緒川たまきインタビュー「苦手意識のあった演劇に、今ではのめり込んでいます」 | Numero TOKYO
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緒川たまきインタビュー「苦手意識のあった演劇に、今ではのめり込んでいます」

ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)による新作舞台KERA・MAP#010『しびれ雲』が東京・下北沢 本多劇場を皮切りにスタートする。今作は架空の島“梟島(ふくろうじま)”に生きる人々が描かれる群像劇。KERA作品とは切っても切れない存在であり、今回も重要な役を演じる緒川たまきに聞いた。

演劇に目覚めるきっかけとなった初舞台

──緒川さんは女優業の傍ら、90年代にはNHKのトーク番組『土曜ソリトンSIDE-B』で司会をしたり、アートや写真、歴史などもお好きなサブカル女子、サブカル界きってのミューズのイメージでした。最近は舞台での活躍が際立っていらっしゃいます。そもそも舞台に夢中になったきっかけは?

「『土曜ソリトンSIDE-B』に出演していた1995年は、まだ舞台を経験したことがなくて。当時はお芝居を見ても、舞台に立つ俳優さんは大変そう……と、そんな目で見てしまって、作品自体を楽しむことができませんでした。自分には舞台の仕事は無理だとマネージャーに話していたくらいで。ところが、縁あって出演することになった初舞台『広島に原爆を落とす日』で劇団☆新感線のいのうえひでのりさんの演出を受けて、印象が一変したんです。

まず、本読みを丁寧にやり、頭から少しずつシーンを作っていく、その稽古の丁寧さに喜びを感じました。映像のお仕事だとスケジュールの都合で、順撮りはとても贅沢なことでなかなか叶いません。しかも部分的なリハーサルはあっても、頭から終わりまでリハーサルをやることは滅多にないので、お稽古自体が新鮮でした。その上、家で台本を読んでいたときに想像していたものとはまったく違い、演出家の指示により、稽古場でゼロから作品が立ち上がる。私も自分で準備していたものを捨てて、生まれ変わっていく。そのさまがすごく楽しかったんですね。ほかのキャストの方がやっているのを見ているだけでも、面白くて! お芝居を作る稽古のありようすべてに夢中になりました。

もちろん初舞台でしたから、できないことだらけでプレッシャーもありました。私の役はヒロインの夏枝で、「広島に原爆を落とす」という大変重い台詞を発します。若い女性の役ながら威厳が必要ですし、片や恋人と接するときには少女のようになる。そのあたりをできない私に、いのうえさんが声色の変化から立ち姿までご自分で演じて見せてくださったんです。それがすごく魅力的で、こんなに面白い役なんだ!と実感して。おかげで恐れや自分のマイナス面を忘れてのめり込み、安心感の中で初舞台を踏むことができました。同時に、生の芝居を見る面白さに目覚め、観客としての感受性も磨くことができた。演劇との幸せな出会いになりました」

KERAと立ち上げた「ケムリ研究室」

──初舞台で演劇の魅力にとり憑かれたのですね。20年には、夫であり劇作家のKERAさんとともに企画・プロデュースを手がけるユニット「ケムリ研究室」を立ち上げました。昨年夏には安部公房原作の『砂の女』を上演。『砂の女』は岸田今日子さん主演の映画が有名で、舞台化の話を聞いた時は、あの砂の世界観を舞台上でどう描くのか、すごい挑戦だなと、その心意気に感動しました。実際、作品も素晴らしかったですね。

「“心意気”とおっしゃっていただいて、ものすごくうれしいです。というのも、さかのぼれば10年前くらいから、「(舞台で)『砂の女』をやってみたいね」とKERAさんと互いに何度か口にしたことがあったんです。その度に、いや、あれは難しい、想像力を借りるにしても砂の存在があってこその世界だと。しかも映画の岸田今日子さんと岡田英次さんの印象が強烈で、カメラでズームアップしてこそ映し出せる世界ではないか、などさまざまな理由をつけて何度も諦めてきたんです。でもケムリ研究室を立ち上げるにあたって、それまで却下してきた『砂の女』をもう一度候補に上げたのは、私たちの心意気という言葉がぴったり。

ケムリ研究室を立ち上げたのは、KERAさんが今まで尻込みをしていたものがあるとすれば挑戦してほしかったし、私は背中を押す役目を負いたい、自分自身も冒険したいと思ったから。冒険をする中でさまざまな人の力を借りながら形にする面白さをみんなで分かち合いたいとも思いました。ですからケムリ研究室に参加してくださるキャスト、スタッフの皆さまには、どんなことをやりたいですか? 今までやりたいけど諦めてきたことはありますか? と問いかけ、みんなのアイデアを並べて、今回はこれをやってみましょうか? 失敗したら引っ込めましょう(笑)、みたいな形にしたかったんです。ケムリ研究室は失敗を恐れないことを大事にしているので、『砂の女』も心意気で机の上に載せましたよ、みんなで一緒に何とかしましょう! って。

実は、数日前にもKERAさんと『砂の女』の話になったんです。この「女」の役は、私にぴったりというわけじゃないと思っていて。原作を読むと遠い隔たりを感じますし、ましてや映画の岸田今日子さんの素晴らしさとは別のもの。でも、みんなで持ち寄って作ったものに宿る、ケムリ研究室ならではの面白さが生まれたのも確か。怖がらずにやってよかったね!と話しました」

作品が生き生きと立ち上がっていく稽古

──現在はKERA・MAP『しびれ雲』のお稽古真っ只中だそうですが、手応えはいかがですか。

「まだ台本が半分程度上がった段階ですが、とても楽しいです。本読みの時間は、何もない平面に立体の小さな卵が立ち上がっていく感じ。誰かが読んで、演出のKERAさんの指摘が入り、再度読み直す。それだけでも、呼吸やリズムが少しずつ勢いづき、作品が生き生きと立ち上がってくるのがわかってワクワクします。KERAさんは稽古を進めながら少しずつ台本を上げていくスタイル。初めて参加する方は不安に思われたりもするかもしれませんが、不安な反面、楽しさも大きいと思います。台本がだんだん上がってきて、稽古とともに少しずつ作品に肉がついていく感覚。これには独特の楽しさや魅力があります」

──緒川さんが演じる石持波子はどんな人物ですか。緒川さんが演じるのなら、ミステリアスな女性?

「いえいえ。この『しびれ雲』の登場人物は基本的には誰もミステリアスではありません。唯一、井上芳雄さんが演じる記憶を失くした男。彼の存在はミステリアスな要素はありますが、誰かを煙に巻くような人ではないし。みんな生活感のある……と言ってもいま私たちが生きている令和の日本とは違い、昭和10年頃の梟島という田舎の島が舞台。梟島での日常を生きる人々を見ていただく作品で、波子さんにも一切謎めいたところはありません(笑)。方言もありますし、ご覧になる方にはもしかしたら呑気なお伽噺として映るかもしれませんね」

──この作品に対するKERAさんのコメントに「お豆腐のような作品を作りたい」とあって、どういう意味なのかな?と。

「普段、KERAさんの作・演出作といえば、驚きや裏切り、ある種の毒の強さが特徴と捉えている方が多いかと思います。もちろんKERAさんもそれを自認していて、だからこそ、今回は毒物を入れず、生(き)の味を楽しむ料理に徹しますという宣言かと。

今回稽古場でKERAさんが何度も口にしているのは、小津安二郎監督の映画や岸田國士戯曲の世界観、そこにある戦前の日本の空気感や他愛のない会話のこと。その風景を見る楽しみがあると思うんです。毒気を会話に差し込まなくても、何でもない日常会話がおかしかったり。あるいは誰かが特別面白いのではなく、みんながくだらないことで右往左往しているさまを客席側から見ることで、人間って面白いものね、と感じるとか。これまで毒気のあるものを好んで作劇してきたKERAさんが手がける、その組み合わせの妙。そこで生まれるものにご期待ください」

──冒頭、七回忌が始まる時間が参加者にちゃんと伝わっていない、というシーンがありますね。私たちにも起こりそうな、さりげないひとコマのような。

「そうなんです。自分の身の回りでもこんなことあったなぁと、ご自身との間に壁のない世界を味わっていただけるのではないでしょうか。昔の田舎の人たちの日常をのぞいて、そこで何だかクスクスッとくすぐられて。観劇後には自分だけ現代に取り残されて、あの楽しかった人たちは遠い時代の島に帰っていってしまう。ああ、あの人たちにはもう会えないんだ……って、別れを惜しんでいただけたら。そこまでたどり着けるように頑張ります」

KERA・MAP #010『しびれ雲』

作・演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演/井上芳雄、緒川たまき、ともさかりえ、松尾 諭、安澤千草、菅原永二、清水葉月、富田望生、尾方宣久、森 準人、石住昭彦、三宅弘城、三上市朗、萩原聖人
https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/shibiregumo
※11/6(日)〜11(金)の公演は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により中止となりました。詳細は上記公式サイトでご確認ください。

日程・会場/
2022/11/12(土)~12/4(日) 東京・下北沢 本多劇場
2022/12/8(木)~12/11(日) 兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2022/12/17(土)~12/18(日) 福岡・北九州芸術劇場 中劇場
2022/12/24(土)~12/25(日) 新潟・りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場

Photos:Takao Iwasawa Interview & Text:Maki Miura Edit:Sayaka Ito

Profile

緒川たまきTamaki Ogawa 映画『PU プ』でデビュー。TV、映画、舞台で活躍。1997年、いのうえひでのり演出舞台『広島に原爆を落とす日』でゴールデンアロー賞・演劇新人賞受賞。以降、岩松了演出『三人姉妹』『ワニを素手でつかまえる方法』、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出『グッドバイ』『キネマと恋人』『修道女たち』『ベイジルタウンの女神』『砂の女』『世界は笑う』ほか、多くの話題作に出演。2022年『砂の女』で紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞最優秀女優賞受賞。

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