池松壮亮インタビュー「“映画”でつながることのできる海外の現場」 | Numero TOKYO
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池松壮亮インタビュー「“映画”でつながることのできる海外の現場」

世界を席巻している韓国カルチャーに続いて注目したいのは、急速な変化を遂げ、勢いを増す中国のカルチャー。福岡の柳川を舞台にした中国映画『柳川』に出演した俳優の池松壮亮は新しい経験を通して何を見て何を思ったのか──。映画に対する今の思いを聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年1・2月合併号掲載)

 

池松壮亮が中国映画に出演した理由

──『柳川』は池松さんにとって初めての中国映画への参加になります。出演を決めた理由は?

いろいろありますが、まずは脚本が面白かったこと、監督のチャン・リュルさんの作品は数本拝見していて以前から素晴らしいと感じていました。そしてほんとにたまたま、偶然にも前日に、友人のパク・ジョンボムさんが出演していたこともあって、監督の『春の夢』という映画を観たばかりだったんです。不思議な縁を感じました。それから海外の人が撮る日本に以前から関心があったこと、30代では海外の作品にどんどんチャレンジしていこうと考えていたこと。さらに舞台が福岡の柳川だったこともオファーを受ける際の大きな後押しになりました。ロケ地からすぐのところに母方の実家があって、幼い頃から馴染み深い場所だったんです。柳川はお堀の風景がのどかできれいな場所ですが、特別メジャーな観光地ではありませんよね。そんな柳川のどこに目を向けるのか、何を撮ろうとしているのか非常に興味が湧きました。韓国映画で活躍されているチャン・リュル監督のもとに中国ナンバーワン女優とも言われるニー・ニーさん、そのほかチャン・ルーイーさん、シン・バイチンさんという中国の錚々たる映画人が集結し、合作するということにワクワクしましたし、この企画に大きな意義があると感じました。これだけの理由が揃えば、断る選択肢はありませんでした。

──チャン・リュル監督の撮影を体験して印象的だったことは?

この作品に漂う監督の映画観、人生観、時間や空間、物事や人、土地の捉え方がとても詩的で、その感性が素晴らしいと思いました。詩的で唯一無二の映画に仕上がり、おそらく柳川の地元の方も知らなかったようなこの土地の情緒を映し出しているんじゃないかと思います。異なる価値観や文化的背景の中で撮ることで、そこが全く知らない風景に変わったり、見落としていた魅力を発見したりすることも、映画の醍醐味のひとつです。

──撮影中にも監督独自の世界観を感じることはありましたか。

強く印象に残っているのは、撮影終了後に監督とメールのやりとりをしていたとき、東アジアの歴史に非常に興味を持っているとおっしゃっていたことです。監督は中国出身ですが、朝鮮族という少数民族にルーツがあり、2000年頃から韓国映画界で活躍されています。今作は監督のフィルモグラフィーにおいて初めて、中国資本の中国映画として撮影した作品なんです。その記念すべき作品の舞台をあえて日本にしたことで、中国、韓国、日本という東アジアの映画になりました。僕らはそれぞれ異なる文化・環境の中で生きていますが、歴史を見ると密接に交わっています。監督は自分の血の歴史がアジアにあると大きく捉える力を持っていて、それを映画にしているんだということが今回大いに納得できました。

──現場でのコミュニケーションは?

拙い英語と、通訳の人を介してお話ししていました。海外の現場を経験するといつも感じるのですが、言語の壁があるからこそ、映画という、あるいは人間というひとつの“イデオロギー”でつながり合えるような感覚があるんです。今回も、自分が生きてきた時間と、遥か長い血の歴史、それを感じながらそれぞれが移ろいの中で、夢と幻想、現実の間に漂う姿を演じることができたことはとても面白かったです。

──映画『アジアの天使』『1921』(日本未公開)と今作、Amazon Originalドラマ『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』と、続けて韓国、中国、アメリカの現場を体験されています。

2020年に30歳を迎えたのですが、それまでの大学を卒業してからの6年間は意識的に日本映画にどっぷり浸ったんですね。その中で、今後30代の自分、あるいはこの国の俳優の可能性をどう追求しアップデートしていくべきだろうと考えたときに、自然と視線が海外に向きました。以前から、日本の混沌とした状態を問題視するならば、その問題の核心は中ではなく外で見つかると感じていました。そういう自分の関心と、偶然ご縁が重なったというのが、続いた理由です。

──ハリウッドなど、海外を拠点にすることも考えましたか。

海外を向くと、この国ではどうしても「海外進出」と言われますが、その言葉にも違和感を感じています。僕は『ラスト サムライ』というアメリカの映画がデビュー作ですが、共演した渡辺謙さんや真田広之さんたちがアメリカに打って出たことは、日本の映画界にとってとても大きなトピックでしたし、その姿はものすごく尊敬しています。ただその何年も先の世代の僕としてはもう少し違った方法で海外とつながれるのではないかと、20代の間ずっと考えていたんです。拙い英語と映画という“共通言語”を携えて、自分から世界と手をつなぎに出向き、その経験を日本に持ち帰るような、もう少し境目のない方法ができないかと。時代の変わり目による、国際関係の不協和音が連日報道されて、海外に出向くことはリスクが大きいタイミングでしたが、だからこそフィジカルに海外の人とつながることに、自分が映画でやれることがあると信じていました。今回の『柳川』のように、監督、俳優の皆さん、そしてスタッフの方々と、人生や感性や思いやりを持ち寄り、ひとつの映画にすることが今最もやるべきことだと思えました。

日本と海外に境界はない

──海外の現場を経験し、あらためて日本を振り返ってみると?

言葉にするとありふれていますが、アメリカ、韓国では、グローバル資本での映画作りが当たり前です。中国はあまりにもマーケットの大きさが違います。『柳川』も中国のインディペンデント映画でありながら、日本のメジャー映画よりも制作費が上なんですね。お金のことだけじゃなく、文化レベルでも自分たちは何を守ってきたのかもう少しわかっている。日本は全部ダメだと言うつもりはありませんが、世界におけるさまざまな現実を直視して戻ってきました。世界には政治的に自由な表現が難しい地域があり、そのなかで何を物語るのかを切実に考え、闘っている映画人たちがいることも人の意見や記事ではなく、自分の肌感覚で知ることができました。

──これからも世界をめぐる旅を続けるのでしょうか。

チャンスがあればどんどん続けていきたいと思います。日本に可能性が見いだせないからという意味ではなく、日本と海外を分けて考えることがナンセンスだと思うからです。そこに語るべき物語や人物があって、自分が求める出会いがあるのなら、そこに赴いて、知らない世界を見て演じて人として、俳優としての経験を広げて戻ってくる。自分にとって重要なのは、お客さんに見てほしいものなのかどうか。面白いと思ってくれるはずだという確信があるなら、いろんな土地に出かけていきたいと思っています。

『柳川』
ドンとチュンの兄弟は2人が⻘春時代に愛した女性、リウ・チュアンを探して、彼女が暮らしているという日本の柳川(北京語で「リウ・チュアン」と読む)に向かう。

監督・脚本/チャン・リュル 
出演/ニー・ニー、チャン・ルーイー、シン・バイチン、池松壮亮、中野良子、新音 
配給/Foggy
12月30日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開 
https://movie.foggycinema.com/yanagawa/

池松壮亮おすすめの中国映画!

『天安門、恋人たち』『ブラインド・マッサージ』

池松壮亮にお気に入りの中国映画を聞くと、すぐさまロウ・イエ監督の名前が挙がった。「『天安門、恋人たち』(写真)は、天安門事件を境にした男女の長年にわたる物語。青春の儚さと時代がもたらす影、あの事件を経験したわけではないけれど、人生を感じる一本です。『ブラインド・マッサージ』は、スポットの当たりづらいところに目をつけ、題材として利用するのではなく映画として寄り添い研ぎ澄ませてゆくその手腕に惚れ惚れします」(池松)。ロウ・イエ監督といえば、最新作『シャドウプレイ【完全版】』が2023年1月20日に日本で公開予定。池松の推薦作とあわせて楽しみたい。

Photo:Kiichi Fukuda Hair & Makeup:Fujiu Jimi Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Sayaka Ito

Profile

池松壮亮Sosuke Ikematsu 1990年生まれ、福岡県出身。2003年、映画『ラストサムライ』で映画デビュー。以後、数多くの映画やドラマで活躍、受賞多数。主な出演作に映画『愛の渦』『紙の月』『夜空はいつでも最高密度の青色だ』『斬、』『宮本から君へ』『アジアの天使』『ちょっと思い出しただけ』、テレビドラマでは『MOZU』シリーズ、『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』などに出演。公開待機作に『シン・仮面ライダー』(23年3月公開予定)がある。

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