中里唯馬×蜷川実花が特別対談! 六本木を席巻するクチュールというアートの美に迫る | Numero TOKYO
Fashion / Feature

中里唯馬×蜷川実花が特別対談! 六本木を席巻するクチュールというアートの美に迫るPROMOTION


日本人で唯一、パリのオートクチュール・ファッションウィークの公式ゲストデザイナーとしてコレクションを発表し続ける中里唯馬。2024年に自身のブランド設立から15周年を迎え、さらなる新章への飛躍が期待される絶好のタイミングで、そのクリエイションを間近に感じられる貴重なエキシビションが開催されている。ラインナップには、この1月末にパリで発表されたばかりのクチュールピースや、パートナーシップを締結するセイコーエプソンと創り上げた最先端のアップサイクル素材を駆使した作品など、ファッションの未来を感じさせる力作が揃った。

展覧会のエントランスでは、フィギュアスケーターの羽生結弦が自身の写真集の中で纏ったYUIMA NAKAZATOのピースと、蜷川実花による美麗な写真のスクリーンが訪れる人を出迎える。実は中里と蜷川は、中里がデザイナーとして歩みはじめた当初から親交があるのだとか。小誌編集長の田中杏子がモデレーターとなり、ともに見る人の感性をゆさぶる表現活動を続ける二人に、互いの創作にかける思いを語ってもらった。

ファッションと写真。“非言語”の表現を操る二人の信念

田中杏子(以下、田中)「以前から交流があったというお二人ですが、出会いのきっかけは? また、会場のエントランスに飾られている羽生結弦さんのお写真でのコラボレーションは、どのようにして実現したのでしょうか」

中里唯馬(以下、中里)「初めて実花さんにお会いしたのは私が20代前半の頃。デザイナーとして活動を始めた、まだ本当に駆け出しの時期だったと思います。知人を介してご自宅にお伺いさせていただいた記憶が」

蜷川実花(以下、蜷川)「そうそう、『面白い子がいるからぜひ連れてきたい』と紹介してもらったのがきっかけです。そのときお会いした印象は、とても素敵なものづくりをしていらっしゃるのだけれど、決してグイグイ前に出たり主張したりしない感じ。“新しい世代の人ってこうなんだな”と感じたのを覚えています。シーズンごとの展示会にお伺いすると、いつもまるで美術館みたいな仕上がりで。唯馬くんの服を通して“こういう世界の見方があるんだ”と気づかされたことが何度もありました」

中里「そんなふうに言っていただき、本当にありがたいです」

蜷川「羽生結弦さんとの撮影で着てもらったピースも、すでに展示会で拝見していて。彼を久しぶりに撮るお話をいただいたとき、“絶対あの服が似合う!”と思ったんです。実際に着てみてもらってやはりとんでもなくお似合いだったし、“みんなが見たい羽生さんのさらにその先”という感じもした。彼自身、服の持つ世界観やストーリーをすごく吸収して表現してくれる方。その点でいうと、唯馬くんの服には語ることがすごくあって、本当にぴったりの組み合わせでした」

中里「実はあのあとアメリカでバレエの衣装制作の仕事があったんですが、ちょうどボストン美術館で葛飾北斎展をやっていたんです。それでなんとなく足を運んだらこの写真が飾られていて、びっくりしました」

蜷川「そうそう! キュレーターの方から『これは北斎の『神奈川沖浪裏』を感じさせるので、ぜひ展示したい』と連絡があって、写真を提供したんです。私は現地へ行けなかったのですが、まさか唯馬くんが見てくれていたとは!」

田中「クリエイター同士でのコラボレーションや最新テクノロジーの採用については、それぞれどのようにして決断されているのですか?」

中里「私の場合はまず最初につくりたいイメージがあって、そこに合う手段としてテクノロジーを探していく形をとっています。選び方はごく直感的な気がしますね」

蜷川「たしかに唯馬くんの場合、技術ありきでそれを振り回すのではなく、伝えたいことのために無理なく取り入れている感じがしますよね。もともと、そういう最新の素材とか技術に詳しいの?」

中里「そういうわけでもないですよ。友人や知り合いから雑談レベルで聞いていた情報を、必要に応じて思い出すくらい。それでいうと、コミュニティ内のつながりに助けてもらっている側面もありますね。実花さんも展示の見せ方など年々進化していっていると思うのですが、そうしたものは自然と取り入れられているんですか?」

蜷川「数年前からEiM(エイム)というクリエイティブチームを組んでいて、大規模なインスタレーション作品を発表することも多くなりました。話し合っていく中で、よりよいアイデアや私が知らない方法が出てきたらどんどん取り入れます。私は常に新しいことに挑戦していたいし、頼れるものがあるなら、全力で頼りたいタイプ(笑)。“この人のセンスは信頼できる”と感じたら、思いきって任せてみるとか。もちろん大前提として、コンセプトや向かうべき道はしっかり指し示すようにしますけどね」

中里「たしかにそういうスタンスでいるほうが、よいシナジーが生まれやすくなる気がします」

チームワークと個人作業、そのバランスを取ることが大切

YUIMA NAKAZATO couture Spring/Summer 2025 ‘FADE’ Photo by Yuima Nakazato
YUIMA NAKAZATO couture Spring/Summer 2025 ‘FADE’ Photo by Yuima Nakazato

田中「先日発表されたばかりのクチュールコレクションでは、中里さんがサハラ砂漠への旅の中で、自ら写真を撮り下ろしたとか。蜷川さんも、写真家から映画監督、そして近年では大規模なインスタレーションと、活動の幅を拡げられています。ご自身の専門分野を超えていくということについての思いを聞かせてください」

蜷川「この写真、唯馬くんが撮ったの!? すごい!」

中里「そうなんです、ありがとうございます。私は、服って非言語のメディア、コミュニケーションだと感じていて。人間は暑さや寒さをしのぐ以上に、その服に宿る“物語”を身に纏っているんじゃないかなと思うことが多々あるんです。今回展示した服も写真も、どちらも言語ではない表現という意味では似ている。多様な受け止め方があるものですが、その中に込められたストーリーやメッセージを少しでも感じ取ったり、再認識したりしてもらえたらうれしいですね。ファッションショーは基本的に大勢でつくっていくので、その面白さと同時に、やはり細かい部分は自分の力でどうにもならないもどかしさを感じることも。一方で、写真や陶芸といった活動は自分一人で完結する。双方を行き来することで、自分の中のバランスが取れると感じています」

蜷川「それ、すごくよくわかる。私にとっては、セルフポートレートや最近ハマっているレジン細工がまさにそう。深夜や早朝に、一人でコツコツ取り組んでるの(笑)。普段の仕事は大勢だからこそできることもおおいにあるけど、周囲を納得させられる説明や社会的意義とか、諦めることが必要でもある。一人だけでできる何かって、もっとピュアでプリミティブで、自分の内から湧き出る意欲のみで取り組めるんだよね」

中里「実花さんもやっぱりそうなんですね。京セラ美術館で展示されているレジン細工を拝見しましたが、その部屋から異様なパワーを感じて(笑)。ほかの展示もものすごいスペクタクルだったんですけど、あのセクションには個人的に感情移入してしまうものがあったんです」

自分が本当に表現したいこととは何なのか
向き合うことから始まる

田中「中里さんは、若手のファッションデザイナーの支援プロジェクトにも取り組んでいらっしゃいますね。また蜷川さんは、世界を舞台にした数多くの企画展や展示を通し、若い人を導く立場でもあると思います。これから表現をしていく人々、またその意欲を胸にこの展覧会を訪れる人に伝えたいことがあれば、ぜひ教えていただけますか」

中里「若い世代に向けて何かを説くことはほとんどないのですが、その人がその表現を本当にやりたいと思っているのかどうか、は聞いてみることが多いですね。今ってSNSがすごく拡がっているから考え方が一般化されやすくて、“なんとなく受けそうだからこうしよう”と軌道修正してしまいやすい。でも実は、自分がひたすら何時間も夢中になれるものを見つけるのがいちばんだと思うんです。“誰にも評価されないから”とか“ビジネスにならないから”と外からの評価に左右されるのは、危険だしもったいない。たとえ10枚や20枚では魅力に気づいてもらえなくとも、何千枚になればすごいものになるかもしれないので」

蜷川「継続は力なり、ですよね。写真や映像はスマホがあれば誰でも撮れる時代になった今、その人が“何を思って生きているか”によりフォーカスされるようになったと思うんです。“なんとなくサステナブルを取り入れよう”とかお利口さんな理念ではなく、心から何を表現したいのかを磨かないとスタートラインには立てないなぁと。反対にそこさえあれば、いろんな方法でアウトプットがしやすい環境でもある。もちろん最初から哲学的な何かが絶対に必要というわけでもなく、やりながら見えてくることもあるんですけど、そこをちゃんと掴めるように意識するとよいのかなと思います」

中里「おっしゃるとおりですね。そういう思いがある人とない人の差ってかなり明確。外側を取り繕ってもすぐ露呈してしまうから、シビアです」

蜷川「唯馬くんの作る服は何度か写真に撮らせてもらっているけれど、作品から伝わる息遣いを毎回すごく感じていて。服の形をしているけれど、その奥にいろんな思いがあるんです。だからこの展示には、普段服に興味がないという人にもいっぱい来てほしいし、私もいっぱい足を運びたい。でも、こうやって見ていると……買いたくなってしまいますよね。これって買うことはできないんだよね?」

中里「実は……買えます! 今回は特別にオーダーもできるようにしていて。アフリカから持って帰ってきた服を粉砕してつくったスニーカーなんかも揃えています」

蜷川「そうなんだ! 私、いい質問しましたね(笑)。やっぱり実物を見てパワーを感じると、着たくなってしまうもの。それも含めて楽しんでもらいたいですね!」

『YUIMA NAKAZATO展─砂漠が語る宇宙と巨大ナマズの物語は衣服に宿るか─』
会期/2025年2月3日(月)〜16日(日)
会場/東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)
住所/東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー
TEL/03-6406-6652(東京シティビュー、森アーツセンターギャラリー)
URL/www.yuimanakazato.com/exhib_2025.html

Photos: Yu Inohara Hair & Makeup(Mika Ninagawa): Noboru Tomizawa(CUBE) Text: Misaki Yamashita Moderator: Ako Tanaka Edit: Yukiko Shinto

Profile

中里唯馬 Yuima Nakazato 2008年、ベルギー・アントワープ王立芸術アカデミーファッション科を卒業。2016年より現在に至るまで日本人として唯一、パリ・オートクチュール・ファッションウィークにてコレクションを発表し続けている。近年では、単独回顧展 ”BEYOND COUTURE” がフランスの公立美術館であるカレー・レース・ファッション美術館にて開催された。アメリカのボストン・バレエ団やスイスのジュネーブ国立劇場等で行われるオペラやバレエ等、舞台芸術の衣装デザインを行う。2024年にはドキュメンタリー映画『燃えるドレスを紡いで』がトライベッカ映画祭にて特別賞を受賞。
蜷川実花 Mika Ninagawa 写真家・映画監督。木村伊兵衛写真賞ほか数々受賞。映像作品や空間インスタレーションも多く手がける。『ヘルタースケルター』(2012)、『Diner ダイナー』(2019)はじめ長編映画を5作、Netflixオリジナルドラマ『FOLLOWERS』(2020)を監督。写真集120冊以上を刊行、個展150回以上、グループ展130回以上と国内外で精力的に作品発表を続ける。個展「蜷川実花展 : Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」(TOKYO NODE 2023年12月-2024年2月)にて25万人を動員。京都市京セラ美術館にて「蜷川実花展 with EiM:彼岸の光、此岸の影」が2025年3月30日(日)まで開催中。

Magazine

MAY 2025 N°185

2025.3.28 発売

Live Romantic

ロマンスを咲かせよう

オンライン書店で購入する

f