ソ・イングク インタビュー「こんな極悪非道な役には、もう出会えないかもしれない」
歌手と俳優として活躍するソ・イングクが、新作映画『オオカミ狩り』で、極悪非道な悪党を演じる。これまで、ロマンスの相手や御曹司の役が多かったけれど、今回は一転して、全身タトゥーだらけの稀代の犯罪者。待望の悪役だったというだけあり、今作のためにトレーニングで16kg増量し、本格的なバイオレンス・サバイバル・アクションに挑んだ。そんな彼がこの作品で切り開いた新境地や、今後の歌手活動についても聞いた。
現実とはかけ離れたような役を演じたことは、貴重な経験になった
──この作品のオファーを受けて、脚本を読んだときの最初の印象を教えてください。韓国ではR18、日本ではR15+という刺激的な作品に出演してみようと思った理由は?
「まず、台本を読んだ時には、先の展開が全く予想できなくて、とても面白いと思いました。普通なら、こんな感じの人物が登場したら、こんな困難を乗り越えて、こういう展開になるだろうと予想できたりもしますが、この作品はどんどん予想を裏切っていくんです。その点がとても新鮮だと思いました。この物語の中で、僕が演じたジョンドゥが登場する流れにも意外性があったし、このキャラクターに魅力を感じたので、それが出演を決めた大きな理由になりました」
──今回の『オオカミ狩り』のような、バイオレンス・サバイバル・アクションやスリラー、ホラー映画は、もともと好きだったジャンルなのでしょうか。
「ホラーやスリラーのような作品は大好きです。あとは、モンスターやクリーチャーものもよく観ます。日本の作品なら、『リング』や『呪怨』シリーズは、ハリウッドでリメイクされたものも含めて楽しく観ていました」
──待望の悪役だそうですが、悪役を演じたかった理由と、実際に演じた感想を教えてください。
「悪役を演じてみたかった理由は、悪役は現実からかけ離れていますよね。現実では感じられない感情や、外見だったり、悪役が登場したときに起きるシチュエーションも、映画の悪役だからこそ体験できることがあります。今回、ジョンドゥというキャラクターは、悪役の中でも特になんの理由もなくいきなり暴力を振るう役だったので、非常に特殊な人物だし、この機会を逃したら、二度とこんなキャラクターには出会えないだろうと思いました」
──ジョンドゥはかなり極悪非道な役柄ですが、どのように人物像を理解していったのでしょうか。また、役作りや監督と話し合ったことを教えてください。
「監督とは、ジョンドゥの外見から感情表現まで、本当にたくさんのことを話し合いました。監督の考えるジョンドゥは、外見的には痩せているイメージだったんですが、僕は危険な人物だと表現したかったので、運動をして筋肉をつけることを提案しました。ジョンドゥは、一般常識では理解しがたい人だと思います。彼にはこういう事情があるから殺人を起こしたんだなと同情できる点がひとつもないんです。だから、あくまでも1つのキャラクターだと割り切って、思いっきり演じることにしました」
──今作は航行中に船上で起きた事件という設定ですが、実際に船で撮影したのでしょうか。また、撮影では2.5トンの血糊を使用したそうですが、撮影中に大変だったことについて教えてください。
「船内のシーンは、セットも使ったし、実際の船での撮影もありました。とても大きな船での撮影だったんですが、船なので揺れているから船酔いもしたし、いつもより疲れが早く出るんです。撮影中は大変でしたが、今、振り返るといい経験になりました。でも、血糊は大変でしたよ(笑)。ジョンドゥは体中にタトゥーが入っていて、撮影ではタトゥーシールを使っていたんです。今回、使った血糊はかなり粘着性があって、動くたびに体のあちこちに血糊がついて、シールが剥がれてしまうんです。剥がれたらまた修正して、というのを繰り返していたので、その点が苦労しました」
──今作は、同世代から上の世代、下の世代など、多くの共演者がいますが、どんな交流がありましたか。
「今回の撮影現場は、大変なことが多かったんです。出演シーンは5〜10分ほどでも、朝からタトゥーシールを貼ったり、体中に血糊を塗ったりして準備する時間もあったりして、それも含めると本当に大変でした。でも、共演していた皆さんは、辛い顔を一切見せずに、本当に楽しそうに現場で過ごしていたんです。先輩が後輩の面倒を見てあげる光景も、よく見かけました。それから、現場で監督がディレクションをすると、俳優のみなさんが瞬発力を発揮して、すぐその場で自分の演技に取り入れるんです。その点でも、学ぶことがたくさんありました」
──『空から降る一億の星』で共演したチョン・ソミンさんと、再び本作で共演しています。また、チャン・ドンユンさんも印象的な役でしたが、この二人の印象は?
「まずチョン・ソミンさんとは、また共演することができて、とても嬉しかったです。そして、チャン・ドンユンさんは、今回初めての共演でした。彼が演じるドイルという役は寡黙なキャラクターなんです。ところが、実際の彼はとっても活発な性格で、話も面白いですし、とても愉快な性格です。そのギャップが魅力だと思いました」
──ジョンドゥは強烈なキャラクターでしたが、役とプライベートとの切り替えは?
「実は、今回のジョンドゥに関しては、役とプライベートの切り替えは難しくなかったんです。というのも、ジョンドゥというキャラクターには共感する必要がなかったので、役に入り込んでしまって抜け出せないということはありませんでした。ただ、体力的にキツいことが多かったですね」
──完成した作品をご覧になって、いかがでしたか。
「僕も観客の皆さんと同じように、キャラクターの残虐性やストーリーに対して、非常に衝撃を受けました。台本を読んだ時に感じたように、物語の展開が全く予想できない作品になっていて、とても満ち足りた、胸がいっぱいになるような気持ちになりました」
──ちなみに、本作に登場する怪人のように、驚異的な能力を得られるとしたら、どんな力が欲しいですか。
「この世界を自由に渡り歩くことができる能力。ちょっと恥ずかしいですね、SFオタクみたいで(笑)。最近、日本の異世界転生もののアニメをよく見ているので、その影響かもしれません」
歌手と俳優、両方続けていくことがとても楽しい
──今年1月には、東京と大阪で単独コンサートを行いましたが、その感想を教えてください。
「いつも公演をするたびに、ファンの皆さんの歓声が大きな力になっているんですが、昨年のファンミーティングから半年ぶりに日本のファンの皆さんの前でコンサートをすることができて、喜んでいただけたので本当に気分が良かったです。早くまた次のステージも準備して、日本のファンの皆さんとお会いする機会を作りたいと思っています」
──来日時はどのように過ごしていたのでしょうか。日本で買ったものや、食べたものがありましたら教えてください。
「ドン・キホーテで売っているゼリーを買いました。それから、ラーメンですね。ラーメンは日本に来たら必ず食べます。味噌ラーメンが好きです」
──ソ・イングクさんにとって、歌と演技の違いとはなんでしょうか。
「歌の方は、メロディーに歌詞を乗せて、歌詞の中で、例えば過去に経験した感情などを表現していきます。演技はまたそれとは違って、相手の俳優さん、そして共演者の方や監督と話し合いをしながら芝居をします。自分が動いて、みんなで1つの映像作品を作り、それをみなさんに観ていただく。そういった違いがあります」
──歌手と俳優という2つの仕事を、どのようなバランスで続けていく予定ですか。
「俳優と歌手の2つのバランスを、考えたことがないんです。だから、これからも、今までと同じようなペースでやっていくと思います。俳優としてひとつの作品に没頭しているときも、時間があれば曲作りをしますし、このタイミングでリリースするべきだと思うような曲があれば、音楽の方に重心を置くかもしれません。音楽も僕一人だけじゃなくてチームで制作しているので、俳優として撮影に入っている時も、曲の制作は進行しているんです。歌にしろ、映画にしろ、たくさんの方が僕の作品を待ってくださっています。僕にとってはその2つを両方やることがとても楽しいんです」
──2023年もスケジュールがぎっしり詰まっています。忙しい日々が続きますね。
「そうなんですよ。でも、仕事をしている時に感じる活気が大好きだし、生きている実感があるんです。だから、休む時間はできるだけ短くして、仕事の分量を多くして、そんなふうにしていくと、楽しい人生になるんじゃないかなと思っています」
『オオカミ狩り』
フィリピンに逃亡した極悪犯罪者たちと護送官の刑事を乗せた貨物船“フロンティア・タイタン号”。そこには、第一級殺人の極悪非道な国際手配犯・ジョンドゥ(ソ・イングク)や、ナイフ使いの寡黙な犯罪者・ドイル(チャン・ドンユン)がいた。太平洋のど真ん中に浮かぶ監獄は、犯罪者たちの反乱により血で海を染める。そして、“怪人”が目覚めたとき船上は地獄と化す。果たして、生き残るのは……。
監督・脚本/キム・ホンソン
出演/ソ・イングク、チャン・ドンユン、ソン・ドンイル、パク・ホサン、チョン・ソミン、コ・チャンソク、チャン・ヨンナム、チェ・グィファ
URL/klockworx-asia.com/pwh/
R15+
4月7日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー
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Photos: Kim TaeKoo © LADSTUDIO KIMTAEKOO Interview & Text: Miho Matsuda Edit: Yukiko Shinto