グレタ・ガーウィグ インタビュー「私たちはいつも綱渡りをしている」 | Numero TOKYO
Interview / Post

グレタ・ガーウィグ インタビュー「私たちはいつも綱渡りをしている」

マテル社がリリースし、世界的にヒットしたファッションドール・バービーの実写映画が公開中。完璧でハッピーな毎日が続くバービーランドで突然、身体に異変を感じたバービーが、原因を探るべく、ケンと共に人間の世界を訪れる。おかしくて、パワフルで、正直なバービーの自立と解放を描く映画を手がけたのは『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』で知られる監督グレタ・ガーウィグ。彼女が語った、バービーとピンクへの思いとは? (『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年10月号掲載)

語りきれない何かと明確な表現の間を生きる

──バービー人形といえば、やはり子どもたちに髪の毛を切られたボサボサヘアが思い出されます(笑)。乱暴なまでに愛され、消費されたバービーを解放するという物語はどんなところから生まれたのでしょうか。

「私も同じようなものを持っていました(笑)。バービーに興味があったけれど、私の母はあまり好きじゃなかったから、近所の女の子たちがすでに愛したバービーしか持っていなくて。もう髪が切られていたし、ボロボロで靴もなかった。それが私のバービー観で、箱に入った完璧な髪形のバービーはおもちゃ屋で見るものでした。子どもの頃にバービーと遊ぶことがどんな体験だったかを思い出すことは私にとって重要でしたね。めちゃくちゃにしたいという衝動もその一部というか」

──混沌としてしまったバービーランドで、バービーたちが結託するきっかけとなるグロリア(アメリカ・フェレーラ)のスピーチが感動的でした。あなた自身は、期待される自分とこうありたい自分との葛藤に対して、どう解決してきたと思いますか?

「解決できているのかはわからないですけど(笑)、私は女性が好きだし、世代の違う女性同士の会話に興味があります。年上だけじゃなく、若い世代からもいつも学んでいる気がする。それ以外に説明しようがないですね。あのスピーチは、アメリカ・フェレーラ自身の経験をたくさん織り込んだもので、彼女が話しているとき、自分が泣いていることに気づいたんです。女性だけでなく、男性も涙を流していました。アメリカは女性としての人生を表現していたけれど、もしかしたら、私たちはみな常に綱渡りをしているようなものなのかもしれない。四方八方から縛られているようでもあるし、一歩踏み外したら落ちてしまう。そういう意味で、綱渡りという言葉がしっくりきて。彼女がそれを言ったことで、その場にいた誰もが『ああ、誰かが言葉にしてくれて本当によかった!』と感じたと思う。だって、女でも男でも、この世の中を生きるって、怖いことだから」

──本当にそうですね。そして、すっかり忘れていたのですが、バービーにもケンにも生殖器がないという事実を本作で思い出しました。

「今、それを知らない子どもはいないんじゃないかな。自分もそうだったし、子どもがバービーを手に入れたら一番にするのは、たぶん、服を全部脱がせることじゃないですか」

──思い返せば、自分もそうでした。生殖器がないということは、キャラクターの性格、行動に影響を与えているのでしょうか?

「(バービー役の)マーゴット(・ロビー)が『バービーは性的対象化されているけれど、セクシュアルじゃない』と言っていて、美しい表現だなと思いました。生殖器がないだけでなく、映画が始まっても、彼女には隠された生活がいっさいありません。映画の冒頭でも言っているように、そこにいる女性たちは全員バービーなわけだから、彼女には周りの人々に対する恥や隔たりがない。それが突然、彼女だけが違う、と感じるようになる。それは、自分自身の全てがそこにあると感じていたのに、突然、そうではないと感じ始めるという恐怖だと私は思ったんです」

──本作は言語化の重要性も伝えていますが、人生の中で、言葉にすることで何かが変わったという経験があれば聞かせてください。

「いつもそれを経験をしていると思う。私は書く仕事をしていますし、言葉が好きだし、読書も大好きなので、何かを読むたびに、説明できることさえ知らなかったものが説明されていると感じる。私が本当に大切にしているのは、ある意味、生きているという経験を深める手助けをしてくれる、言葉の具体性なんです。それに出合うことを楽しみにしているというか」

ピンクは二度と使わない?!

── 一方で、言葉に縛られたり、苦しんだりすることもありませんか。

「本当にそのとおりで、どちらもありますね。私もそれについて時々考えます。言葉には限界があって、人はしばしば自分の言いたいことを正確に言うことができないという感覚もあります。だから、明瞭な表現にも、そうでない表現にもどちらも興味があるし、登場人物の台詞の掛け合いを書く素晴らしさは、彼らがうまく言葉にできる部分もあれば、そうじゃないところもあるということなんです。面白いのは、私が書くさまざまな文章はいつも自然とそうなってしまうところで。尽きることのない言語への興味があるからなんでしょうね」

──バービーランドには、女性であるバービーたちと男性であるケンたちと、アランしか存在しないわけですが、演じるキャストに、ケイト・マッキノン、ハリ・ネフ、スコット・エバンス、アレクサンドラ・シップなどLGBTQ +コミュニティの俳優を多数起用している理由について聞かせていただけますか。

「今回のキャストは、バービーランド特有のトーン、つまり滑稽でありながら誠実な雰囲気をどう表現するかという点で選ばれた、とても才能がある俳優たちです。まず求めていたのは、陽気で決して人を馬鹿にすることがない、常に献身的な俳優であること。その次の段階としては、マテル社というブランドが近年あらゆる面でより包括的に拡大していて、どんな小さな女の子や男の子でも、ドールに自分自身を見いだせることが重要であると私たちもわかっていたので、いま存在しているバービーやケンの多様性を表現することを大事にしながら、キャスティングしました」

──観ながら、自分が持っていたピンクに対する偏見にも気づかされました。ピンクはあなたにとってどんな色ですか。

「マーゴットは小さい頃、ピンクが大嫌いだったそうですが、私はいちばん好きな色でした。だから、ピンクでいっぱいのセットを持った経験は、人生で最も幸せなことだったと言わざるを得ません。というのも、ピンクは人を幸せにする効果があると実感したんですよね。科学的にも実証されているんじゃないかな。でも、映画監督として言っておきたいのは、セット全体をピンクに塗って撮影する行為がいかに難しいかということ(笑)。突然、セット全体がピンクに反射していると気づいて、ああ、何てことをしてしまったの!と落ち込みました。キャストの顔が薄いピンク色になってしまうので、フレームに入らない部分はすべてグレーの布をかぶせなきゃいけなかった。撮影監督のロドリゴ(・プリエト)が衣装にグレーの布をピンで留めていたこともあったくらい。約1年間、ピンクと格闘してきたので、今はもう二度とピンクを使わなくてもいいという気持ちでいっぱいです(笑)」

『バービー』

監督・脚本/グレタ・ガーウィグ 
脚本/ノア・バームバック
出演/マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング、ウィル・フェレル
全国公開中
https://wwws.warnerbros.co.jp/barbie/

配給:ワーナー・ブラザース映画
©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

Interview & Text:Tomoko Ogawa Edit:Sayaka Ito

Profile

グレタ・ガーウィグGreta Gerwig 監督、脚本家、俳優。主な監督(兼脚本)作に『レディ・バード』(2017年)、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(19年)、主な出演作に『フランシス・ハ』(兼脚本/12年)、『20センチュリー・ウーマン』(16年)、『ホワイト・ノイズ』(22年)など。『フランシス・ハ』ではゴールデングローブ賞に、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』ではアカデミー賞6部門ほか多数ノミネートされた。監督で脚本家のノア・バームバックは公私にわたりパートナーである。

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