宮沢氷魚インタビュー「この映画で正直な気持ちを少しずつ話せるようになりました」 | Numero TOKYO
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宮沢氷魚インタビュー「この映画で正直な気持ちを少しずつ話せるようになりました」

名コラムを世に送り出してきたエッセイストの高山真の自伝的小説『エゴイスト』を原作とした映画『エゴイスト』が2月10日に公開される。ファッション誌の編集者として働く浩輔(鈴木亮平)とパーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)はお互いに惹かれ合い、幸せな時間を過ごす。だが、そこへ訪れる思いもよらぬ運命……。性別や血のつながりなど様々なボーダー、そして愛とはエゴとは何なのかを胸の内に訴えかける人間愛の物語だ。自分よりも母や周りの幸せを優先する心優しい龍太を演じた宮沢氷魚が、本作を演じた感想と作品を通して学んだ“正直な気持ち”を語ってくれた。

「クランクインしてからの方が気持ちが楽でした」

──クランクインされるまで入念に準備されたそうですね。一ヶ月半、体作りと所作を学ばれたそうですが具体的にどんなメニューをこなしたのでしょうか。

「パーソナルトレーナーという職業の役なので、体作りと教え方を1ヶ月半ほど学ばせてもらいました。トレーニングに関しては週2回で1時間半くらいのメニューをこなしたのですが、1日が終わると歩けないくらい体がきつかったですね。電車に乗っていても、ちょっとの揺れで足から崩れていくくらいで移動が大変でした(笑)。また鍛えることだけが目的ではなく、トレーナー役として教える側の所作も学ばなければいけません。トレーナーさんが休憩時間にどんな準備をされているのか、何をしているのかを観察したりどんな言葉をかけてくれるかなど、体だけでなく頭もフル回転していました。中でもトレーニングのベンチプレスの持ち方などは一回教わればできるのですが、ストレッチやマッサージが簡単そうに見えてとても難しいんです。鈴木(亮平)さんと一緒に合わせてトレーニングしたのは撮影日だけで、人の体型に合わせてストレッチやマッサージの方法も変わってくるので、自分の思っていたイメージと違ったりしてそこへの対応も難しかったです」

──撮影前のリハーサルからもとても時間をかけたと伺いました。

「そうですね。台本をベースに即興で芝居をする稽古をしました。役者に渡されるメモにそれぞれミッションが書かれていてそれをクリアしようとするのですが、松永監督はあえてクリアできないようにしてお互いを衝突させるんです。例えば、何かを渡すのが僕のミッションで、でも向こうは受け取らないっていうミッションで。駆け引きというか。結末がわかっているのではなくて、何が起きるのかわからない。本当にその人の目を見て何を考えているのか、次にどういう行動をするのかというのを必死で感じながらも、こちら側は与えられたことをやらなければいけない。このリハーサルのおかげで、全体的にバランスが取れたように思います。亮平さんは二人のシーンでこういう顔をされるんだ、こうやって言葉をかけてリアクションをするんだなど、リアルに感じられたからこそ、撮影初日もスッと役に入り込めました」

──カメラマンの池田直矢さんもリハーサルから入られたそうですね。

「そうなんです。リハーサルの時から池田さんがずっとカメラを回してるんですよ。最初はめっちゃ至近距離でくるし、かと思えば急に引いたりするので最初は気になってしまって。何も決まっていなくて突然回り込んできて正面から撮ったり。どこいったんだろと思ったら後ろから撮っていたり。でも2日目から慣れちゃうんですよ。その存在に気づかなくなるくらい。僕と亮平さんだけ、僕と阿川さんだけの世界になっていて。ドキュメンタリーのような撮り方をしていたのですが、作品に入ってからも一切カメラや照明、音声が気にならない。リハーサルがあったからこそだなと思いました。

クランクインしてからの方が、僕はその役に没頭できたというところではちょっと楽になって。準備期間の方が鍛えたり役に入ったり、台本を読み込んだりその期間が一番忙しくて心がフル稼働で。でも始まってからは龍太の生活に集中すれば良かったので、外のものを考えずにいられてそれは準備をちゃんとしていたからこそできたのかなと。インしてからの方が気が楽でした」

演じて気づいた、龍太への共感と心の交わり

──実際に撮影が始まってから鈴木(亮平)さんとは具体的にどんな話し合いを?

「亮平さんとはそういった話を全くしていないんですよ。こうしようみたいな話も相談もなくて。というのも、その必要性がなかったっていうのが正しい言い方だと思います。亮平さんは亮平さんで準備をしていて、僕も準備をしていて。それぞれ僕たちの中でこういう風にやりたい、こう感じるんだろうなっていうのがある程度できていたからこそ、変に打ち合わせもなく、その瞬間瞬間を演じる人物として生きていて、この映画ができたという感覚です」

──宮沢さん自身は台本を読んで龍太役をどのように演じようと挑みましたか。

「以前、映画『his』という作品に出演させていただいた時に始めてゲイの役を演じました。その時にとてもお世話になった友人がいて彼はゲイなのですが、5歳の頃からずっと一緒で、教えてくれるというより一緒にいるだけでたくさん僕が感じるものがあって、彼ととにかくご飯食べにいったり飲みにいったり、遊びに行ったりしていて、時間を彼と一緒に過ごすことで心の準備ができていました。その時を思い出しながらやったわけではないですが、その時に学んだことが今にも生かされていると思います」

──龍太は浩輔のどんなところに惹かれたのでしょう。

「おそらく僕(龍太)にないものを持っていたから。龍太からみた浩輔さんは精神的にも経済的にもある余裕だったり、包み込んでくれる暖かさ。今まで龍太が自分が欲していたものを浩輔さんは持っていて、でも浩輔さんはそれを持っているとは思っていないかもしれないし。そこも含めて惹かれたのかな」

──自分の気持ちを押し殺してでも人のために頑張りすぎてしまう龍太と、自分の正直な気持ちをまっすぐに伝えられる浩輔。宮沢さん自身はどちらの性格に近いですか。

「僕は完全に龍太なんです。自分の思ってることや言いたいことを周りを考えながら選んでしまう方で。少しでも周りが嫌な気持ちとか傷つく可能性があることや行動はしないとか、自分が言いたいことがあっても周りを気にしてしまう。周りを優先してしまうがゆえに結構自分の中に閉じ込めてしまう性格なんです」

──中でも龍太に共感したシーンは?

「シーンというより、とにかく自分のキャパシティよりも頑張ってしまうところに共感してしまいました。ホテルで浩輔さんに会って色々打ち明けて話した後、皿洗いしながらパーソナルトレーナーとして頑張って。明らかに精神的にも体力的にも彼のキャパを遥かに超えているんですけど、頑張ってしまう。弱音が吐けない、妥協ができないっていうのはものすごくあって。

僕も作品中に、自分に対して100%を常に求めてしまうがゆえにパンクしちゃうんです。体調を崩したり精神的に疲れたってなってしまう時がありますね。それは自分のためでもあるんですけど周りを気にしすぎる。僕の場合、自分のためだけにやっていれば100%で収まると思うんですけど、周りのことを気にしすぎて120、130%でパンクしてしまうところではありますね。ガス抜きが上手くできたらいいんですけどね。休みがあれば休憩できるんですけど、忙しい時にガス抜きできる方法を教えて欲しいですね(笑)」

伝える愛、受け取る愛

──阿川佐和子さん演じる母親役と龍太との関係性も印象的でした。優しい母親役はとても自然で本当の親子のようでしたね。

「親子としてもすごい身長差だなと思いました(笑)。でも阿川さんの持ってるパワーみたいなものをすごく感じて、とてつもなく大きく見えたんです。母親ならではのどんなことがあっても息子を守るという愛情みたいなものが滲み出ていてとにかく大きかった。阿川さんにしか出せないものだと感じましたし、だからこそこんな母を守ってあげたいし何か自分にできることはないのかと思いました」

──演技以外で何かお話しされましたか。

「現場に豆乳を持ってきてくれて本当にお母さんかのように『はい!豆乳』とくれたんです。豆乳が体に良いってことをどこかで入手したらしく買ったら、箱買いしてすごい量が届いてしまったみたいでみんな配っていました。可愛いお母さんだなと思いましたね」

──とても可愛いですね。演じられた役と変わらないように思います。

「監督の演出でもあったのですが、普段の阿川さんだとすごくエネルギッシュなので、『母親役の病気で苦しんでいる人には見えないからもう少しトーンダウンして』と指示されているのを見ていて、それだけ阿川さんのエネルギーがあるんだろうなと思いました。いざカメラが回るとスッと入り込んでお母さんの人物になっていましたね」

──映画『エゴイスト』は性別や血のつながりといった様々なボーダーや、愛とエゴなど……多方面から色々な問いを訴えかけられる作品だと感じました。松永監督のコメントで「この作品を通してどの関係性でも良いから誰かとディスカッションしてほしい」とおっしゃっていました。宮沢さんは誰とどんなことを話し合いたいですか。

「やっぱり家族ですね。一番長く一緒にいますし、全部を分かっているつもりでも“わかってるよね” “わかってるだろうな”ということに甘えてしまって意外に知らないことがあるじゃないですか。僕は何年か前から一人暮らしを始めて、会う時間も限られ、家族って血が繋がっているだけじゃなくて、愛情で包まれて幸せに暮らしているんだというのを改めて話し合いたいですね。照れ臭いですけど、普段なかなか切り出しにくいことや、言いにくいこともこの映画を見ると伝えたいと思える。怖いじゃないですか、何か正直な気持ちを伝えることって。でもそういった気持ちを少しずつ話せるようになった大切な作品です」

『エゴイスト』
14歳で母を失い、田舎町でゲイである自分の姿を押し殺しながら思春期を過ごした浩輔。今は東京の出版社でファッション誌の編集者として働き、自由な日々を送っている。そんな彼が出会ったのは、シングルマザーである母を支えながら暮らす、パーソナルトレーナーの龍太。惹かれ合った2人は、時に龍太の母も交えながら満ち足りた時間を重ねていく。亡き母への想いを抱えた浩輔にとって、母に寄り添う龍太をサポートし、愛し合う時間は幸せなものだった。しかし2人でドライブに出かける約束をしていたある日、何故か龍太は姿を現さなかった。

監督・脚本/松永大司
キャスト/鈴木亮平、宮沢氷魚、中村優子、和田庵、ドリアン・ロロブリジーダ、柄本明、阿川佐和子
原作/高山真「エゴイスト」(小学館刊)
2月10日(金)全国公開予定。
©2023高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会
http://www.egoist-movie.com/

宮沢氷魚さん衣装
ニット¥181,500、中に着たシャツ¥95,700、パンツ¥198,000、シューズ¥154,000/すべてFerragamo(フェラガモ・ジャパン 0120-202-170)

Photos:Keiichiro Nakajima Styling:Masashi sho Hair & Makeup:Taro Yoshida Interview & Text:Saki Shibata

Profile

宮沢氷魚Hio Miyazawa 1994年4月24日生まれ。サンフランシスコ出身。2017年にテレビドラマ『コウノドリ』第2シリーズで俳優デビュー。その後、ドラマ『偽装不倫』(19)、NHK連続テレビ小説『エール』(20)、映画『グッバイ·クルエル·ワールド』(22)、『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』(22/声の出演)など多くの作品に出演。初主演映画『his』(20)では数々の新人賞を受賞、映画『騙し絵の牙』(21)にて、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。舞台に「BOAT」「豊饒の海」「CITY」「ピサロ」など。また、NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」(22)への出演も話題を呼んだ。2023年には『THELEGEND&BUTTERFLY』の公開を控える。

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