伊藤万理華「自分の好きなものってなんだっけ?と、振り返る1冊になってほしい」 | Numero TOKYO
Interview / Post

伊藤万理華 書籍『LIKEA』発売記念インタビュー「自分の好きなものってなんだっけ?と、振り返る1冊になってほしい」

伊藤万理華の書籍『LIKEA』が12/20(火)より発売。さらに明日12/2(金)から『LIKEA』から着想を得て発展させた展覧会『MARIKA ITO LIKE A EXHIBITION LIKEA』が渋谷PARCO「GALLERY X BY PARCO」で開催され、書籍も会場先行発売される。本書はスタイリストTEPPEIをはじめ、フォトグラファーの田中雅也、ヘアスタイリストの森岡祐介、メイクアップ アーティストの田口麻美とともに作り上げた150枚以上のファッションシューティングから、劇作家・演出家の根本宗子による書き下ろし新作シナリオと直筆メモ入り台本、新人漫画家のCO¥OTEによる漫画ページなど、伊藤万理華と10組のクリエイターが“今の自分”を創作した一冊となっている。

そこで今回、特別に書籍『LIKEA』発売記念のインタビューが実現。構想アイデアから撮影中のエピソード、制作への思いなどを赤裸々に語ってくれた。インタビュー中に「これが好き!と突っ走る時も落ち込む時も含めて自分。その時の出来事を絶対忘れたくないと思って作りました」と語っていた彼女がとても印象的だった。制作時に芽生えた感情や出会った人々など書籍『LIKEA』のすべてから、伊藤万理華の“今”を感じ取ってほしい。

これ以上の感動を味わえないとやり切ったファッション撮影

──今回発売される書籍『LIKEA』のテーマは“今の自分”ですが、その理由について教えてください。アイデアはいつ頃から浮かんだのでしょうか。

本格的に動き出したのは1年前です。私の中で1.2年前に出会った人たちの影響がとても大きくて、その人たちと何かやりたいと思って考え始め、具体的にセッションしたいクリエイターの方々の名前も挙げて、パルコさんに企画書を提出しました。実際にファッション撮影を行ったのは今年の4月。その翌月に乃木坂46の10周年ライブに出演させていただいて。まさか自分がまた当時の衣装を着て踊る日がくるとは思っていませんでした。自身のデビュー10周年でもあり、色々な出来事が重なった年でこれまでを振り返る機会が多かったので、今年中に出せたら良いなと思っていました。

──では4月のファッション撮影も打ち合わせから参加されたのですか。

私から提案したので最初の打ち合わせからずっといました。スタイリストTEPPEIさんをはじめクリエイターの方にお願いするのに「ただ憧れる人とご一緒したい」だけでは済まないし、せっかくなら新しく意味のあるものを作りたいと考えていて、その思いをまずTEPPEIさんにお話ししました。

──具体的にどんなことを伝えましたか。

即興で行うファッションドキュメンタリーを作りたいとお話ししました。その理由はものづくりするにあたって、作っていく過程に救われてきたから。誰かと会話をして、会議している段階だったり、そういう過程で自分は救われているっていうのを伝えたくて。その結果、丸2日間に渡って撮影を行い即興でコーディネートを組んでもらう、本当に終わりが見えなくて何が起きるかわからないものを企画していました(笑)。

──ページ内に撮影中の会話が入っていて現場の状況がリアルに感じられました。

純粋にクリエイターさんたちの頭の中を知りたくて、撮影中の会話をずっと録音させていただきました。そこで生まれた会話があるからこそ、コーディネートや写真が出来上がっていくと思ったし、その過程を読者の皆さんにも知ってほしくて。撮影場所も衣装や機材を全部見える状態にしていただいて、ヘアメイクや撮影風景の写真も入れてもらいました。裏方の方はあまり映りたがらないというか、そこもプロとして徹していることは分かっているのですが、この本だけはお願いしますと思いを伝えました。プロとしての皆さんを近くで見れてその目線を自分が切り取ったシーンなど、自分の目線的には表も裏もどっちも大事にしたいなと考えていました。

──中でも印象に残っているカットを教えてください。

ページ終盤の外で撮影したカットと最後のセルフカットです。2日目の撮影は夜中の3時まで続いて最後にやっと外に出て撮影しました。夜中の3時なのでみんなテンションが分からなくなっているのもあったのか、私含めスタッフの方もどこか納得していなくて。その時にTEPPEIさんが「もう一回最初にやったセルフカットをやった方がいい」と言ってくれて。限界突破してラストのカットを撮影しました。撮影が終わった時に緊張の糸が切れて、もうこんな感動できることは味わえないと思いました。撮り終えた後はこれで最後でいいって泣きました。最後の1カットにはこの時のすべてが詰まっていると思います。

──それはすごい撮影ですね。伊藤さんだけでなくクリエイター皆さんの思いも伝わってきます。

撮影が終わった時にクリエイターの方々が「こんな大変な撮影はないよ」って言ってくださって、なんか良かったなと思えました。別にこれ以上大変なことを企画しようという意味ではなく、その人達にとって何かが刻まれたのかなって。何も印象に残らない撮影だったらやる意味がないと思ったので、嬉しかったです。

転機を与えてくれた劇作家・演出家 根本宗子の存在

──劇作家・演出家 根本宗子さんの脚本もとても面白かったです。この作品を書き下ろしてもらうために2人で大阪旅行に行かれたそうですね。

最初に考えていた構想から変更をきっかけに、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンへ行きました。2人で旅をするのは初めてだったのですがすごく楽しかったです! 根本さんには私がどんな風に見えているんだろうと気になっていました。

──実際の作品を読まれていかがでしたか。

全て見透かされているなと思いました(笑)。決してそのままじゃないし根本さんがみた私の出し方や当て方だと思うのですが、自分がいつも言語化できないところを文章で忠実に書いていただきました。演劇でも毎回そういう役を当てていただいて。どうしてここまで自分と作品を一緒にやってくださるのかと前々から思っていたのですが、その理由も書いてくれていて。とても贅沢ですよね。根本さんが参加してくださったからこそ、より深いものになったなと思いました。

これが好き!と突っ走る時も、ダメだと落ち込む時も含めて自分。その波がなければつまらない。

──今回もたくさんのクリエイターの方と共作されて作り上げていますね。伊藤さんは「人と一緒に作る」ということを大切にされているように思います。

常に絶対1人では何も作り上げられないと思っています。言葉のコミュニケーションが取れなくても、誰かと一緒に何か作るとなれば会話以上のものが生まれるんだという感動をグループ時代に経験できて、それからはこんな思いができるのであればもっとたくさんの人と関わりたい、いろんな可能性があるかもしれない、今でもこの思いは大切にしています。

──撮影が終わったあと、夏に体調を崩して引きこもったことも赤裸々に書かれていたのがとても印象的でした。1人でいるのも苦ではない?

1人でいるのも好きですね。3日間は引きこもれます(笑)。この極端さを改善していきたいんですが……。

──引きこもった時に落ち込むことはないですか。

落ちますよ。熱が出てしまい、勢いづいていたものが止まってしまいどうしようって考えることもありました。冷静になればなるほどこれで良いのか?と。そういう時って世間を気にしてしまうじゃないですか。気にしなかった自分と真反対になって。すごく辛い時間もあってその極端さがあるからこそ改めてこの企画と向き合うことができたと今では思っています。

──そこからまた気持ちがどう上向きにやっていくのでしょうか。

やっぱり人に会うことが一つのきっかけになっていると思います。今回の制作を通して自分の機嫌の取り方が分かってきたかもしれないです。私、今落ちてるかもと客観的に見れるようになりました。「落ちている時は落ちてる時で良いよ。だから大丈夫、焦らなくて」って。そういう自分を許すようになったら前よりも楽になりました。外に出て誰かと何気ない会話をすると全然違う情報が入ってきて、それに触れるとまた少しずつ気持ちも上がっていきます。

──人に会うようになった段階でちょっとずつまた動き出し始めているのかもしれないですね。

そうなんです。「こんな引きこもりが外に出てえらい」って自分を褒めてあげます(笑)。その感情もこの本に赤裸々に書かれています。こういう感情の波って必要だなと。波がなければそれはそれで私はつまらないと言い出すと思います。好き!って思うことも落ち込む出来事も絶対忘れたくないと思って作りました。

──これから手に取る読者の方へ。一番どんなことを伝えたいですか。

一見、ファッションの本かなと思うかもしれませんが、そんなつもりで作ったのではなくて。私が辛い時期に体調不良になりながら「私って一番何が好きだったんだっけ」と考えることがありました。振り返る時間って、誰かと会話するのと同じくらい大事だなと思っていて。本書のページ末にも「古い記憶の中で一番好きだったものはなんですか?」と私を含めクリエイターの方にも答えていただいたんです。好きなものって今現在はそんな好きではなくても、なんか覚えていますよね。それが自分を形成しているものでもあると思うので、この本が皆さんの大事なものを振り返るきっかけになってほしいと願っています。


『LIKEA(ライカ)』(PARCO出版)¥3,300(税込)
発売日/2022年12月20日 ※12/2に渋谷PARCOにて会場先行発売
https://publishing.parco.jp

Photos:Kisimari Styling:Hiromi Nakamoto Hair & Make up:Kana Setoyama  Interview & Text:Saki Shibata

Profile

伊藤万理華Marika Ito 1996年2月20日生まれ、大阪府出身。 2011年から乃木坂46一期生メンバーとして活動し、17年に同グループを卒業。現在は俳優としてドラマ、映画、舞台に出演する一方、PARCO展「伊藤万理華の脳内博覧会」(17)、「HOMESICK」(20)を開催するなど、クリエイターとしての才能を発揮。映画『映画 賭ケグルイ』(19/英勉監督)やTVドラマ「潤一」(19/KTV)、舞台『月刊「根本宗子」第17号「今、出来る、精一杯。」』、『月刊「根本宗子」第18号「もっと大いなる愛へ」』。21年は舞台「DOORS」(倉持裕演出)、地上波連続ドラマ初主演を務めた「お耳に合いましたら。」(TX)、初主演映画『サマーフィルムにのって』(21/松本壮史監督)では国内映画賞のトップバッターTAMA 映画賞にて最優秀新進女優賞を受賞、第31回日本映画批評家大賞にて新人女優賞を受賞するなど、多岐に渡って活動中。書籍『LIKEA』は12月20日に発売予定。 Instagram:@marikaito_official

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