DYGL インタビュー。改めて感じる「DYGLはロックバンド」
今年結成10年を迎えたロックバンド、DYGL。自らのルーツである1990年代のオルタナギターロックの香りが色濃くも、様々なサウンドが混在する4thアルバム『Thirst』は、レコーディングからミックスまで自分たちが手掛けた完全セルフプロデュース作。アメリカやイギリスに長期滞在し、制作やライブを行ってきたDYGLがバンド史上一番のDIYなアルバムを作った理由とは? 影響を受けたカルチャーについても訊いた。
ようやく挑戦した、完全セルフプロデュースの4thアルバム。
──『Thirst』でレコーディングと一部の曲のミックスも自分たちで手掛けたのはどうしてだったんですか?
秋山信樹(以下、秋山)「自分たちの好きなアーティストで『自分のスタジオで自分たちで録音もする』という人たちに憧れがあって。テーム・インパラやマック・デマルコ、ボン・イヴェールやビリー・アイリッシュのお兄さんのフィニアス。なので、ずっと憧れはありました。ただ、これまでは具体的な知識もないし、実際自分たちができるかどうかの判断もつかなかったので、プロデューサーやエンジニアの方々としっかりやらせてもらってきました。セカンドアルバムの『Songs of Innocence & Experience』を作り終えたあたりで、ロンドンから少し離れたところにあるNice Weather for Airstrikesというスタジオで一週間ぐらい制作を行う機会があり、そこでお世話になったPeteというスタジオオーナーの方に音録りについてかなり勉強させてもらいました。3枚アルバムを作る中でそれぞれのエンジニアの方々からたくさん学ばせていただき、ようやく今回、学んだことを生かして自分たちで録ったという流れがあります」
──サウンドとしては皆さんのルーツである90年代のUSオルタナのエッセンスを強く感じました。それとDIYな制作というのは繋がっているのでしょうか?
秋山「サウンド面でイニシアチブを取るというのは、インディー的な考え方そのものであると思います。ルーツのことでいうと、ギターロック全般はDYGLの中心にはずっとあると思うのですが、そこから派生していろんな音楽が好きで今があるという感じです。ただ、今回改めて歪んだギターってやっぱりかっこいいんだなと感じました」
下中洋介(以下、下中)「僕の偏見で話すと、80年代はすごく派手な時代でロックスターがいて、LAメタルみたいな派手な格好があって、90年代はそれらに対するアンチテーゼとして、ニルヴァーナ、ペイヴメント、ピクシーズ、ウィーザーとかがありのままの姿を見せようとしていた。SNSによってスターが失われた現代の空気に、そのスタイルがフィットしているところはあります。それに、歪んだギターを弾くのは一番気持ちいいので、こういう音にいきついているんだと思っています」
──加地さんと秋山さんが共作した「Euphoria」は特にグランジーですよね。
加地洋太朗(以下、加地)「僕は最後の方にちょっとフレーズを入れたり、アレンジを途中からやったぐらいだったんですが、確かにノイジーなサウンドが好きだったなあっていうのは最近思ったことでもありますね」
──具体的なリファレンスがある曲とない曲、どちらもあるという感じでしょうか?
秋山「どちらもありますね。ただ、『単純にこの曲みたいな曲が作りたい』ということだと二番煎じになってしまうので、自分の中で消化されたリファレンスがいくつか混ざっていることは意識しています。カバーをやったとしても自然にDYGLっぽくはなるので、心配しすぎることは無いと思いますが。『Euphoria』は曲を作り始めた時、歌い出しのムードからいきなり景色が変わるようなことがやりたいなと思って。中高生の時に観た『みんなロックで大人になった』という番組内で、ニルヴァーナがピクシーズからの引用の話をしながら、めちゃくちゃ激しい瞬間と静かな瞬間があるっていうコントラストを付けるアイディアをスタジオで試して、それが『スメルズ・ライク・ア・ティーンスピリット』に繋がったという話、そのアイディアは少し意識しました。緊張と緩和というか」
嘉本康平(以下、嘉本)「サードアルバムの『A DAZE IN A HAZE』はルーツを引用するようなアプローチだったんですが、今作はソニックユースなどを参考にしつつ、既存のアプローチに対してわざと反対側にいってみるようなことが多かったですね」
──一言で形容しづらい曲が多く、いろんな要素がミックスされた手触りがあります。バンドとしてそういった進化をしたいという気持ちがあったんでしょうか?
秋山「今まで以上にいろんな発見がある音楽を作りたいという意識は強くありました。実際は自分たちが聴いていた音楽も様々な音楽の影響が感じられるものが多くて。そういう嗜好が自分たちのアウトプットにも繋がるといいなとずっと思っていて、今回、それはかなり良い形で出せた気がしています」
今感じる、DYGLとは?
──今作を作って、改めてDYGLはどんなバンドなんだと思いましたか?
秋山「いろんな言い方ができると思うんですけど、今自分たちが聞いていて引用もしている音楽の中には全然ロックじゃないものもあります。でも最近改めてDYGLはロックバンドだなあと。これまではインディーロックだと思ってたんですけど、その言葉で限定しているサウンドより少し外に向かっているような感覚があって。シンプルに、自分達はバンドをやっている、というのが今のところ一番しっくりくるかもしれないです。『Thirst』はアルバムの中でもかなりバラエティーがある方で、今後自分たちの中にあるバリエーションをどう作品に落とし込んでいくかということは今一番考えていること。『いろんな曲があるので飽きない』という風に言っていただくこともあるんですが、DYGLというバンド名を聞いた時に、『こういう音のバンド』とすぐに挙げづらいということは諸刃の剣でもあります。今の良さを活かしたまま、『DYGLはこういうバンド』という精神性や音の表現を一発で分かってもらう説得力をこれからさらに見つけていきたいですね」
──その発展途上なところと、『Thirst』というタイトルは関わりがあるのでしょうか?
秋山「個人的な体験を踏まえ、自分の目から見た様々な人間模様、特に影の部分を考えて付けたタイトルなんですが、確かに今バンドの状況が良くなってきていることに対して、さらに良くなりたいと渇望する気持ち──音だけではなく、総合的なクリエイティブ面も含めてさらに成長したいという情熱と、次に進みたいモチベーションはここ1年すごく感じていたことなので、そういうハングリー精神も自然と落とし込まれたのかもしれません。最近では周りに服関係で面白い動きをしている人も多くて、その表現からすごくエネルギーをもらったりもしています」
加地「僕としては、音楽にせよ、映像にせよ、アートワークにせよ、これからもっといろんな人と組んでみたら面白そうだなと思っています。『Thirst』はいろんな曲がありながら、自分たちらしいアルバムになりました。より幅広く対応できるようになったと感じているので、さらに風通しを良くしていきたいです」
あのまま海外に住み続けていたら「バンドがどうなっていたかは正直わからない」
──コロナ前は海外アーティストとの交流も多かったですが、先日フランツ・フェルディナンドの来日公演のサポートアクトを務められたり、また交流が戻ってきていることについてはどんな思いがありますか?
秋山「11月にタイのバンコクのMaho Rasopというフェスに出演して、3年ぶりに海外のライブをやったんですが、すごく楽しくて。コロナ前は、海外で活動することについてバンドとしてどう考えるのかがまとまりきってていない状態もありましたが、やはり経験は早めにしたいと少し無理してでもアメリカに行ってレコーディングをしたりツアーをやったり。それはすごく大事な時間だったと思います。ただ、そのバンドのビジョンが定まらないまま、ただ海外に住み続けていたらバンドがどうなっていたかは正直わからないです。一回ツアーで日本に帰って、その後いったん落ち着いて考えようという時期にちょうどコロナ禍になった。結果的にそこで半年ぐらいゆっくり考える時間があったことで、『A DAZE IN A HAZE』を作れたと思います。あのアルバムが開いてくれた可能性によって、『Thirst』ができた。住み慣れた場所で、音楽のことだけを考えられたここ3年弱があったという面では、コロナ禍は自分達にとっては悪いことだけではありませんでした。コロナ前はアルバムを2枚しか出してなくて、今ではその2倍のディスコグラフィーになったと思うと感慨深いです」
──来年1月からは国内ツアー、3月からはUSツアーが始まります。
下中「日本ツアーはもちろん、次のアメリカこそ自分たちが思ったとおりのライブをしたいという気持ちがすごく強いです。外のライブは環境に左右される部分がかなり大きくて、僕らも10年やってきて経験もある程度積んできし、最近のライブに手応えを感じているので、『アメリカで良いライブをした』という実感が欲しいですね。ただ、お客さんとの相性は絶対にあるので、あまり無理せず頑張りたいという気持ちがあります」
嘉本「久々にアメリカに良くので楽しみたいです。やっぱりあんまり気負い過ぎると、違った反応をされたときにショックもあるので(笑)、楽しんだ方がいいかなっていう気持ちで行こうと思ってます」
秋山「早く行きたいですね。さっき言ったタイのフェスは、久しぶりの観光ももめちゃくちゃ楽しくて。普段触れない文化、匂いを感じると自然とワクワクします。空港に着くだけでもそわそわするぐらい楽しかった。感情の振れ幅みたいなものは日々あればあるほど気付くことも多いし、自分が作るものにも繋がる。慣れたところで慣れたことの繰り返しだと、その幅の中でしか人生も感情も動いていない感覚になってしまって僕にはあまり向いていないですね。個人的には旅人のようにあちこち移動しながら生きたいと思ってるので、音楽を通していろいろな土地に行くことができるのは恵まれているなと思います。とはいえしっかり日本で土台を確認し直せたこの3年弱も大きかった。その上でまた新しい土地に行けることが楽しみです」
4th ALBUM『Thirst』
発売日/2022/12/9
各種配信URL/https://dygl.lnk.to/ThirstID
1. Your Life
2. Under My Skin
3. I Wish I Could Feel
4. Road
5. Sandalwood
6. Loaded Gun
7. Salvation
8. Dazzling
9. Euphoria
10. The Philosophy of the Earth
11. Phosphorescent / Never Wait
ツアー情報
『DYGL JAPAN TOUR 2023』
東京 1/20(金)渋谷 Spotify O-EAST
京都 1/21(土) CLUB METRO
兵庫 1/22(日) VARIT.
香川 1/24(火)高松TOONICE
岡山 1/25(水) YEBISU YA PRO
広島 1/27(金) 広島セカンドクラッチ
熊本 1/28(土) NAVARO
福岡 1/29(日) BEAT STATION
宮城 2/3(金) Rensa
北海道 2/5(日) SPiCE
愛知 2/9(木)名古屋Electric Lady Land
大阪 2/10(金)梅田クラブクアトロ
『DYGL US TOUR in March』
3/15 Wed SXSW in Austin, TX
3/16 Thu SXSW in Austin, TX
3/17 Fri SXSW in Austin, TX
3/18 Sat SXSW in Austin, TX
3/21 Tue The Coast in Fort Collins
3/22 Wed The DLC in Salt Lake City, UT
3/24 Fri Treefort Music Fest 2023 in Boise, ID
3/25 Sat Vera in Seattle, WA
3/27 Mon Polaris Hall in Portland, OR
3/29 Wed Cafe Du Nord in San Francisco, CA
3/30 Thu Wayfarer in Costa Mesa, CA
3/31 Fri Lodge Room in Los Angeles, CA
そのほかの詳細はDYGLオフィシャルサイトをご確認ください。
Photos:Anna Miyoshi Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Anna Abematsu