映画『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』の監督に聞く、壮大なスペクタルの舞台裏 | Numero TOKYO
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映画『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』の監督に聞く、壮大なスペクタルの舞台裏

左/ジャンポール・ゴルチエ 右/ヤン・レノレ監督
左/ジャンポール・ゴルチエ 右/ヤン・レノレ監督

映画『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』が、9月29日に公開。本作は、日本での公演が記憶に新しい、ランウェイ・ミュージカル『ファッション・フリーク・ショー』が完成するまでを追うドキュメンタリー。ファッションデザイナー、ジャンポール・ゴルチエは自身の人生をいかに舞台で表現したのか。その山あり谷ありの軌跡を、デザイナー本人と周囲のセレブリティやアーティスト、スタッフ、友人のコメントとともにテンポよく振り返る。制作秘話を聞くべく、ヤン・レノレ監督にインタビューを行った。

天才的クリエイターの舞台=人生を追う

──どういったことを目指して、撮影に臨みましたか。

「ゴルチエ氏とは、最初にお会いした瞬間に意気投合しました。撮影について、すぐ同じ方向性をシェアすることができたんです。それは、ひとつのショーの舞台裏を撮るとともに、クリエイターの人生、特に子供時代が人生にどのような影響を及ぼしたかを伝えたいということでした。ゴルチエ氏はパリ郊外の決して裕福とはいえない家庭で育った方です。とてもシャイな少年が、90年代から2000年代にかけて、天才的なクリエイターとして才能を開花させた。『ファッション・フリーク・ショー』は彼の人生についてのショーですが、ドキュメンタリーはその内側を語る作品といえるでしょう」

──本作で、監督が表現したかったことは?

「ダイレクトシネマという、70年代に編み出された手法で撮影しました。映像作家は物事が起こる現場にはいるものの、決して介入しません。例えば、誰かがドアを開けた部屋に入ってきたところを撮り逃がしても、もう一度同じことをしてもらって撮り直すことはできません。作中で、一人のダンサーのストリップが新たにショーに追加される瞬間があるのですが、5分ほどで決定した出来事でした。カメラをずっと回していたからこそ、撮り漏らさずに済んだシーンです。撮影期間は実に1年ほど。本当はもう少し早く撮影を終えられる予定でしたが、ショーの完成まで多くの課題が山積みで、初日も先伸ばしになっていました。映画にとってはありがたいことですが、次から次へと問題が起こるのです(笑)。初日が近づけば近づくほど、豊かに、事件が立て続けに起こり、映像素材には一切困りませんでした」

──ゴルチエ氏と接するなかで印象的だったことはありますか。

「ドキュメンタリーを撮影する度に、撮る前と後で対象人物の印象は変わるものです。特にゴルチエ氏は、自身の内面のゾーンに入るか入らないかで、キャラクターが変化するように思いました。名前が広く知られた有名人ですから、ずっとカメラに追いかけられる人生を送ってきたはずです。自分を守るために壁を作って、普段はその表層的な部分をジャンポール・ゴルチエとして見せている。今作では、カメラを回さずにじっくり対話する時間も設けて、その語りを作中で使用しました。内面のゾーンに入った状態でしっかり話を聞くと、パブリックイメージとは全く異なり、子供時代のセンシビリティとともに生きている人だとわかりました。一般的にそういった繊細さは、周りの大人が指摘したり、変えようとして失われるものですが、彼は理解ある大人と出会えたことで、失わずに偉大なクリエイターになった。稀有な存在だと思います」

──撮影や編集をする際に、ゴルチエ氏やブランドから事前に言われたことはありましたか。

「ありません。私の撮影の基本方針は、映像作家として編集権限を有すること。許可を得て撮影しているので、条件などはありませんでした。もちろん編集直後に、ご本人に作品を観てもらいました。そのとき驚いたのが、彼が盛んにノートにメモを取っていたのです。てっきりダメ出しのメモだと思い、何を言われるんだろう、どう言い訳をしようとビクビクしていました。でも実は、彼は私の作品から得たインスピレーションを書き留めていて、メモはショーを改善するためのアイデアだったのです。その姿勢にとても感銘を受け、そのメモはいただいて額に入れて家に飾っています(笑)」

一緒に涙してしまった特別なシーン

──壮大なスペクタルを映像化する上で、苦労したことと面白かったことは?

「作中に登場するセレブリティには、それぞれ異なる撮影ルールがあること。歌手のマドンナには専属の映像カメラマンがいるので、私は撮影することができませんでした。ですので、作中のマドンナの映像は私が撮影したものではありません。また俳優のカトリーヌ・ドヌーヴは、ショーで使用する映像の演技中は撮影がNGでしたが、その演技をする前後であれば撮影が許されていました。その逆が歌手のカトリーヌ・ランジェで、撮影セッション中は撮影OKで、その前後の撮影はNGでした。それぞれの条件に適応する必要があったんです。面白くもあり、細心の注意も必要でした。音楽プロデューサーのナイル・ロジャースは大変カメラ慣れしていて、撮影にオープンでした。このまま家に泊まって行きなよと言われるくらい打ち解けて、ものすごくフレンドリーだった。多くの有名人を撮影しましたが、最もカメラを嫌っていたのは、アナ・ウィンターですね(笑)」

──本作の見どころを教えてください。

「選ぶのが難しいですが、2つあります。まずは、序盤のナイル・ロジャース邸宅のシーン。おそらく彼は、ゴルチエ氏が撮影チームと一緒に訪ねてくることを知らされていなかったようで、シャワーから上がったばかりでした。それなのに、ゴルチエ氏は自分のショーの構想について竜巻のようにテンション高く語り出しました。一方のナイル・ロジャースは、ゴルチエ氏の沸騰した頭の中と饒舌なシャンパントークを楽しんで聞いている様子で。それはそれはいい雰囲気で二人のクリエイターの会話は進んでいきました。もうひとつは、最愛のパートナーであるフランシスのシーン。ゴルチエ氏の声をマイクで録音するセッションは、計5回ほど行いましたが、3回目でフランシス、彼の死、エイズ、彼が去った後の人生を自身の言葉で語ってくれました。最中にゴルチエ氏が涙を落とすことがありましたし、私も一緒に泣いてしまったんです。その会話は、彼にも私にもパーソナルなもので、美しい特別なシーンになりました。いまでも思い返すと心動かされ、胸が熱くなります。是非、日本の皆さんにもご覧いただきたいです」

『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』

監督/ヤン・レノレ
出演/ジャンポール・ゴルチエ、マドンナ、カトリーヌ・ドヌーヴ、ロッシ・デ・パルマ、ナイル・ロジャース、マリオン・コティヤール
9月29日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋、新宿シネマカリテほか全国公開
https://gaultier-movie.jp/

配給:キノフィルムズ
© CANAL+ / CAPA 2018

Interview & Text:Aika Kawada Edit:Sayaka Ito

Profile

ヤン・レノレYann L’Henoret 1970 年生まれ、フランス出身。ドキュメンタリー映像作家、ライター。1988年にキャリアをスタート。数多くのドキュメンタリー番組を手がけ、評価される。2016年にはフランスの柔道家テディ・リネールのリオ五輪に向けたトレーニングを3年間かけて撮影、2017年には選挙中のエマニュエル・マクロンを描いた話題のドキュメンタリー『Emmanuel Macron: Behind the Rise(原題)』を監督、Netflixで配信された。

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