マルコ・ザニーニ×ソニア・パーク対談「ファッションは自分を見つけるためのインスピレーション」 |Numero TOKYO
Interview / Post

マルコ・ザニーニ×ソニア・パーク対談「ファッションは自分を見つけるためのインスピレーション」

アーツ&サイエンス青山店にて。左/マルコ・ザニーニ 右/ソニア・パーク
アーツ&サイエンス青山店にて。左/マルコ・ザニーニ 右/ソニア・パーク

イタリアのファッションブランド「ZANINI(ザニーニ)」のデザイナーであるマルコ・ザニーニと、ソニア・パークがクリエイティブディレクターを務める「ARTS&SCIENCE(アーツ&サイエンス)」がコラボレーションコレクションを展開中。新作発表に合わせて来日したマルコ・ザニーニと、鎌倉にオープンする新店舗の準備に追われていたソニア・パークにコラボレーションの経緯から新作へのこだわり、ファッションへの思いを聞いた。

メンズウェアや生地、クラフトマンシップが好きという共通点

「ZANINI with A&Sコレクション」より。ザニーニ氏が生地の触り心地の柔らかさと見た目の質感が気に入っているというコート。大きめのフラップポケット、ホーンボタン、襟を立ててきたときに見えるカシミヤコーデュロイなど徹底したディテールへのこだわり。マスキュリンなシルエットながら、ソフトなショルダーラインで男女問わず着用できるパターン。
「ZANINI with A&Sコレクション」より。ザニーニ氏が生地の触り心地の柔らかさと見た目の質感が気に入っているというコート。大きめのフラップポケット、ホーンボタン、襟を立ててきたときに見えるカシミヤコーデュロイなど徹底したディテールへのこだわり。マスキュリンなシルエットながら、ソフトなショルダーラインで男女問わず着用できるパターン。

──コラボレーションのきっかけは?

マルコ・ザニーニ(以下マルコ)「かなり前になりますが、ファッションウィーク中、パリで出店していたアーツ&サイエンス(以下、A&S)のポップアップストアを訪れ、これまで知らなかった新しい世界を発見すると同時に、ディレクターのソニアさんのセンスに魅了されてしまったんです。初めて東京を訪れたとき、真っ先に向かったのもA&Sのショップでした。
その後、自分のブランドを立ち上げ、2019年秋冬シーズンのファーストコレクションをソニアさんが見に来てくれたんです。そこから付き合いが始まり、会話をしていく中で自然な流れで、何か一緒にやろうという話になりました。何よりもこのコラボレーションが特別なのは、お互いに対するリスペクトから始まっていることです」

ソニア・パーク(以下ソニア)「マルコのような立派な経歴(編集部注:ロシャスやスキャパレリなどのクリエイティブディレクターを務めてきた)のデザイナーが、A&Sに卸すのが夢だと言っていると聞いて、最初は社交辞令だろうと半信半疑の気持ちでコレクションを見に行きました。そうしたらコレクションはすごく素敵だし、マルコも本当にA&Sのことを好きだと言ってくれて、ファーストシーズンから買い付けています。
ザニーニのコレクションは、いわゆるヨーロッパのテーラーリングを生かした美しい服で、シーズンを重ねるに連れてどんどん進化していきました。しばらく買い付けていましたが、漠然とコラボレーションをして、ユニセックスのアイテムを作れないかなとずっと思っていました。その矢先に、コロナパンデミックがあり、彼がコレクションを継続することが困難になってしまったのです。それからコラボレーションの話が具体化し、まず昨年、数型のカプセルコレクションから初めて、今回23AWシーズンから本格的に発表することになりました」

──どのように制作していったのでしょうか?

ソニア「二人で何が作れるかやってみようと、遊びの延長のような感覚からスタートしました。まず、ザニーニのパターンを送ってもらい、日本人向けに少しトワル(仮縫い)を変更させてもらいました。普通だったらパターンを送るなどあり得ないことですが、それも信頼関係があったからこそだと思います」

──マルコさんはご自分のデザインやパターンが日本の生地に落とし込まれることによって、新しい発見はありましたか。

マルコ「日本の生地にはヨーロッパでは作れないようなスペシャルなものがたくさんあります。過去に僕が関わっていたヨーロッパのブランドでも日本の生地をたくさん使っていました。だからソニアさんから日本の生地でのコラボレーションを提案されたときは、とても興奮しました。日本には信じられないほど美しい生地が豊富にあることを知ってしまったから。
でも、A&Sの生地を見て、私が知らなかったテクスチャーに感動しました。例えば、上質なカシミアとリネンが混紡された美しいウールは、ラグジュアリーで最高のクオリティのテキスタイルのひとつです。ヨーロッパにも素晴らしいテキスタイルの歴史がありますが、日本には独自の伝統的なテキスタイルがあり、以前、沖縄で見た美しい紬など、織物にまつわる豊かな歴史があるとよくわかりました」

──ソニアさんにとって、ザニーニの服の魅力はどういう点でしょうか。どこかA&Sとの共通点があったのでしょうか。

ソニア「彼のコレクションは、こだわりの全てにおいて、ヨーロッパでしか作れない素晴らしい服です。でもコラボレーションをするなら、服の歴史が違えば、工場や生産背景も当然違うから、同じことを日本でやってもうまくいかない。だったら私も彼もメンズウェアのテーラリングが好きで、その点はA&Sの服にも共通しているので、メンズのテーラリングを生かしてウィメンズのシェイプで作ったらどうだろうと思いました。彼は私よりフェミニンなものが好きだったり、プレタポルタでありながらクチュールのような服を作っていたので、そこが魅力でもあります」

マルコ「僕はクチュールのクラフトマンシップを愛しているからね。幸運にもパリのアトリエでクチュールメゾンの仕事をする機会を得て、素晴らしい技術を目の当たりにしながら、何年もかけて、その知識とノウハウ、技術に惚れ込んでいきました」

ソニア「私たちの共通点は、メンズウェアや生地やクラフトマンシップが好きだということ。だからお互いの作るものにも共感が生まれるのだと思います。ただ、ザニーニの服は、やはり男性が作る服なので、どこか構築的。自分が着られない分、憧れみたいなものがあると思うのですが、私の場合は、自分が着るので着やすさや快適さを重視してしまいます。だから構築的な要素や服への憧れの要素が自分にはちょっと足りないのかなと感じることもありますね」

衣食住すべてにこだわりを持ちたい

──そのA&Sの足りない部分にザニーニのクリエイションが結びついたのですね。

ソニア「ARTS&SCIENCEを辞書で引くと、ARTSはDesign=デザイン、SCIENCEはFunction=機能を意味していて、彼はウィメンズの服を作るアーツのほうが強い人で、私はサイエンスのほうが強い。お互いに足りなかった要素を補い合うことによって、ザニーニのコレクションよりも普段に着やすく、そしてA&Sにないアーティスティックな要素が加わり、ちょうどいいバランスで新しいA&Sのプロダクトができたと思います」

マルコ「僕は女性の服を作る男性デザイナーとして、特に女性と一緒に仕事をすると、常に学びや発見があって新鮮です。僕たちは同じ目標に向かっていますが、ソニアさんの女性目線と僕の男性目線の両方の視点がコレクションに加わることで新しい見え方になっているはずです」

──結局は服作りにつながっていきそうですが、他に共通の趣味や話題はありますか。

マルコ「僕たちはクラフトやアートなど、他のこともファッションと同じように好きで興味を持っています。ファッションに携わる人の多くは、写真やアート、デザインなどヴィジュアルに関するもの全てに造詣が深い。私が知る限り、プロフェッショナルに仕事をする人たちはファッションに限らず常に視野が広く、美しいもの全てに関心があり、自分の美意識をしっかり持っている。僕たちにも同じことが言えます」

ソニア「偶然、同じ椅子を持っていたしね。以前、A&Sで展示していた日本の陶芸家の高仲健一さんの作品もマルコが気に入って買ってくれました。私としてはどれかに偏るのではなく、衣食住全てにおいて同じようにこだわりたいし、こだわってほしいと思っています」

──マルコさんのインスタグラムを拝見すると、日本の美や文化へのリスペクトが感じられ、お二人が共感し合う理由がなんとなく垣間見える気がしました。

ソニア「私が初めて日本に来た80年代は、ケンゾー、イッセイミヤケに続いて、コム デ ギャルソン、ヨウジヤマモトがパリに進出して、ちょうどジャパニーズファッションが世界的に注目されていました。なのに驚いたのは、まだまだ日本のファッション関係者は、自国のファッションではなく、欧米に近づこうとしていました。以前、日本の方に言われたのですが、ファッションが好きなのに、パリやニューヨークでなく、なぜ日本なのかと。逆にヨーロッパの人に会うと、日本最高だねとよく言われます。
日本にはたくさん素晴らしいものがあり、ヨーロッパの最先端のおしゃれな人たちは、当時から日本に注目し、日本からインスピレーションを受けて形にしていった。マルタン・マルジェラのタビブーツなどはいい例です。日本人はそのことに気づいていませんでしたが、今になってようやく気づき始めている。ファッション業界ではファブリックの輸出において、特に早くから力を発揮していました」

──隣の芝生は青く見えるというか、灯台下暗しですね。今回のコレクションは、日本製にこだわりデザイン以外は、生地も縫製もA&Sのハンドリングで行っているんですよね?

マルコ「補足すると、このコラボレーションは、A&Sの素晴らしいチームがあってこそ実現したものです。僕たちの仕事は、常にチームワークが大切で、僕がファッションデザインの仕事の何が楽しいかといえば、やはりチームワークによるところが大きい。そして、A&Sは、これまで働いてきた多くの企業の中でも特に素晴らしいチームで、高い専門性を持ったプロフェッショナル集団で信頼できました」

──A&Sにとっては新メンバーが加わった感じですね。

ソニア「マルコが入ってくれたことでA&Sのデザインチームが完成したと実感しています。本当にいろいろな部分をディテールまで徹底的にこだわるので」

マルコ「単なるモノをデザインするのではなく、着てはじめてわかるような特別なモノをデザインするのが好きなんです。だから、裏地にカシミアのコーデュロイを使った襟のように細部までこだわります。今は気づかないかもしれないけど、冬になり風が吹いてとても寒くなって、襟を立てて着るときに表に見えるディテールです。グラスやボトルのようなプロダクトデザインはそのままの美しさでいいけれど、ドレスや洋服は着ることで体の動きに合わせて表情が変わるし、見える部分も変わってくる。プロダクトと洋服では全く異なるアプローチだと思います」

ソニア「もともとA&Sでカシミアのコーデュロイを作っていたんですが、マルコが生地のストックを一日中ずっと見ながら掘り起こし、過去に作った生地を生かすきっかけを作ってくれています。本当におもちゃ屋にいる子どもみたいに長時間ずっと生地を眺めているんですよ」

ファッションは自分らしくあるためのツール

──二人の服作りへの情熱が伝わってきます。あらためて二人にとって服やファッションとはどういう存在でしょうか。

マルコ「僕にとってファッションは、自分を表現するための素晴らしいツールのようなものだし、誰にとってもそうあるべきだと思います。僕がファッションに求めているのは、どうすれば自分をいちばん魅力的に見せてくれるのか、それを教えてくれる存在だということかな」

ソニア「私はどこか物足りなさを感じている人がファッションというツールを使うことで、ある種のグループに属しているような感覚を得るのを後押ししてくれるものだと思っています」

マルコ「誰もが持っている欲求を満たしてくれる。ある人はより強く、ある人はより優しく……」

ソニア「ハワイで過ごした10代の頃、アメリカではチャーリーズエンジェルみたいなブロンドヘアにボディを強調するようなスタイルが流行っていました。でも私のようなアジアの女の子がそんな格好をしてもしっくりこないし、似合わない服を着るのは嫌だったから、ずっとボーイズサイズの洋服ばかり着ていました。そんな時にコム デ ギャルソンに出合ったのです。ブランド名もフランス語で“少年のような”という意味で、日本のファッションってかっこいいと思ったのを覚えています。人と違っても、自分らしい、あるべき姿でいて大丈夫だよと肯定してくれるのが、ファッションだと思います。みんなと同じじゃなくてもいいということを、アンダーグラウンドのパンクスだったり、(コム デ ギャルソンの)川久保さんが世の中に提言してくれたというか。それがファッションの最大の魅力でもあります。自分の年齢や成長、時代によって変化したり、卒業していくもので、それを理解するためにその時々に必要なもの。ファッションとは、そういう経験や学びをさせてくれるものなのかもしれません」

──ある種、その時々の通過儀礼のような。

マルコ「100%同意します。典型的な10代の頃は、自分が選んだコミュニティに属したがるし、自分の着ているものがいかにメッセージであるかを意識し始めるんだと思います」

ソニア「当時はまさか自分が服を作るとは思ってもみなかったけど、A&Sを始めたのも、自分自身の嗜好や趣味が徐々に変化して、着たいと思う服がどんどん少なくなっていったから、自分で作らなければならなかったという感じです」

──今はファッションを作っているという感覚とは違いますか?

ソニア「どちらかというと、生活の一部、ライフスタイルのひとつという感覚です。洗えて扱いやすく、でもきれいに見えて、嫌なところを隠して、いいところを出す。A&Sのお客様は自然と同世代の人が多いし、若い方でも、例えば女優さんのように仕事では緊張感のある服を着て表に出ることが多いから、普段プライベートで着る服は楽ちんで着心地のいいものを求めて、A&Sを選んでくださいます。ある程度、歳を重ねて、いろんな服を着てきて最終的に行き着く場所のような。食事でいうなら、毎日口にするものは、豆腐のようなものを食べたいということに近いかもしれません」

──マルコさんは?

マルコ「先ほど言ったように、ファッションを自己表現の最強のツールとして発見できたのは大きいですね。10代の頃は自分に自信がなかったけれど、どのような服装をしているかによって、他人の私に対する認識が変わることに気づきました。それからはファッション雑誌を買い漁るようになり、ファッション表現の全てに魅了されていきました。
だから、若いうちはグループに属したい気持ちから始まり、年を重ねながら学び、人生経験を積み、自身をより理解し、自己表現が少しずつ変化して、最終的には自分という人間になっていく。そして、ファッションは常に自分を見つけるためのインスピレーションであり、どうしたらいちばん自分らしく表現できるかを探し続けることがファッションに求めているものだと思います」

──では今もまだ探し続けている途中ですね。

マルコ「それが人生の面白みなのでさらに進化していきたいと感じています。旅のようなものです」

ソニア「もしかしたら、すごく奇抜で派手になるかもしれません(笑)。でも自分の中にベースとなるものがあることを知っているから、本当に暴走することはないし、根本的には変わらない。

──では、ZANINI with A&Sコレクションを通じて、着る人に伝えたいこととは?

マルコ「基本的なもの作りの柱があって、その上で美しいディテールと上質なファブリックへのこだわり、着て初めて気づくデザインやシルエット、生地による動きの変化などを見てもらえるとうれしいです」

ソニア「アートとサイエンスをバランスよく融合し、本当にいい服を作っているということ。だから、決して安い買い物ではないけど、せっかく買ってくれたなら、特別な日のために大切にしまっておくのではなく、どんどん着てほしい。そのためにもトレンドやシーズンが終わったら、次の違うものへと取って変わってしまう服ではなく、長く着続けられるような普遍的な服を目指しています」

マルコ「そうだね。日常生活で使われるものをデザインするのはとても楽しいしね」

ソニア「私だったら、朝起きて、今日は何を着ようかと、天気や気分に合わせて服を選ぶのが楽しくて仕方ない。服は簡単に気持ちを上げてくれるすごいツールです。そういう服の先に着る人がいて、そこにストーリーがあると思うと、ファッションって素晴らしいし、ファッションが好きな気持ちをずっと忘れずにいたいし、そうあってほしいと思います」

マルコ「楽しんでほしいし、それがファッションの魅力です」

※「ZANINI with A&Sコレクション」はアーツ&サイエンス青山店ほか、直営店にて取り扱い中。

ARTS&SCIENCE(アーツ&サイエンス)青山店

住所/東京都港区南青山4-23-11
https://arts-science.com/

Photos:Kohei Omachi Interview & Text:Masumi Sasaki Edit:Sayaka Ito

Profile

マルコ・ザニーニMarco Zanini 1971年、ミラノ生まれ。ドルチェ・アンド・ガッバーナ、ヴェルサーチなどを経て、2008年、ホルストンのクリエイティブディレクターに就任。さらにロシャス、スキャパレリのクリエイティブディレクターを務めた後、2019年秋冬コレクションにて自身のブランド「ZANINI」を発表した。
ソニア・パークSonya Park 韓国で生まれ、ハワイで育つ。広告や雑誌などで活躍するスタイリストを経て、自身が手がける同名ブランドも展開するセレクトショップ「アーツ&サイエンス」のクリエイティブディレクター兼オーナー。東京のほか、京都や福岡に店舗を展開。10月13日、鎌倉に新店舗をオープンした。https://arts-science.com/

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