように変わらないものもありますし、宝塚時代にずっと続けていたルーティーンが、今の生活で自然と役に立っていることもあるんです」

──具体的にどのようなことでしょうか。

「まず、朝起きたらどんなに暑くても湯船に入ります。そうすることで、身体をリセットしているんです。さらに、宝塚時代からずっと一緒に過ごしてきた愛車をそのまま東京に持ってきました。車の中って、いろんな思い出がよみがえるんですよ。だからこそ、新しいことで頭がいっぱいいっぱいになったとしても、愛車に乗るだけで心がふっと癒される。そんな些細な出来事が、私の芯になっているように思います」

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──これまでトップスターとして活躍される中で、大きな責任感やプレッシャーもあったと思いますが、ご自身の弱さを誰かに見せることができましたか?

「弱さは絶対に出さないタイプでしたね」

──それは、今も変わりませんか?

「う~ん……出したくないというか、出せないんです。星組時代も周りに『何かあったら言ってね』と声を掛けてくれる方がたくさんいてくれたのですが、性格的に人に頼るのがあまり得意じゃなくて(笑)。自分の悩みを打ち明けることで、相手の時間を奪ってしまう気がして、つい申し訳なくなってしまうんです」

──その感覚は、幼い頃からあったのでしょうか。

「いや、宝塚に入ってからですね。決してそれをネガティブに捉えているわけではないのですが、『これは相談しようかな』と思ったとしても、相手のことを考えると『自分で解決したほうがいいか』と思ってしまうんです。ちょっと面倒なタイプなんです(笑)」

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──でも礼さんはとてもお話しやすいタイプだから、逆に相談される機会は多かったのではないでしょうか。

「そうですね。私は人の話を聞くのが好きなので、誰かとお会いするときも“ずっと話していてほしい”と思うタイプなんです(笑)。だから、自分の悩みはあまり口にせず、時間が解決することを待つことが多いですね」

──気持ちの発散は、どのようにされていたのでしょうか。

「実は私、とても泣き虫なんです。自分のことではあまり泣かないのですが、ドラマや映画を観るとすぐに涙がブワッと出てしまうタイプ。先日も、星組公演の『アレクサンダー』を観て心から感動し、自分でも驚くほど号泣してしまいました(笑)。私が退団した後の3カ月の間に、星組生は新しい作品をつくり上げ、千秋楽まで走り抜けているんです。そのタカラジェンヌのエネルギーと底力に圧倒されましたし、舞台上のみんなの頑張りを見ていたら、思わずボロボロと涙があふれてきて……」

──それは在籍時にはなかった感情ですか?

「新しい感情でした。当時は自分も演じる側だったので、客観的に受け止めたことがなかったんです。でも、今回は違った視点で観ることができて、改めて『すごいところにいたんだな』と実感することができました」

──新しい感情との出会いが続く、そんな日々なんですね。

「本当にその通りで、毎日が学びの連続です。宝塚にいた頃は、たくさんのことを多くの方に支えられていたんだと、改めて気づきました。稽古初日には台本や楽譜も揃っていて、自分が出る場面も衣装も、すでにすべてが決まっているということが“当たり前”の環境だったんです。でも今は、コンサートひとつをとっても全部自分で決める立場になっていて。『自分は何をしたいのか』『何をすべきなのか』に向き合う日々。正直、頭がパンクしそうになることもありました(笑)。それでも、今はそのプロセスがすごく楽しいんです」

「毎回、怖いくらい緊張しますし、不安や恐怖もあります。だからこそ、“どう乗り越えるか”が自分の課題なのです」

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──改めて今、表現する楽しさ、表現する意味をどう捉えていますか?

「きっと、これから感じるんだと思っています。これまで男役として培ってきたことが、どう舞台で役立つかはまだまだ未経験ですし。なによりも、2026年に主演させていただくミュージカル『バーレスク』は未知の世界なので、今はすごくワクワクしています。ただ、純粋に楽しみな気持ちだけでなく、不安で怖い気持ち、早く飛び込んでみたいという気持ちや緊張が入り混じっている状態で……。はじまってしまえば、楽しみ方を見いだせると思うのですが、今の準備期間がいちばん怖いですね」

──ミュージカル『バーレスク』の主演が決まったときの心境を教えてください。

「かなり前に映画を観たときは、自分が主役を演じるなんて想像もしていなかったので、ただ単純に楽しんでいました。でも、実際に役が決ってから改めて観直したら、顎が落ちるほど衝撃で! さらに、ロンドンでミュージカル版を観たときは、出演者のみなさんの圧巻のパフォーマンスに完全に圧倒されてしまって。だからこそ、日本のキャストでどこまでできるのか──その挑戦を、ぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです」

──お話をしていると、プレッシャーに負けるようなイメージがあまりないのですが……。

「いえいえ、めちゃくちゃ感じます!(笑) 毎回、怖いくらい緊張しますし、不安や恐怖もあります。だからこそ、“どう乗り越えるか”が自分の課題なのです。結局は、どんなことでも“練習の量”と、“負けず嫌いの気持ち”、そして“自分には負けたくない”という強さが大事なのかなと思っていて。宝塚にいた頃も、怯えている自分やひるんでいる自分に負けたくなくて、毎回自分を奮い立たせて舞台に立っていました。きっとこれからもその姿勢は変わらないと思いますし、一生、自分自身と戦い続けていくんだろうなと思っています」

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──そのストイックさが、舞台に立ち続ける原動力になっているんですね。

「そうですね。現役の頃は、どんなコンディションの日でも『絶対にここまではやる』という自分なりのラインを決めていました。調子がいい日や、休前日はそのラインを超えていきますし、逆に体調がすぐれない日は、どうにかそのラインだけは下回らないように踏ん張っていて。でも、そう考えると……やっぱりストイックなのかもしれないですね(笑)」

──自分を保つためにしていたことはありますか?

「役や仕事を家に持ち込まないようにしていました。家に帰ったら、愛犬とゴロゴロしてリラックスする時間に切り替えるんです。そのスイッチがはっきりしているので、たとえ舞台で極悪人を演じていても、直前まで爆笑していることもあるくらい(笑)。オンとオフをきちんと分けることは、すごく大事にしています」

──これから、どんな景色を見てみたいと思いますか?

「まだ、“ひとりで歩き始めて2歩目”くらいの段階なので、正直どんな未来が待っているかは想像しきれないんです。でも、コンサートや『バーレスク』を終えたら、きっと新しい自信が生まれると思うので、今はその瞬間が楽しみですね。男役時代も、自分では自覚ができていなくても、経験を重ねることで確かな積み上げがありました。これからも同じように、経験と自信をひとつずつ重ねていきたいと思っています。

そして今後は、舞台に立つことや歌うことだけでなく、映像の世界にも挑戦してみたい気持ちがあります。その夢を一つひとつ叶えていくためにも、まずは目の前のことを丁寧に、着実に積み重ねていきたいですね」

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──では最後に、2009年の宝塚入団当初の自分自身に会えるチャンスがあるとしたら、どんな言葉をかけたいですか?

「『調子に乗るなよ』って言いたいですね(笑)。3年目くらいの自分の舞台映像を見ると、どこかちょっと調子に乗って、カッコつけて踊っているんですよ。それを見るたびに『もっとまじめにやってよ~!』って思うんです。でも、今日の撮影の写真だって、10年後に見たら『無理に女性らしく撮ってない!?』なんて思うかもしれないですよね(笑)」

──10年後、その気持ちを確認するためにも、またインタビューさせてくださいね(笑)。

「ぜひ!」

 

ミュージカル『バーレスク』日本キャスト版
脚本/スティーヴン・アンティン
エグゼクティブプロデューサー/クリスティーナ・アギレラ
演出/トドリック・ホール
公式HP/http://www.umegei.com/burlesquejapan2026/

<公演日程>
東急シアターオーブ(東京)2026年5月~6月
梅田芸術劇場メインホール(大阪)2026年7月 
博多座(福岡)2026年7月~8月

Photos:Yu Inohara Styling:Kayo Hosomi Hair & Makeup:Eri Akamatsu Interview & Text:Kana Yoshida  Edit:Hisako Yamazaki

 

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