稲垣吾郎インタビュー「曖昧な感情が人間の面白さ。面倒くさいのが恋愛の面白さ」 | Numero TOKYO
People / Interview

稲垣吾郎インタビュー「曖昧な感情が人間の面白さ。面倒くさいのが恋愛の面白さ」

『愛がなんだ』『街の上で』などで今、注目の映画監督、今泉力哉監督の17作目となる『窓辺にて』が公開される。これは妻の浮気を知りながら、普段通りの暮らしを続けるフリーライター・市川茂巳を中心にした恋愛物語だ。今泉監督作のファンであり、今回、主人公を演じた稲垣吾郎に、今泉作品の魅力や恋愛観について聞いた。

「白でも黒でもない、曖昧な感情が人間の面白さ」

──今泉作品のファンだったそうですが、実際の現場や監督の印象は?

「仕事柄、映画を観ながら、この作品はどんなふうに作られたんだろうと想像するのが好きなんですが、この現場は今泉作品のイメージそのままでした。みなさん穏やかで、声を荒げる人もなく、粛々と仕事をしていて。監督もいつも現場の中心にいるわけじゃなくただ、猫みたいに現場のすみっこに座っていて『あ、ここにいた』という。不思議な人でした」

──主人公の茂巳については、どんな印象をもちましたか。

「今泉さんの書くセリフのトーンもそうですが、主人公の茂巳が話す言葉は、本当に僕が言いそうなことなんです。例えば『理解なんかされないほうがいいよ。期待に応えないといけないから』もそうですが、このキャラクターに共感するところがたくさんありました。まるで、監督に僕のことを見透かされているみたいで、ちょっと怖かった(笑)。僕も茂巳のように飄々としたところがあって、あまり強く感情に引き摺られたりしないんです。今泉さんの作品が好きなのも、感性に似たものがあるからかもしれません」

──茂巳は、妻の紗江が浮気していることを知りながら、悲しんだり取り乱したりしませんでした。そういった部分は理解できますか。

「この物語は、自分の妻が不倫していてもショックを受けない主人公というのが、ひとつのポイントになっているんですが、考えてみれば、浮気されたら動揺して取り乱すべきという決まりはありませんよね。どう感じるかは人それぞれであって、茂巳のように冷静に考える人がいてもいい。そこも僕が茂巳に共感するところなんですが、冷めてるのか、感情がないのかと言われそうですが、どうなんでしょう(笑)」

──茂巳は今までにない、ユニークな人物像ですよね。

「これは監督の実体験だそうです。でも、きっと共感する人はいるんじゃないかな。僕もその一人です。悲しいときに涙を流さないなんて冷たいとか、好きな人に裏切られてもショックを受けないと愛がないんじゃないかとか、感情を表に出さないからといって、他の人から判断されるのは、違うんじゃないかと思います。それに、白とも黒ともつかない、曖昧な感情の動きが人間の面白さだと思うし、本当に大きなショックを受けたときは何も反応できずに、冷静に見えてしまうなんてこともありますよね」

──今泉監督とは、撮影前に茂巳の人物像についてお話ししましたか。

「今回は茂巳に共感する気持ちを大事に、自分の感覚に従って演じようと思って、あえて監督には細かく質問しませんでした。この曖昧な感情を言葉で埋めてしまうのはつまらない気がして」

──この作品では、恋愛という関係以外でも、高校生作家である留亜や、サッカー選手の有坂など、さまざまな年齢、立場の人との交流が描かれていました。

「特に玉城ティナさんが演じる、留亜と茂巳は、自然と通じ合っている感覚がありました。一緒にいる時間の長さや共通点の有無に関係なく、波長が合う人とは一瞬で分かり合えることがあります」

──そういう二人の空気感は、どのように作って行ったのでしょうか。

「これも玉城さんと相談はしていないんです。彼女も芝居のライブ感を楽しんでいるように見えたので、その場で起きることを大切にして。ディスカッションを重ねて作り上げる舞台とは真逆のやり方ですが、台本の中にとてもいい会話が描かれているので、演じてるだけでもすごく楽しい時間でした」

──玉城ティナさんとは初共演だそうですね。

「玉城さん以外も、ほとんどの俳優さんと初共演でした。世代も色々で、僕より若い俳優さんがほとんどでそれも新鮮でした。僕は主演のときも現場を引っ張っていくタイプではないし、自分から積極的に話かける方じゃないんですが、玉城さんもそんな感じに見えたので、今泉組の温度感を大切にしつつ、心地よく過ごしていました。玉城さんはちょっと達観したところがありますよね。ミステリアスなんだけど、小悪魔的というより、仙人っぽくもあり猫っぽくもあり。志田未来さん、中村ゆりさんとも、あまり話はしてないけど、とても素晴らしい女優さんです」

──お話を聞いていると「不倫」という言葉がもつイメージと違って、現場の雰囲気も作品自体も穏やかですよね。

「そう。この映画を『男女の感情のもつれが〜』と説明すると、すごくドロドロしたメロドラマのように聞こえるけれど、そうじゃない。この作品は、映画だからこそ表現できるものだと思います。文学とも違う、映像だからこそ映し出される人間の感情というか。だから今回、本当に自分が好きな映画に参加することができて、本当に嬉しいんです」

「恋愛は、掴めそうで掴めない、不安定だからこそ楽しいもの」

──今回、恋愛をテーマにした作品ということで、恋愛観についてもお伺いします。さまざまな形の「恋愛」がありますが、稲垣さんが感じる「恋愛」の魅力とは?

「恋愛という言葉を聞くと、キュンとしますね。もちろん、楽しいことだけじゃなくて、辛いことも悲しいこともあるけれど。先日、マッチングアプリについての小説を読んでいたんです。今はAIが出会いだけじゃなくて、デートプランまで考えてくれるらしくて。すごい時代になりましたね。恋愛に至るまでの過程を含めて『恋愛』の幅が広がりつつあるけれど、昔ながらの、遠回りしたり困難を乗り越える面倒くさい恋愛も、それはそれで面白いものです。恋愛の形も独身の対異性の恋愛だけじゃなくて、同性同士であったり、結婚してもずっとパートナーに恋していたり、アイドルや有名人が好き、映画に恋してるとか、色んなものがありますけど、それも含めて、僕はいつも恋をしていたいと思います」

──稲垣さんにとって、「恋」と「愛」の違いとは?

「愛は揺るがない、確証があるもの。恋は不安定ですぐに揺らいでしまう、掴めるようで掴めないからこそ楽しいもの。うまく言語化できないですけど、そんなイメージがあります」

──もし、小説や音楽など、「恋愛」をテーマに何か作品を作ってくださいと言われたら?

「やっぱり恋愛映画かなぁ。若い時は『ロミオとジュリエット』や『タイタニック』『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』みたいな、悲劇的だったり、非現実的なくらい壮大な恋愛物語が好きでした。でも、年齢を重ねて大人になるにつれて、繊細な感情の動き描かれている作品が好きになってきたんです。だから、今回の『窓辺にて』みたいな映画はすごくいいですよね。白でも黒でもない、曖昧で複雑な感情が散りばめられているので、見る人によって違う感想になるかもしれないし、全ての人が面白がるような物語じゃないかもしれない。でも、好きになってくれた人には、忘れられない作品になると思います。いつか僕もこういう恋愛映画を作ってみたいと思います」

『窓辺にて』

フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)は、編集者の妻・紗衣(中村ゆり)とふたりで暮らしていた。彼女は売れっ子小説家の荒川円(佐々木詩音)と不倫していることを知っていながら言い出せずにいたが、ある日、文学賞の授賞式で、高校生作家・久保留亜(玉城ティナ)と出会う。受賞作「ラ・フランス」の内容に興味を持った茂巳は、留亜にこの作品のモデルに会わせてほしいと頼むが……。

監督・脚本/今泉力哉
出演/稲垣吾郎、中村ゆり、玉城ティナ、若葉竜也、志田未来、倉悠貴、穂志もえか、佐々木詩音/斉藤陽一郎、松金よね子
音楽/池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ)
主題歌/スカート「窓辺にて」(ポニーキャニオン/IRORI Records)
配給/東京テアトル
©︎2022「窓辺にて」製作委員会

Photos:Erina Fujiwara Styling:Akino Kurosawa Hair&Make up:Junko Kaneda Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Saki Shibata

Profile

稲垣吾郎Goro Inagaki 1973年12月8日、東京都出身。1991年CDデビュー。2017年「新しい地図」をスタート。2010年、映画『十三人の刺客』で第23回日刊スポーツ映画対象・助演男優賞、第65回毎日映画コンクール男優助演賞受賞。2019年、主演映画『半世界』世界にて、第31回東京国際映画祭観客賞、第34回高崎映画祭で最優秀主演男優賞を受賞。近年では『海辺の映画館ーキネマの玉手箱』『ばるぼら』、ドラマでは『きれいのくに』(NHK総合)「風よ あらしよ」(NHK BS4K・BSプレミアム)、舞台『君の輝く夜に〜FREE TIME, SHOW TIME〜』『No.9ー不滅の旋律』『サンソンールイ16世の首を刎ねた男ー』『恋のすべて』などに出演。レギュラー番組は『7.2新しい別の窓』(ABEMA TV)『ワルイコあつまれ』(NHK)など。

Magazine

JANUARY / FEBRUARY 2023 N°163

2022.11.28 発売

Future is SF

モード SF 宇宙

オンライン書店で購入する