スペイン発レザーブランド HEREU デュオデザイナー インタビュー「伝統的な職人技を守りたい」
Interview / Post

スペイン発レザーブランド HEREU デュオデザイナー インタビュー「伝統的な職人技を守りたい」

2014年にスペイン・バルセロナでスタートし、クラフツマンシップを感じさせる靴やバッグが、ファッションにこだわりのある人々の間でジワジワと人気になっている「HEREU(へリュー)」。感度の高いセレクトショップで取り扱われているが、ブランドストーリーなど詳細はまだ知らない人も多いかもしれない。

そこで先頃、来日したデュオデザイナーのホセ・ルイス・バルトロメとアルベルト・エスクリバーノにインタビュー。クリエイションへの思いや日本の旅の思い出などを話してもらった。

HEREU 2024 Resortのヴィジュアル
HEREU 2024 Resortのヴィジュアル

──ファッションへの興味は子どもの頃から?

アルベルト(以下A)「小さい頃からファッションが好きでした。母親がつくってくれるものをさらにカスタマイズしたり、絵を描いたり、何かをつくるのに夢中だったんです」

ホセ(以下H)「僕は自分の服は必ず自分で選ぶような子供でした。母親は美容師だったので、放課後によく店へ行って彼女の仕事を見ていましたね。ファッションを学びながら、同時に靴のショップでアルバイトをするようになって、靴のデザインに興味を持つようになりました」

──へリューを立ち上げる前に、ハイブランドで経験を積んだそうですね。

A「そうですね、靴もバッグも見た目の美しさだけでなく、プロダクト的に考えるようになった気がします。大きいブランドになればなるほど機能を疎かにせずデザインしているので、そのプロセスはとても学びがありました」

H「僕はハイストリート系のブランドに従事していました。興味の入口は靴&バッグ全般でしたが、やはり好きな靴づくりを学べる環境を選びましたね」

バルセロナにあるへリューのアトリエ
バルセロナにあるへリューのアトリエ

──へリューを二人で立ち上げた経緯を教えてください。

H「学校を卒業して、それぞれパリとロンドンで暮らしていました。ある夏、バカンスでアルベルトの地元、マヨルカ島のビーチを歩きながら二人で話したんです。『今、仕事としてやっていることは勉強になるけれど、もっと自分たちのバックグラウンドと関係があることをやりたいよね』と」

A「僕の美意識に埋め込まれているのは、母や祖母の使っていたものやクローゼットの思い出。育ってきた過程にはスペインにもユニークなブランドが身近にありました。それらはとても希少なものになってきているように思います。それで自分らしさを形成しているものに、さらにモダンな解釈を加えてをクリエイションできたらいいなと。色褪せない過去の美しさを大事にしながらモダンに、それがへリューのアイデンティなのです」

デザイナーのホセ(左)とアルベルト(右)
デザイナーのホセ(左)とアルベルト(右)

──ブランド名は「相続人」を意味するそうですね。クラフツマンシップにフォーカスした理由は?

A「スペイン国内を旅するなかで、消えゆくような伝統の技術を使った美しい工芸品をたくさん見つけました。親から子へ、何世代も長く時間をかけて継承してきた職人の貴重な手仕事を守りたい気持ちもありましたし、そういうものを見たときに感じる気持ちも僕たちの思い出のなかにあるもの。そのエモーションはへリューに反映されています」

──お二人はどのように仕事をシェアしていますか。

A「デザインは二人で相談して決めています。靴づくりは基本的にホセが担当していて、ビジネスの部分はチームで行っています」

──デザインありきで協業するファクトリーを決めるのでしょうか。それともファクトリーが持つ技からデザインへと落とし込むのでしょうか。

H「すごくいい質問です! へリューではまずファクトリーのテクニックありき。いい技を持つ人々と出会って、それを何かに使えないか考えています。一定の制限を持ってつくるほうが楽しいと感じます。専門の技術を持った人々は、決まった形以外の使い方をしたことがないわけです。僕たちはその技術をどう生かすかを考えていると、思いがけないアイデアが浮かんでくきます」

A「職人たちは『何しているのかな?』と心配そうに見ていますが、実際仕上がったものを見て『自分の技術はそういう風に使うこともできるんだ!』と嬉しい驚きでハッピーでいてくれます」

職人の技を生かしたへリューのアイテム
職人の技を生かしたへリューのアイテム

──職人の技術を生かした、わかりやすいアイテムはありますか?

H「例えば、夏に発表したラフィアのトートバッグ『カレッラ』。伝統的なエスパドリーユのソール部分に編んである部分があるでしょ? それしかやってこなかった工場に依頼しています。40cm幅の織機だったので、切り替えのデザインはその幅を生かして考えています。古い機械だから織り上げるのにすごく時間もかかっていて、1点1点微妙に表情が違っているんですよ」

古い織機で編まれたラフィアのトートバッグ「カレッラ」¥82,500
古い織機で編まれたラフィアのトートバッグ「カレッラ」¥82,500

──ほかにどのようなファクトリーとの取り組みがありますか。

H「モカシンをはじめ、多くの製品に使っている高品質なスペイン産のレザーは、ガリシア地方で1870年代から皮革製造やなめしに携わってきたタンナーです。職人と連携してレザーの開発を行っています」

A「2本以上の紐を交錯させながら拠りをかけ、強度を高めていく独自技法を持つアリカンテにある編み工房、ロドリゲス社とも提携しています。この技術はクロスボディバッグ『トレナ』に特別な表情を添えています」

──とても意義がある仕事ですね。

H「僕たちは特殊な技術を持っている人がいると聞いたら、スペイン国内どこでも出かけていくんです。ただ決まったサイクルでスピード感が求められる現代のファッションカレンダーで、こういった手仕事の職人と進めることは簡単じゃない。サンプルの納期もありますからね」

──秋冬の新作で気に入っているアイテムは?  

H「靴担当として特に気に入っているのは、ラムレザーのショートブーツ。日本でも70~80年代に曲が大流行したと聞いていますが、スペインの歌手、フリオ・イグレシアスが毎年200足、関係者にオーダーしていたヨット用モカシンから着想しました。一枚革による、とてもしなやかな仕上がりです」

24-25秋冬のシューズ。左がフレオ・イグレリアスの靴にインスパイアされたブーツ。
24-25秋冬のシューズ。左がフレオ・イグレリアスの靴にインスパイアされたブーツ。

──へリューのアイテムには工芸のようなニュアンスがありますね。好きなアーティストや工芸の作品はありますか。

A「スペインの歴史的な写真家、フランセスク・カタラー・ロカやサビエル・ミセタクスの作品。それから伝統工芸品のボティホという取手のついた陶器の水入れ、マヨルカ島の吹きガラスや笛人形のシウレルにも惹かれます。日本人では岡本太郎の作品が好きです。少しづつ違っていて完璧でない、ワビサビにも通じる美意識が気になります」

今回の来日で二人は南青山の岡本太郎記念館も訪れた。
今回の来日で二人は南青山の岡本太郎記念館も訪れた。

──スペインへの愛を感じます。忘れられないエモーショナルな風景はありますか?

H「マヨルカ島は海もあり山もあり、本当に美しく思い出深い場所です」

A「そうですね。僕にとっては出身地ですし、島なので外界と距離があるからか、今なお昔の風景が保たれているところも魅力です。魚を釣ってきて、食べるようなシンプルな生活が叶います」

──ブランド設立から10年経つなかで、社会を取り巻く状況、ファッションへの考え方も変化していると思います。

H「小さい工場は経営が厳しい場合もありますし、大きな資本を持つ会社に工場が買われることも多いです。簡単ではないですが、僕らの取り組みによって工場が拡大し、新しい雇用が生み出されて、伝統技術の継承も生まれているのでやりがいがあります」

A「提携している工房や工場とは、本当にいい関係ができていると思っています」

H「すべて早く早くと忙しなくて疲弊する側面もありますが、目指している職人技に根付いたクリエイションを自分たちの方法で伝えられていることは喜ばしいです。美しいデザイン、履きやすい靴の実現。その裏にどれだけの人の手と工程がかかっていて伝統的なのか、それを伝えることが使命です。SNSによって広がりやすくなっていることは、ある意味いい環境、適した時代だと思っています」

工芸品のようなへリューのバッグ¥90,200
工芸品のようなへリューのバッグ¥90,200

──今後の展望を教えてください。

H「いちばん忘れてはいけないのは、なくてはならない職人を守っていくこと。へリューは大切な技術をキュレーションして紹介しているので。服をつくることはないと思いますが、靴&バッグだけでなく、ライフスタイルのアイテムは広げていきたいと思っています」

アトリエにて。
アトリエにて。

【Our Favorite Things in Tokyo】

実は来日8回目で「東京は仕事でも観光でも本当に大好きな都市」という二人。2015年春夏のデビューコレクションを、いち早く扱ってくれたメンズのインターナショナルギャラリー ビームスに今でも感謝しているそう。日本食も大好きで抹茶スイーツがお気に入り。必ず行くのはハンズ、そして銭湯! 

Numero.jp読者へ特別に、今回の東京ステイで気になった場所やモノを紹介してくれた。「鮨うがつの大将と奥様は温かみがあり、仕事熱心な人というのが言葉がわからなくても伝わってきた」「マメ クロゴウチ 青山での古伊万里など陶片などを展示した、2024年春夏のインスピレーション展がすばらしかった」と、東京を満喫したようだ。

鮨うがつ/雷庵のそば/渋谷パルコ4Fのリサイクルバッグの店/『鳥獣戯画』の皿/マメ クロゴウチ青山のエキシビジョン/humのバングル


へリュージャパン

URL/hereustudio.jp

 

Edit & Text:Hiroko Koizumi

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JANUARY / FEBRUARY 2025 N°183

2024.11.28 発売

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