リラ・アビレス監督インタビュー「自分のまなざしで世界を創造しようとする少女を描きたかった」 | Numero TOKYO
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リラ・アビレス監督インタビュー「自分のまなざしで世界を創造しようとする少女を描きたかった」

第73回ベルリン国際映画祭でエキュメニカル審査員賞を受賞した『夏の終わりに願うこと』。少女と大家族の結びつきを通して、温かくもリアルな少女の心の揺れ動きを捉えた本作は、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、アルフォンソ・キュアロン、ギレルモ・デル・トロといった名監督たちにも賞賛を浴びた。 監督を務めたのは1982年生まれの映画監督で脚本家、プロデューサーのリラ・アビレス。舞台美術と映画脚本を学び、俳優としてのキャリアを積んだのちに制作側に転向。2018年に公開した初の長編映画『The Chambermaid』が第92回アカデミー賞国長編映画賞メキシコ代表に選出された。24年には国際女性デー65周年を記念したロールモデルプログラムにヘレン・ミレンやカイリー・ミノーグ等と共に選ばれ、メキシコ映画界を代表する監督として注目されている。23年にはミュウ ミュウの短編アンソロジーシリーズ「Woman’s Tails」の一編「Eye Two Times Mouth」の監督を務めたこともあり、モード界との関係も深い。晴れやかな笑顔が印象的なアビレス監督に聞いた。

母は本当に私のことを見ていたのだろうか

──『夏の終わりに願うこと』は幼いときに父親をガンで亡くした実の娘に向けて制作されたそうですね。ご自身が実際に感じていたことを物語に反映されたのでしょうか。

「私自身は母と仲は良かったのですが、自分が母親になったとき、果たして母は本当に私のことを見ていたのだろうか、と初めてわからなくなりました。そのときに、私はどんな形でも自分の娘のことをずっと見ていようと決心しました。この映画は私がどのように娘のことを見続けていたのかを表す映画だと思っています。7歳でもすでに成熟していて、自分のまなざしで世界を創造しようとする少女を描きたかったのです。

本作にはいろいろな要素が含まれていますが、一番描きたかったのは人生についてで、コミュニケーション、人間関係の美徳、自然との交わりについての映画を作りたいと思っていました。今、私たちは外側にあるものに没頭するあまり、内側にある本質に目を向けることを忘れがちです。みんなで協力し合わなければ成り立たない社会にいるのに、動物や自然、家族、友人、そして自分自身に対する敬意を持たなければならないことを理解していません。『夏の終わりに願うこと』は、“家”や“家庭”という感覚に対する、私の探究心に応えるものとして生まれました。

ひとつの家族の中には多様な行動や視点があった上でひとつの小宇宙を成しているので、近くで見れば見るほど、つながりを保ちやすくなります。イギリスの詩人ウィリアム・ブレイクの『一粒の砂に世界を見、一輪の野の花に天国を見る。手のひらに無限をつかみ、一瞬のうちに永遠をとらえる』という言葉にもインスピレーションを受けました」


──18歳になられたという娘さんはこの映画を観ましたか?

「見ました。彼女は観客としては非常に厳しく、私の初監督作品である『The Chambermaid』を見たときはまだローティーンでしたが、『ラストは変えたほうがいいかも』と言われました(笑)。でも今回は一言『天才だ』と、崩れ落ちてしまいそうになるほど素敵なことを言ってくれました」

──監督と娘さんとの実際のエピソードも盛り込まれているのでしょうか

「そのままではないのですが、私と娘にとっては『これはあの時のことだ』とわかるようなシーンが盛り込まれています」

トイレやメイク。日常があるから、自分を保つことができる

──冒頭のトイレのシーンや髪を染めたりメイクをしたりするシーンといった女性の些細な描写が盛り込まれているところも印象的でしたが、どんな意図があるのでしょう?

「私たちは生活の中でそういったことをしているからです。死や悲しみをテーマにした映画の場合、そこに集中するあまり、日常生活を描くことが忘れられていることが多いですよね。でも、混沌とした状況の中で何とか自分を保つことができるのは、トイレに行ったりメイクをするといった日常があるから。私は今日撮影があるのできれいにしなければいけないと思い、昨日髪を染めて日本のムースの品質の高さを実感しました(笑)。人ってそういうものですよね。どんなに悲しいことがあっても、日常生活から完全に離れることはできないと思っています」

──悪魔祓いや量子療法、占いといった魔法的なものやお灸や整体などの東洋医学的な思想が劇中に多く登場していましたが、こうした文化は今でもメキシコに根強く残っているのでしょうか。

「そういった思想の伝統が根強く残っています。シャーマニズムを深めている人もいれば、 それを使って人を騙そうとする人もいます。劇中に登場していた、悲しいことや苦しいことが起こったときに量子治療を行って気持ちを癒やす方法は一般的です。あのシーンを入れたのは、人は何かにすがることで自分を癒やそうとするということを描きたかったからで、そこまで詳しいわけではないのでそれ以上聞かないでください(笑)」

成熟することを怖がらないで


──(笑)。監督は今年(2024年)3月の国際女性デー65周年を記念したロールモデルプログラムに選ばれる等、女性監督として注目されることも多いですが、メキシコにおける女性監督を取り巻く状況をどう感じていますか?

「私が今こうして映画の取材で東京にいられるのは、メキシコのマリア・ノバロとか、少し前に亡くなってしまったブシ・コルテスといった女性監督たちが男性優位の社会の中で戦い続けてくれたからです。ですから、私が今ここにいるのは、自分のためだけではなく、後続の女性監督たちのためでもあると思っています。メキシコはラテンアメリカの中で一番の男性優位主義の国です。マチスタ(男性優越主義や男性中心主義者)という言葉があるぐらいですから。メキシコ人の男性は母親を聖なるものとして崇めますが、妻に対しては信じられないくらいの仕打ちを平気でします。私の映画はよく『女性ならではの視点を感じる』と言われるのですが、女性でなくても繊細な視点を持つことはできます。私は性別関係なく、多様な視点を持ちたいと思っています。そして最終的にはアニエス・ヴァルダのようにずっと作品を撮っていたいです」

──監督は制作現場で働きながら育児をし、映画監督になる夢を実現されていますが、同じような道を目指す女性に何かアドバイスするとしたらどんなことを伝えますか?

「それぞれの道があると思うので、まず夢を諦めないで頑張ってほしいです。また、今の若い人たちは『大人になるのが怖い』とよく言いますが、果物は若いときは酸っぱいけれど、熟すとおいしくなります。私にとって成熟というのは聖なる言葉です。大人になって成熟することを怖がらないでほしいですし、弱さを感じることで成熟に向かうことができます。『夏の終わりに願うこと』では、早く成熟するように努力をして、恐怖を感じても立ち向かっていくことが描かれています。そして、私は母親になって愛や孤独を知っていくことで映画にしたい題材が生まれました。経験を重ねることで映画の題材はどんどん生まれていきます」

『夏の終わりに願うこと』


7歳の少女・ソルは、病気で療養中のため祖父の家に住む父・トナの誕生日パーティーに出かける。母・ルシアが運転する車に乗って祖父の家に着くが、具合の悪い父にはなかなか会わせてもらえない。不安でいっぱいのソルの周りでは大人たちが忙しなく誕生日パーティーの準備をし、幼いいとこたちはいつものように無邪気だ。ソルは動物や虫に興味を持ち、スマホに搭載されたAIに話しかける。人生には光があり、影がある。この世界には人間も動物も虫もスマホも存在し、すべては別々のようでもあるし、繋がってもいる──。ソルの眼差しを通して世界の真理と人間の成長を描いた宝物のような傑作。

監督・脚本:リラ・アビレス
出演:ナイマ・センティエス、モンセラート・マラニョン、マリソル・ガセ、テレシタ・サンチェス、マテオ・ガルシア・エリソンド 他
配給:ビターズ・エンド
©2023-LIMERENCIAFILMS S.A.P.I. DE C.V., LATERNA FILM, PALOMA PRODUCTIONS, ALPHAVIOLET PRODUCTION

8月9日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか 全国で順次公開予定
www.bitters.co.jp/natsuno_owari/index.html

 

『夏の終わりに願うこと』一般試写会に
5組10名様をご招待

Photos:Takako COCO Kanai Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Mariko Kimbara

Profile

リラ・アビレスLila Avilés 1982年、メキシコシティ生まれ。映画監督、脚本家、プロデューサー。 舞台美術と映画脚本を学び、10年間俳優としてキャリアを積んだあと制作側に転向。2018 年に自身の会社Limerencia Filmを設立。初の長編映画「The Chambermaid」(18)は 第92回アカデミー賞®国際長編映画賞メキシコ代表に選出。世界中の70以上の映画祭に招待され、国内外問わず多くの賞を受賞している。 23年にはミュウ ミュウの短編アンソロジーシリーズ「Women's Tales」 の一編「Eye Two Times Mouth」の監督を務め、ヴェネチア国際映画祭でプレミア上映された。

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