The xxのロミーにインタビュー「愛が持つ前向きな側面は未踏の領域だった」by Natsuki Kato
インディーロックバンド、ルビー・スパークスのブレーンとしてはもちろん、音楽への愛と知識に溢れた“音楽オタク”としても知られるNatsuki Katoが、気になるアーティストに独自の視点で取材し、自らの言葉で綴る不定期連載。第2回はザ・エックス・エックス(The xx)のメンバーとして活躍し、ソロデビューアルバム発売を控えるロミー(Romy)にインタビュー。
唯一無二のモノクロームな音楽で世界を魅了する孤高のバンド、ザ・エックス・エックス。フロントに立つロミーがこれまでのシャイで内向的な世界から飛び出し、意を決してカラフルでポップなクラブミュージックへ挑戦する。どんな人にもオープンなスペース、“クラブ”で見つけた多幸感、それを見事に表現する彼女の新たなチャレンジの数々から、音楽性や心境の変化、そしてクラブ・ミュージックへの想いなど、ロックとクラブ・カルチャーを行き来するロミーならではの視点で語ってもらった。
ギターを置いて、ダンス・ミュージックに接近
──今作がソロ名義で初のフルアルバムとなりますが、作曲のプロセスはバンドの時とソロとではどんな違いがありましたか?
「ソロでは曲全体を自分自身で仕上げなくてはいけないから、大きく違いました。ザ・エックス・エックスの楽曲では1つのヴァースを自分で書いて、別のヴァースはオリヴァーが書く、といった形で彼と共有しながら作曲していくことが多いので、完全に自分だけの視点で曲を完成させるのは自分にとって良いチャレンジでした。楽曲の持つストーリーを人とシェアしたり、コラボレーションするのがとても好きなので、オリヴァーと曲を書くのはいつでも心地良いですが、これまでとは違ったことに挑戦できるいい機会になりました」
──今回クレジットされているプロデューサーたちはどんな役割を担っているのですか?
「多くの楽曲を共作したフレッド・アゲインとはソロアルバムの構想を始める前に出会ったんです。数年前はまだソロとして曲を書いてみたいとは思っていても、自信がなくて、とてもシャイになっていた。だからその時期は誰かへの楽曲提供を積極的にしていて、フレッドとも共作をしたことで友人になりました。その後も二人で作曲を続けていたあるとき、彼が『この曲は誰に贈るべきかな』と尋ねてきたので、『もしかしたら私かも』と。そこからゆっくりと自分の中に自信が育ってきて、彼と共作したソロ名義の楽曲が増えていったんです」
──そうやってファースト・シングル『Strong』が誕生したんですね。
「実はあの曲は結構前なんだけど、2019年に書いたんです。そのときは彼と本当にたくさんの曲を作っていて、ソロ作に関してはもう一人のプロデューサー、スチュアート・プライスと一緒にとてもゆっくり進めていた。今ついに全曲の制作が終わってこれからリリースされるけど、曲ごとは少し前に書かれたものが多いんです」
──新曲からはザ・エックス・エックスで担当しているギターのサウンドは無くなり、ピアノのコード進行がリードする印象を受けました。ギターとピアノでは作曲においてそれぞれどんな違いがありましたか?
「ギターはいつでも自分にとって安心安全な楽器だったので、新たな挑戦としてそれを置くとどんなことが起きるのか見てみたかったんです。いくつかの曲ではギターも使ったけれど、今作の主なチャレンジはそれを取り除いて、よりダンス・ミュージックへ接近することでした。ギターで作曲する時は馴染みのあるコードを用いていましたが、ピアノを弾くフレッドの隣に座って彼の鳴らすコードに対して浮かんだメロディや歌詞でリアクションしていく、という全く新しい方法で取り組みました」
──完全に新しいチャレンジだったんですね。ジェイミー・エックス・エックスもプロデューサーとして参加しているんですか?
「彼はシングル『Enjoy Your Life』に参加してくれました。実は彼とももっと多くのセッションを行なっていて、それもまた素敵な瞬間だったのですが、もっとお互いに新しい経験や新しい人との仕事が必要だと考え、結果的に彼との共作はその1曲だけになったんです。彼はいつでも献身的に演奏やプロダクションを行ってくれるので、今回はいろんな人たちと作業してみることで、今度は自分自身が学んだことをジェイミーとの仕事に戻ったときにシェアすればまた一緒に新たな経験を積むことができると考えました」
──ザ・エックス・エックスの3作に渡る音楽的変化、そしてあなたのソロにおけるクラブ・ミュージックへの接近は、エヴリシング・バット・ザ・ガール(以下、EBTG)やセイント・エティエンヌのような90年代後期に生楽器を使うバンドでありながらUKクラブシーンを作り上げていったアーティストの姿とも重なります。僕の両親はEBTGが大好きで、トレイシー・ソーンの歌声を幼い頃から聴いていた僕にはロミーの歌声にどこか似た雰囲気を感じ、ノスタルジックな気持ちになりました。
「どちらのバンドも大ファンなのでその言葉はとても嬉しいし、最大の褒め言葉ですよ。ありがとう。トレイシーは本当に素晴らしいアーティストだし、同じようにEBTGを親と一緒に聴きながら育ったので、間違いなく自分の潜在意識の中にある音楽ですね」
──その一方で、モジョやスターダストといったフレンチハウスの影響も感じました。
「まさしく、『Enjoy Your Life』はそういった楽曲から大きなインスピレーションを受けた曲です。影響を受けた過去の楽曲に敬意を払いながら、でも新しい方法で表現することを心がけています」
父親から受けた影響
──ロミーにとって90年代のクラブ・ミュージックはどのような存在ですか?
「たぶん9〜11歳くらいの頃からラジオで耳にしていたから、自分にとってもやはりノスタルジアがあります。特にイギリスではモジョの『Lady』みたいなクラシックなクラブ・ヒッツは、結婚式やクラブでかかるとその場のみんなが知っているような未だに人気の楽曲なので、祝賀的な記憶としても自分のどこか一部に存在しています。もちろんそういった場面でみんなが一体感を得れる楽曲としても好きですが、クラブ・ミュージックの持つエモーションやソングライティングには大きな影響を与えてもらっています」
──9歳でクラブ・ミュージックに接していたとは驚きです。ご両親もそういった音楽が好きなんですか?
「そのくらいの歳のときはまだ何を聴くか自分で選択できなかったから、ラジオで流れてきたものをそのまま聴いていたんですね。そして14歳ごろにインディー・ミュージックに恋をして、ライブ・ギグに足を運ぶようになったんです。両親はミュージシャンではなかったけど、幼い頃に母が他界して父と二人で暮らしていて。父が集めていたレコードをかけながら食事をしていました。その頃はそれが普通のことだったのでなんとも思っていなかったけど、今思えばとてもいい思い出だし、父のおかげで色んな種類の音楽と触れ合えたので感謝しています」
──僕も父がいつも車で音楽をかけていたのでよくわかります。当時はわからなかったけれど、こうやってミュージシャンとして成長した今、そういう瞬間に聴いていた音楽や思い出が今の自分たちを作り上げたんだなと気付かされますよね。
「間違いないですね、全く同意です」
はじめて愛の持つ前向きな側面を綴った
──『Strong』や先行曲の『Lifetime』、『Lights Out』の歌詞はどれもシンプルかつポジティブで、ダンスミュージックにおける美学ともとれるキャッチーなフックの繰り返しが心地よいです。今作を通して歌詞には共通したテーマなどありますか?
「ザ・エックス・エックスでは失恋に関する曲をとてもたくさん書いてきたから、これもまた新たなチャレンジとしてよりポジティブで高揚するような歌詞にしたんです。そうすることで自分の人生において一つのピリオドを打つことができるとも思っていて。今はパートナーもいてとても幸せを感じているので、今の自分にはそういった歌詞のほうが簡単に書けるし寄り添えるんです。本当に多くの失恋ソングを書いたから(笑)」
──ザ・エックス・エックスの時とは全く違う方向性なんですね。
「バンドでは切望するような内容が多かったし、実際そのときはそういった感情を強く持っていた。なので愛が持つより前向きな側面は、自分にとっては未踏の領域でした。でも歌詞の中で自分のセクシュアリティに関してオープンに語ったり、より素直になることは自分自身の物語を話すような感覚でとても楽しかったです」
──歌詞はその時々のシチュエーションや自分の置かれている環境によって変化しますよね。また、若いときはより愛に敗れたり、失恋したりすることが多いですからね(笑)。
「まさしくそうですね(笑)」
クラブは自分を解放できるセーフスペース
──近年はDJとしても、世界中でプレイをしているのをインスタグラムでよく拝見しています。僕自身もバンドをやりながらたまにレコードを使ってDJをしますが、クラブのDJブースに一人で立つのはバンドでステージに立つとき以上の緊張感があります(笑)。ロミーにとってDJをすることはバンド活動とどのような関係を持っていますか?
「レコードを使ってDJするのはとても難しいと思うから尊敬しますよ。初めてDJをしたのは17歳のときで、まだザ・エックス・エックスとしてツアーを始める前だったんだけど、すぐ好きになりました。ギターを演奏したりライブ音楽により重点を置き始めると、DJしているときに自分が曲をどうミックスするか、どうつなげるかを考えるため、何度も繰り返しその曲を聴いたりすることで構造を理解していたことに気づいたんです。それはバンド活動においても活きているし、逆にツアーで旅をすると同じ曲を何度も聴いたりするから、DJするための知識構築にもつながっています。同じようにDJはいまだに緊張するけど、それはとてもいいことだと思いますよ(笑)。新しいスキルをまだ学んでいるわけだし、バンドで新しいことをステージで披露するときは自信満々にできてもそれとは全く違う。時間と共に練習を重ねれば楽しめると思うから、ひたすら続けていくしかないですね」
──あなたにとってクラブとはどんな場所ですか?
「クラブは一種の逃避できる場所だと思うし、クラブ・コミュニティが持つ空気感が好きです。これはライブハウスでも同様だけど、誰もが音楽に没入することができる所ですね。中でもクィアなクラブは、自分にとってセクシュアリティを解放できて安全を感じることのできる特別な場所です」
──その地域の若者と知り合ったり、カルチャーを知るのに最適だと思うので、僕はツアーやレコーディングで他の国に行ったときは必ず合間を縫ってメンバーとその地のクラブに遊びに行くようにしています。東京のクラブには行ったことありますか?
「ミュージック・バーのようなところに何回か行きました、新宿二丁目のニューサザエ(NEW SAZAE)というところです。そのときは土曜の夜に行ったんだけど、おそらく50代くらいの素晴らしい女性DJがいて、とにかく有名なポップ・ミュージックだけをかけていてとても楽しかった。彼女もとても幸せそうに見えて、フロアにいる人たちもみんな踊っていてなんだかすごくピュアな空間だった。素晴らしい経験でした」
──とても素敵な瞬間ですね。純粋にハッピーな感情になれる、それこそまさにクラブのいいところだと思いませんか?
「まさしく、有名な曲がかかると『この曲大好き! ずっと昔からこの曲聴いてる!』と言ってその場にいるみんながつながっていくんです。どこかオススメのクラブはありますか?」
──僕は翠月(Mitsuki)というクラブにたまに行きますよ。小さいですが全てがオレンジ色にライトアップされていてとてもカッコいい場所です。
「良いですね、絶対にチェックしてみます。ありがとう」
スポーティなストリートスタイルは、フットボールの影響
──シングルのアートワークやマーチャンダイズはザ・エックス・エックスのモノクロームなトーンとは対照的にカラフルでポップなのが印象的です。フォントなど自身でデザインもしているのですか?
「すべてを自分でデザインしているわけではないけど、マーチャンダイズでも方向性やヴィジョンは自ら関与してディレクションするのが好きです。ネオン・カラーやレーシングカーのロゴ、2000年代らしいデザインなどにインスパイアされています」
──よくレーシングジャケットや、トラック・スーツ、フットボールのユニフォームなどを着こなしていて、とてもお洒落だと思っていました。何をきっかけにスポーツ関連のアイテムを着用するようになったんですか?
「2018年のザ・エックス・エックスのツアーが終わり、1年ぶりくらいに家に帰ってきたときに、久しぶりに時間ができて。友人が女性のフットボール・チームを結成していたので、そこに加わりよくフットボールをするようになり、自然とフットボール関連の服を着るようになったんです」
──実際にプレイヤーでもあったんですね。
「フットボールはとても楽しいですよ。着心地もとても良いので、よりカジュアルに着れるユニフォームを探すようになって、今のファッション・スタイルに変わっていったんです」
──でも今やスポーティなユニフォームをストリートなスタイルで着るのは一種のトレンドですよね。とても早い時期からそのスタイルを取り入れていたんですね。他に好きなブランドなどはありますか?
「X-girlがとても好きです。メンズのストリート・ウェアをよく着るんだけど、X-girlのアイテムにはユニセックスなスタイルのものが多くて、サイズやシルエットが自分にとてもフィットするんです」
──僕もレディースの服やアイテムを着るのが好きですよ。
「とても良いと思います。もしその服のどこかを気に入ったのなら、それがメンズ用かレディース用かなんて心配する必要なんてないんです。その服が着る人にフィットしたら、それだけで素敵な雰囲気が生まれると思います」
──ソロアルバムのリリースを目前に控えた今、どんな心境ですか?
「とても緊張してます(笑)。でももちろん、みんながどんな感想をくれるかとても楽しみです」
──僕も聴くのを今からとても楽しみにしています。今日はありがとうございました。
「ありがとう。あなたの音楽もぜひ聴かせてください」
Romy『Mid Air』
価格/¥2,640(国内盤CD)
発売日/2023年9月8日
詳細はこちら。
Photos:Takao Iwasawa Interview & Text:Natsuki Kato Edit:Mariko Kimbara