セシリー・バンセンに聞く、スポーティ×フェミニンスタイルの極意
セシリー バンセンとアシックスのコラボレーション第2弾となるスニーカー、GT-2160™が発売。東京、青山で開催されたポップアップストアで披露され、好評を博している。ガーリーカルチャーに影響を受けて育ち、クチュール技術を駆使したフェミニンなドレスを提案するデザイナーは、なぜスニーカーを好むのか。デザイナー本人に問う。
──2回目となるアシックスとのコラボレーションですが、どのようなことに挑戦されましたか。
「私のフェミニティとアシックスのスポーティーさ、機能性を完璧にミクックスさせること。また、ディテール、軽やかさを意識しました。アシックスとのコラボレーションは、実は友人を介してアシックスのヨーロッパチームと出会いました。コラボレーションする前に、アシックスの技術的なスキルやクラフトマンシップ、高いクオリティ、そして快適さについて教えてもらいました」
──個人的なアシックスの思い出は?
「最初の出合いは、ランニングシューズだったと思います。最近ではコペンハーゲンの女性たちにゲルカヤノ14が人気があります。あるとき、ゲルカヤノ14のシルバー色をセシリー バンセンのコレクションとあわせている人を見て、とても素敵なスタイリングだと、はっとしました」
──コラボレーションモデルは、GT-2160™でしたが、実際に履いてみていかがですか。
「適度なクッション性があって、歩きやすいし疲れにくいと思います。特に、スタジオで作業している際に愛用しています」
──スニーカーは2色の展開で名前がそれぞれ、ハバネロとミッドナイトですね。
「以前、東京を訪れたときに、夜が来るとピンクは赤のように、ライトブルーは濃いブルーのように色が変わっていく変化を目にしました。その記憶から、2色選びました」
──ドレスにハイヒールではなく、スニーカーやフラットシューズを合わせている理由は?
「美しさとともに、快適さをいつも追求しています。セシリー バンセンのドレスは気楽にまとって欲しいし、着たらいい気分でいて欲しいと思っています。また、スニーカーやフラットシューズは、私が作るドレスとリラックス感のあるいいバランスで着こなせると思っています」
──キャンペーンヴィジュアルは、撮影がホンマタカシさんで、モデルがモトーラ世理奈です。彼らを起用した理由は?
「実は、ティーンエイジャーのころから、雑誌でホンマタカシさんの写真を見ていて。写真集をコレクションしていたんです。いつも人物と街の風景を捉えていて、ブルーのコントラストに魅せられていました。モトーラ世理奈さんは、前回日本に来た際にお会いする機会がありお話できたのですが、ファッションやアート、映画などのカルチャーに興味があり、多岐にわたって才能のある人。セシリー バンセンの魅力を体現できる人だと思い、出演をお願いしました」
──撮影でお願いしたことはありましたか。
「コペンハーゲンから2023年秋冬と2024年春夏のコレクションをホンマさんに送って実物を見てもらったのですが、彼が2つのコレクションを一緒に撮影しようと提案してくれて。そのアイディアがとても嬉しかったですし、撮影を想像するだけでエキサイティングでした。お願いしたのは、撮影を東京で夜の時間帯に行うことだけ。ロケーションはホンマさんが選んでくれました」
──セシリー バンセンのドレスは、トレンドに流されることなく、他のブランドとも異なるユニークさがあります。その特徴は何だと思いますか。
「私が作ったドレスは、着る人のライフスタイルの一部であって欲しいと思っています。スタイルを表現でき、着やすくて行動範囲を制限せず、快適で気持ちの上でも無理がなく着用できることを目指しています。ドレスでありながら、動きやすいのは、クチュールのテクニックを取り入れている点が大きいと思います。シルエット自体はエアリーで大きいものですが、構造的には体に沿ったものなことも事実。このような服作りにおいて、クラフトマンシップの存在は欠かせません。スタジオでは多くの時間をファブリックとボディ(マネキン)を使ったドレーピング(立体裁断)に費やします。各パーツを組み合わせたときのフィット感は、着心地において大変重要になってくるので。アトリエのチームと確認し皆が納得しながら、服作りを進行しています」
──コペンハーゲンが拠点ですが、チームはデンマーク人が多いのでしょうか。
「テキスタイルはオリジナルの開発を行い、洋服はハンドメイドで“Made in Denmark”です。ジャカードはイタリア、レースはスイスのものを使っています。チームはデンマーク人もいますが、フィンランド、フランス、カナダ、アメリカ、日本など様々な国から集まっています」
──毎シーズン、どのようにコレクシション作りをスタートしますか。
「まず、テキスタイルとファブリック作りから始めます。手作業でスワッチ(素材見本)を作り、その一方でイタリアを訪れヴィンテージレースのアーカイヴからさまざまなテクニックを研究します。それからスタジオで、ボディとファブリックを使ったドレーピングで新しいシルエットの開発を行います。その後、ドレスのフィットや構造、仕様について決めていきます」
──細かいディテールのテクニックは、どのように研究していますか。
「子どもの時から好んでしている小さな刺繍から始まります。刺繍に熱中することは、私にとって瞑想のようなもの。ライフワークのひとつです。そして、不思議なことに、新しいアイデアが浮かんでくるんです」
──2024年春夏のコレクションは、Iラインのシルエットが印象的でした。何か狙いがあったのでしょう。
「これまでのイメージとは異なるシルエットを提案したいと思っていました。スリムなシルエットの他にも、デニムとのレイヤリングなども新しいアイデアです。多くの女性たちがセシリー バンセンに恋に落ちてくれてファンになってくれていますが、それぞれドレスが好きだったり、バッグが好きだったり、シューズを気に入ってくれていたりします。彼女たちのためにも、ブランドに何か新しい要素が必要でした」
──ドレスとともにワークウェア風のデニムのセットアップを提案する理由は?
「デニムの展開をしたのは、2023年秋冬から。コペンハーゲンのスタジオで働くスタッフたちが作業するときに、ドレスにデニムトラウザーやデニムジャケットを合わせているのを見てデニムを作ることを決めました。ドレスにスニーカーを合わせるだけではなく、デニムなど様々な組み合わせや着こなし方があることを世に伝える大きな助けになっています」
──デニムでこだわっているところは?
「ドレスと同じように、テキスタイルとクラフトマンシップ。日本はデニムにおいて高い技術がある国です。まるで彫刻のような立体感とシルエット、テーラリングのような仕立てを実現したいと思っていました。それには岡山のデニムの生地を取り寄せて、デザインや加工をコペンハーゲンのスタジオでする必要がありました」
──デンマークのオーガスト・ローゼンバウムが楽曲をファッションショーの音楽を手掛けていますね。
「彼は古い友人の一人で、ずっとショーの音楽を手がけています。ブランドの世界観とマッチしているし、デンマーク人特有の感覚もよく表現されていると思っています」
──デンマークのファッションやカルチャーを牽引する立場であることに関して、どう考えていますか。
「デンマークといえば長いこと、建築や家具、デザインの分野で注目を浴びてきました。ファッションに関しては、いままさに成長してるところで、知られるようになってきたところだと思います。私自身はデンマークのアーティストやミュージシャンとコラボレーションして、一つの世界を作って世界に発信することが大好きなんです」
──映画が好きだと伺っています。好きな作品を教えてください。
「ソフィア・コッポラは一番好きな映画監督で『ヴァージンスーサイズ』はずっと好きな作品です。彼女の新作『プリシラ』を観れる日を待ちわびています。あとは宮崎駿さん。イラストレーターの夫も息子も大ファンですし、作品をいつも楽しんでいます。個人的には『崖の上のポニョ』が一番好きですね」
──東京で楽しみにしていることは何ですか。
「天気が良ければ、青山、原宿、渋谷のエリアを歩くことが好きです。街が繋がっていて、見えてくる風景の変化をいつも楽しんでいます。本が好きなので、代官山蔦屋書店を訪れたり、コペンハーゲンでは見られない日本のブランドのショップを訪れることも、すべてがインスピレーションです。あと、美しい食べ物も、いつもチームで楽しみにしています」
──東京で好きな場所は?
「原宿の建築を眺めるのが好きです。あとは、三鷹の森ジブリ美術館。いつか息子を連れて行ってあげたいです。それから東京ではないのですが、直島を訪れたのですが、アートを鑑賞できる美しい島で感激しました」
Photos: Miyu Terasawa Edit & Text: Aika Kawada