『スペンサー ダイアナの決意』のパブロ・ラライン監督にインタビュー| Numero TOKYO
People / Interview

『スペンサー ダイアナの決意』のパブロ・ラライン監督にインタビュー「ダイアナがシャネルを着るときには意味があるはず」

Photo:Pablo Larrain
Photo:Pablo Larrain

今年はなんとダイアナ元皇太子妃が亡くなって25周年にあたる。いまだに世界的なアイコンとして多くの人たちに愛され、その死が悲しまれる彼女については、ドキュメンタリーも含め数多くの作品で描かれてきた。そんな中で今作『スペンサー ダイアナの決意』は、1991年のクリスマス休暇、ダイアナが離婚を決意した数日のみを描いた大胆な作品となった。当時の状況や情報を詰め込むのではなくて、ダイアナのその時の感情に焦点を当てた今作で、クリステン・スチュワートがキャリア最高と言われる見事な演技を見せ、アカデミー賞にもノミネートされている。チリ人の監督、パブロ・ララインは、ナタリー・ポートマンがジャクリーン・ケネディを演じた『ジャッキー ファーストレディ最後の使命』も監督している。20世期を代表すると言ってよい”世界で最も愛されたファッション・アイコン”2人の激動の瞬間を捉えた監督に話を聞いた。

ダイアナはなぜ世界中の人々を魅了したのか

Photo:Pablo Larrain
Photo:Pablo Larrain

──ダイアナについての物語を作りたいと思ったきっかは何だったのですか?

「ダイアナは世界的なアイコンでありながら、長年にわたり世界中の人たちから愛され、共感を得た。そこに惹かれたんだよね。イギリス王室一家にはいかにもイギリス的な神話があると思うけど、ダイアナは非常に世界的な人物だと思ったんだ。イギリス王室に人が関心を持つ理由と、ダイアナに惹かれる理由は違うような気がしたんだよね。

世界中の人たちが彼女がどんな人物だったのかと言う見解を持っていたと思うし、彼女には僕らにも共感できる部分がある。僕の母がとりわけ彼女に関心を持っていたし、僕はそんな母を見ながら育ったから、なぜ彼女が世界中の人たちをそれほどまでに魅了したのかが知りたくなった。それでこの映画を作るにあたり、徹底的にリサーチして、ドキュメンタリーも映画も全て見たけど、いまだに彼女が一体誰だったのか?に確信が持てない。つまり彼女はすごくミステリアスな人物だったと思う。それが映画を作る上で面白いと思えたところで、この作品では、彼女の人生の3日間で一体何が起きたのか、について僕なりに考えて描いてみたというわけなんだ」

──彼女についての作品はこれまでにもたくさん作られてきましたし、また最近では『ザ・クラウン』などネットフリックスの人気シリーズもあります。すでにある数々の作品と今作が大きく違うところに、この映画を作った意味があると思いました。あなたとしてはどう思いますか?

「もちろん、『ザ・クラウン』に登場した彼女も見たし、良い番組だと思ったけど、この映画のように、彼女の感情に深く焦点を当てて、彼女の視点から描いた作品ってこれまでなかったと思う。しかも数日だけを描いた作品はね」

Photo:Frederic Batier
Photo:Frederic Batier

──クリステン・スチュワートがあまりに見事に演じていますが、彼女はアメリカ人でもありますし、意外な人選とも言えると思います。彼女の演技についてはどのように思いましたか?

「僕らはダイアナについて何もかも知っているように思っているけど、でも彼女が実際どんな人だったのかはすごくミステリアス。クリステンとは長年仕事をしたかったんだけど、とりわけオリヴィエ・アサヤス監督の『パーソナル・ショッパー』を観て感銘を受けて、クリステンならダイアナのミステリアスな部分を表現できると思った。彼女はアメリカ人だったから役作りが少し複雑だったけど、絶対できると思ったし、そもそも監督である僕は、チリ人なわけだしね(笑)。それにロックダウンの最中に撮影の準備を開始したから、話し合いをする時間も十分あった。クリステンは、ダイアナのどこかミステリアスなところ、それでいて人を惹きつける魅力があるところ、そして彼女が抱えていた内面的な世界を非常に美しく表現してくれた。これまで観たことのない角度からダイアナを表現してくれたと思う。彼女とコラボレーションできて心から感謝しているんだ」

クリステンとダイアナをつないだ衣装の重要性

Photo:Pablo Larrain
Photo:Pablo Larrain

Photo:Pablo Larrain
Photo:Pablo Larrain

──クリステンが、役作りにあたり「自分はダイアナと似ていないので、衣装が自分とダイアナをつないでくれる橋のような役割を果たした」と言っていたのと「映画の中でシャネルを着るときは、ダイアナが自分に力が必要だと思ったとき」と言っていたのが印象的でした。ダイアナはファッション・アイコンでもありましたが、衣装を映画で再現するのはいかがでしたか?

「実は、衣装はこの映画の最も好きな部分でもあったんだ。何より衣装を担当してくれたジャクリーン・デュランが謎めいている人だったからね。彼女が1988〜92年のダイアナの写真を何枚も用意してくれて、その中からこの映画の時代に相応しくて、ムードに合うものを選んだんだ。さらにクリステンに似合いそうなものをね。だけど実はこの映画の中で、ダイアナが着ていた服をそのまま再現したものはないんだ。でも見た瞬間に誰もがダイアナらしいと思うと思う。それは、彼女のスタイルとムードを取り入れようとしたからだ。

例えば、最初のシーンでツイードのジャケットとシャネルのサングラスをしているけど、彼女があの全く同じ服やシャネルのサングラスを持っていたわけではない。でも彼女のスタイルや要素を象徴しているし、彼女がシャネルを着るときに何かしらの心理的な意味があるようにも思ったんだよね。実際シャネルが衣装を提供してくしてくれて、ものすごく助けられた。アーカイブからも貸してくれたし(※本国ポスターに使われた白いドレスはアーカイブ、赤いコートはクリステンのために作ってくれた)、4〜5点は使われている。ロンドンとベルリンで行ったフィッティングも最高だった。

ダイアナはファッション・アイコンでもあったし、彼女はそのイメージを自分で作りあげた。しかも当時の習慣をいくつも破っていたと思う。彼女はファッションに関して遊び心もあったし、しかも危険も冒していた。だから僕らもそれを表現しようとした。僕がとりわけ気に入っているのは彼女が走るシーン。そこでウェディング・ドレスも見られるし、黄色のドレスも見られる。でも、それもそのまま再現されているわけじゃない。でもあのシーンで彼女の若い頃からのイノセントな感じからどのように変遷していったのか、ファッションで一気に見られる。それから、彼女が踊っているモンタージュがあるけど、あそこではシーンで使いきれなかったドレスも使われているんだ」

Photo:Pablo Larrain
Photo:Pablo Larrain

Photo:Pablo Larrain
Photo:Pablo Larrain

──音楽はレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドが担当していて彼女の内面を雄弁に表現していますね。

「僕は彼の長年のファンで、もちろんレディオヘッドもね。それから彼がポール・トーマス・アンダーソンの映画で作ったサントラも素晴らしかった。ジョニーは、撮影が始まる前からまとまった曲を送ってくれていたから、映画のペースやリズムを見つけるのにすごく役立った。彼が面白かったのは、バロック音楽とジャズという、普通ではない面白い組み合わせでサントラを作ってくれたこと。だけどここでそれがうまくいったのは、バロック音楽は王室を象徴していて、ジャズは彼女の内面の危機と自由を表現していたから。ジャズは非常に自由な形態の音楽だからね。編集をしながら、映像と音楽を合わせていったんだけど、音楽のおかげで映画が非常に良い意味で、別の次元のものになったんだ。それがすごく美しいと思った」

“子どもたちを大事に思う母親の物語になった”

Photo:Pablo Larrain
Photo:Pablo Larrain

──あなたは、『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』では、ジャッキー・ケネディを描いていますが、この作品とのつながりはありますか?

「ジャッキーも、ダイアナも、20世期を形作った重要な女性であることが共通しているよね。2人ともファッション・アイコンだったし、2人ともメディアと特定の関係性を持っていた。2人ともそれぞれのペルソナというものをメディア上で作り上げたと思うからね。それから2人とも、非常に権力のある一家と関係している。そして夫が権力者である。それでいて2人とも、自分のパーソナリティやアイデンティティを築いた。それはとても難しいことだったと思う。そして2人とも家族と子どもたちを大事にしていた。

だけど、この2本の映画は全く違う。『ジャッキー』は、思い出と悲しみについてを描いた作品であり、『スペンサー』は、アイデンティティと母親であることについて描いた作品だと思うから。それから映像の作り方も違う。例えば、『ジャッキー』ではJFK暗殺のシーンを非常に鮮烈に描いた。カメラを車の目の前に置いたんだ。それはその暗殺が彼女に与えた衝撃を捉えたかったから。だけど、この映画は、全く違う方向性だ。鮮烈なシーンはない。それはここで描いた時代が、彼女の死からはまだ遠い場所にあるからだ。まだその悲劇は起きていない。彼女が、この屋敷から家族から離れることを決意したことを描いた作品だからね」

──母としてのダイアナ妃というのが最終的には大きなテーマになっていますよね。

「そうだね。この映画は、誰もが理解できるような危機から始まり、その危機がより内面的なものに変わり、表現し難いものになっていく。そこで恐怖が生まれるわけだけど、彼女は、そこからいかに自分を癒やす方法を見つけていったのかが描かれている。それがこの映画のエンディングなんだ。彼女は最後に自分のアイデンティティを見つけ出して、王室以外の場所でも自分が存在できることがわかる。自分の居場所を見つけるんだ。そして母であること。この映画って究極的には、彼女と息子たちの関係性を描いたものであり、彼女が母親であることについて描いた作品だと思っている。それが彼女のモチベーションとなったし、母親であることが、映画の“心”にもなったと思う。そこに共感できたし、自分の母のことも考えたし、自分の子どもたちのことも考えた。そう思えたことが美しい発見だった。だからこの作品は最終的には、自分の子どもたちを大事に思う母親の物語になったんだ」

クリステン・スチュワートを撮影するパブロ・ラライン監督。Photo:Jonas Dornbach
クリステン・スチュワートを撮影するパブロ・ラライン監督。Photo:Jonas Dornbach

『スペンサー ダイアナの決意』

1991年、クリスマス。英国ロイヤルファミリーの人々は、いつものようにエリザベス女王の私邸サンドリンガム・ハウスに集まったが、例年とは全く違う空気が流れていた。ダイアナ妃とチャールズ皇太子の仲が冷え切り、不倫や離婚の噂が飛び交う中、世界中がプリンセスの動向に注目していたのだ。ダイアナにとって、二人の息子たちと過ごすひと時だけが、本来の自分らしくいられる時間だった。息がつまるような王室のしきたりと、スキャンダルを避けるための厳しい監視体制の中、身も心も追い詰められてゆくダイアナは、幸せな子ども時代を過ごした故郷でもあるこの地で、人生を劇的に変える一大決心をする──。未来の王妃の座を捨て、女性として、母として、一人の人間として生きる道を選んだダイアナの決意の3日間を描いた物語。

監督/パブロ・ラライン
プロデューサー/ポール・ウェブスター
脚本/スティーヴン・ナイト
撮影監督/クレア・マトン
プロダクションデザイン/ガイ・ヘンドリックス・ディアス
衣装デザイン/ジャクリーン・デュラン
へアメイクデザイナー/吉原 若菜
作曲/ジョニー・グリーンウッド
編集/セバスティアン・セプルベダ
出演/クリステン・スチュワート、ジャック・ファーシング、ティモシー・スポール、サリー・ホーキンス、ショーン・ハリス
公式サイト/spencer-movie.com
TOHOシネマズ日比谷ほか全国で公開中。
© 2021 KOMPLIZEN SPENCER GmbH & SPENCER PRODUCTIONS LIMITED

Interview & Text:Akemi Nakamura Edit:Mariko Kimbara

Profile

パブロ・ララインPablo Larrain 1976年、チリ、サンティアゴ生まれ。制作会社ファブラをフアン・デ・ディオス・ララインと兄弟で共同設立。 2006年に『Fuga(原題)』で長編映画監督デビュー。『NO』(12) でカンヌ国際映画祭の監督週間で作品賞を受賞し、アカデミー賞®で外国語映画賞ノミネートを果たす。さらに、『ザ・クラブ』(15)ではベルリン国際映画祭で銀熊賞を獲得し、ゴールデン・グローブ賞では外国語映画賞にノミネート、『ネルーダ大いなる愛の逃亡者』(16)はカンヌ国際映画祭で上映され、ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞にノミネートされた。世界的な評価は、ナタリー・ポートマン主演の『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(16)で最高潮となり、アカデミー賞®では主演女優賞、作曲賞、衣装デザイン賞にノミネートされる。

Magazine

JANUARY / FEBRUARY 2023 N°163

2022.11.28 発売

Future is SF

モード SF 宇宙

オンライン書店で購入する