日本語ラップ再燃! Zeebraにインタビュー
90年代、突如ブームになった日本語ラップがいままたアツイ! MCバトルのTV番組が盛り上がり、夜の街でも即興ラップを繰り広げる若者たちがチラホラ。これを一時の若者のブームと思うなかれ。新しいのにどこか懐かしさすら感じる日本語ラップは、大人こそ楽しむべきなのです! そんな日本語ラップの魅力について、先駆者の一人、Zeebraにインタビュー。(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2016年12月号掲載)
2015年9月のスタート以来、若者はもとより、1980〜90年代の日本におけるヒップホップ(※1)創成期に初めてラップに触れた世代も巻き込んで盛り上がるMCバトル番組『フリースタイルダンジョン』(以下:FD)(※2)。フリースタイル=即興ラップの認知度を飛躍的に向上させた同番組でオーガナイザーを務めるのが、90年代に日本語ラップの土台を築き、シーンを牽引してきた先駆者の一人、Zeebra。番組をはじめとする今の日本語ラップブームと、その魅力について聞いた。
──『FD』が人気ですが、若者たちの間でラップが日常になった今のブームをどう見ていますか?
「『高校生RAP選手権』(※3)が若年層の人気を得たことで、ある程度うまくいくだろうなと思ってはいましたが、やはり地上波の影響力はデカいなと。スタートから半年もすると会場にお客さんの長蛇の列ができるようになり、やがて地方でも頻繁にMCバトルのイベントが行われるようになってきて。『FD』が着実に全国に浸透しつつあるなという実感は日々あります」
──ラップブームに関しては?
「現時点ではラップそのものというよりはフリースタイルのブームかなと。ヒップホップの一要素であるフリースタイルが目新しく映っていると思っていて…でも、そういうスタイルが広く知れ渡ったことは素直に喜ばしいことです。今までずっと伝え続けてきたラップの面白さが、テレビだと一発で体感できる。しかも全国の人たちに伝わるのはすごいです」
──主催者として『FD』のどんなところがウケたと分析しますか?
「一つは『チャレンジャー』が『モンスター(すご腕のラッパー)』を倒していくと『ラスボス』の般若(※4)に挑戦できるという、PRGゲーム的なわかりやすさがあると思うんです。また今の時代のスタイルにハマった面もある。ネットやSNSが広まったことで、逆にみんなが言葉を慎重に選ぶようになった。そんな窮屈な世の中で『FD』に登場するラッパーたちは言いたい放題、ディスりたい放題ですから(笑)」
──『FD』を始めた経緯は?
「サイバーエージェントの藤田晋さん(※5)に『高校生RAP選手権』みたいなMCバトルの企画を地上波でやれないかと相談を受け、イベント用に書いていた企画書を出したのが始まりです。僕自身『高校生〜』を卒業したラッパーたちが戦える舞台を作りたいなと思っていたこともあります。それで話が進み、テレビ制作のスタッフを交え『テレビ向けにさらにわかりやすくしよう』と。企画書の草案にあった『フリースタイルダンジョン』というタイトルを掘り下げて、RPGのようなゲーム性を強くすることに」
──言葉を理解するためのテロップや審査員の解説など、初めて見た人でもわかりやすいですよね。
「ラップが何なのかをよく知らなかった人が大勢いたはずで、そういう人もテロップを見ながら『言葉の母音を合わせることが韻を踏むということか』とか、わかった上で楽しんでもらえるようにと思って。審査員も、今の勝負はどんな点が面白かったのか…例えば、いとうせいこうさん(※6)であれば『源氏物語』の歌詞を引き合いに出したりしながらテレビ的な視点でわかりやすく解説してくれています。いとうさんいわく、日本には江戸時代から“雑俳”と呼ばれる、才能さえあれば大名から庶民まで同じ場所で句を読める言葉遊びがあったそうです。だから実は、フリースタイルはもともと日本人が得意とするところなのかなと思ってみたり。ただ“韻を踏む”となるとまた違っていて。アメリカなんかでは、幼稚園から簡単な単語を韻で習うんです。『CAP、MAP』『HAT、BAT』など、音で言葉遊びをして、自然に韻を踏みながら単語を覚えていく。ビートルズの歌詞でも、それこそマザー・グースの詩でも韻を踏んでいます。だからある種、誰でも4小節くらい簡単にラップができるんです。日本語はもともと『〜でした、〜ました』で一文を締める韻律を持っていますが、ラップにおいては、これを崩さないと意味がない。それは一つのハードルであり、面白さでもあります。そうやって韻一つを取っても『FD』は初見の方がわかりやすく見られることを心がけています」
──番組の成功を確信したのは?
「Rec2(第2回)の『般若VS焚巻』を見たときですね。ラスボスの名に恥じない貫録の般若がチャレンジャーの焚巻を真っ正面から迎え撃つ。SNSを見ても『ラップって“YOYO”言っているだけじゃなかったんだ』という意見が多くて、即興で韻を踏むことの高度さやラップの奥深さがようやく伝わったかもしれないと思いました」
──50万枚を売り上げた『今夜はブギーバック』に日本のヒップホップミュージックとして初めてミリオンセラーを記録した『DA.YO.NE』…。90年代にもブームと呼ばれたことが幾度となくありました。
「ポップミュージックの中で広まっていったので、日本語ラップを耳にするようにはなっても、歌詞なり意味なりを理解している人は少なかったように思うんです。でも『FD』を見ている人は、それまで聞き流していた歌詞も違って聴こえるはずで。そこからラップに興味を持って、曲のほうも聴いてほしいというのが願い。だから毎回ライブのコーナーを入れています」
──MCバトルだけでは、本当の意味でシーンは盛り上がらない。
「そうなんです。MCバトルブームの前はSALUだったりKOHHだったり。『あの音源カッコいい』みたいな音源ブームがあり。でも、MCバトルも音源も全部ひっくるめたものがヒップホップなので。その両軸が揃ってほしいし、そうなってこそ本当の意味でブームになるんじゃないかなと」
──では、本当のブームの先は…?
「せっかくの日本語ならではの面白さがあるので、スラングじゃないけど、もっと歌詞に方言を使うとか。僕なんかは方言を持たないからうらやましいし、だからわざと仲間内でしかわからない言葉(隠語)を入れたりします。そういう言葉遊びのレベルでのラップが広まっていくといいですよね。NYには『HOT97』というヒップホップ専門のラジオ局があって、朝起きてもヒップホップ、学校に行って帰ってきてもまだヒップホップがかかっている(笑)。日本もヒップホップという文化そのものが、日本らしいかたちで日常的な風景になってくれたらうれしく思います」
※1 ヒップホップ
74年11月、ニューヨークブロンクス区のアフロアメリカンやカリビアン、アメリカン、ヒスパニック系の住民のコミュニティで行われたブロックパーティから生まれた文化。単にヒップホップと呼称した場合は、文化から派生したサンプリングや打ち込みを中心としたバックトラックに、MCによるラップを乗せた音楽形態を特に指すことが一般的。主にラップ、DJ、ブレイクダンス、グラフィティが四大要素と呼ばれている。
※2 フリースタイルダンジョン
全国のラッパーがフリースタイル(即興)ラップで挑む、RPG式バトルのバラエティ番組。メインMC&オーガナイザーにZeebra、挑戦者を迎え撃つモンスターに、R-指定(Creepy Nuts)、漢 a.k.a. GAMI、サイプレス上野、T-PABLOW、CHICO CARLITO、DOTAMAそして賞金100万円を賭けたラスボスに般若。バトルの勝敗を決めるのは、いとうせいこうやLiLyをはじめとする審査員たち。毎回クラブで行われる公開収録も大人気。テレビ朝日系にて毎週火曜 深夜1:26 〜放送、インターネットテレビ局「AbemaTV」にて配信中。
※3 高校生RAP選手権
BSスカパー!『BAZOOKA!!!』内で放送されている人気コーナー。日本全国の高校生がフリースタイルラップでMCバトルで優勝を競う(高校生であれば性別・国籍不問で出場可能。中卒や高校中退者など高校に通っていない者でも高校生の年齢であれば出場できる)。半年ごとに放送され、今年8月には第10回目を記念してオールスター戦が日本武道館で開催された。
※4 般若
ヒップホップMC。98年、妄走族に結成から参加。ハードコアなスタイルのヒップホップで、社会などに対する鋭く激しい批判を含むリリックで注目を浴びる。04年には1stソロアルバム『おはよう日本』を発表。08年に「昭和レコード」を設立。その後、妄走族を脱退し、ソロ活動に邁進している。
※5 藤田晋
サイバーエージェント社長。無類のヒップホップ好きとして知られ、番組スポンサーとして『FD』を支援。Zeebraとは同じくスポンサーを務めていた『シュガー ヒル ストリート』以来の仲。この4月には『FD』を放送するテレビ朝日と共同でインターネットテレビ局「Ameba TV」を開局。『FD』をオンデマンド放送中。
※6 いとうせいこう
86年、日本語ラップの先駆けとなった歴史的名盤『建設的』でデビュー。今年秋には30周年を記念してヒップホップ界の黎明期を支えた大御所ミュージシャンから芸人、タレント、劇団までそうそうたる面々が一堂に集結した『いとうせいこうフェス』を東京体育館で開催したばかり。小説家としても活躍し、13年には『想像ラジオ』が三島由紀夫賞および芥川賞候補となり、野間文芸新人賞受賞した。
Interview & Text:Tatsunori Hashimoto
Edit:Saori Asaka