尾上松也インタビュー「もし生まれ変わったら、オタク人生を歩みます!」
本業の歌舞伎はもちろん、自ら企画を練った真夜中ドラマ『まったり!赤胴鈴之助』ではコメディアンの才能を発揮中。ドラマのほかミュージカルでも活躍し、山崎育三郎、城田優と組むプロジェクト「IMY(アイマイ)」ではオリジナル演劇を発表するなど、縦横無尽にさまざまな顔を見せる尾上松也。3月には鈴木おさむ作・演出の主演舞台『怖い絵』が幕を開ける。多忙な彼の素顔とは?
怖いと思う人は親友、中村七之助
──松也さんが怖いと思うことはどんなことですか。
「そうですね。礼儀礼節でしょうか。歌舞伎界は、礼儀礼節が重んじられる世界です。特に古典の演目は必ず先輩方にご指導していただきますので、その方々に対するお礼とご挨拶はきちんとしなければなりません」
──セリフを忘れそう、みたいな恐怖は?
「それはまったく怖くないですね。誰にでも起こり得ることですから仕方ありません。もし忘れてしまったらみんなで何とかすればいいですし、何とかするしかない。幕が開く前は緊張しますが、始まってしまえば大丈夫です」
──では、この人は怖い!という方は?
「中村七之助さんですね。学生時代からの親友でとても仲が良く、お互いのお芝居を観に行くのですが、その際、正直に感想を言い合っています。それだけに観にきてくれたときがとても怖い。だからこそ、彼が「面白かった」と言うときはとてもうれしいですし、グサッと来るときも山ほどあります。ケンカしたこともあるくらい。ですが、本音で言い合える仲間はとても大切だと思います。特に七之助さんは役者としても信頼していますので、きちんと言っていただきたいですし、見ていただきたい。また、彼はとても鋭いんですよ。よく見ていますし、特に演劇のセンスはとてつもなく強いものがある。作品を褒めても僕のことは褒めないということも多々あります。もちろん、僕も言いますよ。本当に良いと思ったときにすぐ電話すると、彼もとても喜びます。
共演する時も怖いです。プライベートで仲が良く、芝居を愛しているからこそ、お互いの感覚がずれたら本当に決裂しかねないので。今のところはそういうことはありませんが、そういう意味では彼とは仕事をするときも怖いです」
──これは怖かった!という体験は?
「昔、10代で免許を取りたての頃、車を運転したくて仕方がなくて。友達と朝までゲームをして、そこからドライブに行こう!と高速に乗ったんです。大雨でしたがテンションだけはとても高く、各サービスエリアに寄って、ドラゴンボールのガチャを買い漁って全種類を揃えようという計画を立てました(笑)。いろいろなサービスエリアに行って、買いまくりましたね。子どもたちにとってはたまらない天敵だったでしょう。確か、全種類そろったのかな? それを車のダッシュボードの上に並べてね。
そのテンションのまま、高速を降りようとしたら大雨なんですよ。カーブを曲がりきれずにスリップして、まるでカースタントみたいに車がクルクル回って! 運がいいことにどこにもぶつからず、対向車も1台も通っておらず、まさに九死に一生を得ました。止まった瞬間、友達と大爆笑しましたよ。二人とも本気でもう死ぬ!と思ったのに、反動で面白すぎて、涙が出るくらい笑った記憶があります。とにかく、爆笑するしかなかった。今振り返ると、怖い思い出です」
次に舞台で演じるのは“ダークヒーロー”
──松也さんが主演の舞台『怖い絵』が3月に上演されます。鈴木おさむさんが作・演出で、“怖い絵”が散りばめられたミステリアスなストーリーとか。
「僕が演じる主人公・絵田光は投資家でお金持ち、絵画コレクター。復讐執行人という裏の顔も持っています。絵田は怖い絵を通じて、依頼者の謎を解いて復讐を手伝う。ダークヒーローのような謎に満ちた人物です。劇中では印象的な絵画をたくさん紹介します。物語の主軸ももちろん絵画。絵の背景を語りながら事件の真相に迫っていく推理法で、謎を解き明かしていきます。
名画にはいわくがつきものではないですか。僕がこの作品で最初にインパクトを得た絵が『切り裂きジャックの寝室』。画家(ウォルター・リチャード・)シッカートによって描かれた作品で、ジャックがそこに住んでいたという噂を聞いて自ら引っ越し、絵にしたという逸話が残っています。後にジャックが書いたとされる手紙から採取したDNAと実はシッカートがジャック本人ではないかという話も。そのミステリアスな感じ、鳥肌が立つような独特の恐怖感があります。この『切り裂きジャックの寝室』も劇中に登場しますので、お楽しみに」
──とても面白そうですね。絵田を演じるにあたり、心がけたいことは?
「絵田は絵画コレクターとして、ある種のオタクで変態だと思います。僕も今まさにハマっているのが、スニーカーとキャンドル。スニーカーは200足ぐらい、キャンドルも常にストックが100個以上あります。ですので彼の変態性はよくわかる。例えば、会話中に好きなことの話になると声が急にワントーン上がったりするほど。そんなオタクっぷりを自然に出せたらいいかなと考えています」
──スニーカーの楽しさはどんなところですか。
「根本にあるのは、小さい頃に欲しかったものを大人になってようやく買える喜びだと思います。一昨年の12月くらいからハマり出しましたが、さかのぼれば少年時代、マイケル・ジョーダンといえばスポーツ少年の憧れでした。僕も好きで、エア・ジョーダンを買ってもらったこともありました。もっとほしいなと思いつつ、小学生にはやはり高い買い物で親には早々ねだることができないと我慢していました。その思いを忘れたまま育ち、あるとき、そうだ!これが欲しかった!と思い出したんです。その思いが爆発した結果が今ですね。
役者として初めてお給料をいただいたときには、銀座の博品館に行き、『スター・ウォーズ』のフィギュアを山ほど買いました。ずっと欲しかった、親にねだることができなかったものを、自分のお金で鬼買い(笑)。きっと、そういう欲求がもともと強いのでしょう」
──スニーカーとキャンドル、フィギュアはそれぞれ、どのように楽しんでいるのですか。
「スニーカーは絶対に履きます。いろいろな方がいらっしゃって、見る専門の方もいらっしゃいますが、僕は履きます。フィギュアは、一切出さないでは箱のまま飾っていますね。キャンドルは使わないと意味がないので、基本的には使います。火の取り扱いには細心の注意をしていますが、一時期は毎日20〜30個を焚いて、何かの儀式みたいになっていました(笑)」
──キャンドルを焚く楽しみは何ですか。
「火がどういうふうに燃えるのか、ただひたすら火を見ていたい。癒やされてリラックスできる、それだけです。ですのでわが家は非常に不思議な空間になっています。スニーカーとフィギュアとキャンドル、それにジャイアンツ(笑)」
──好きなものに囲まれて暮らすのは、大人のオタクの醍醐味では?
「本当にそう。だから好きなものに人生をすべて賭けられる方が羨ましいなと思います。その気質が自分にもあるだけに。仕事は好きなものを貫くためのツールでしかなく、周りや世間のことは気にしない、自分の好きなものを追求するために生きている……と、そこまで割り切れたらとても楽しいですし、かっこいいと思います。
もちろん今の仕事も大好きで僕は幸せです。でも次に生まれ変わったら、一度オタク人生を歩んでみたいですね!」
舞台『怖い絵』
ベストセラーとなった美術書『怖い絵』(中野京子/著)がもとになった、鈴木おさむ作・演出の舞台。投資家をしながら、実は怖い意味を持つ絵画を集めるのが趣味の男、絵田光。「怖い絵」に秘められた物語が、事件の真の姿を浮かび上がらせ、この男が、罪深き人たちに、復讐の代行を行っていく。本当に存在する絵と、そこに隠されたメッセージとは。
作・演出/鈴木おさむ
監修/中野京子
出演/尾上松也、比嘉愛未、佐藤寛太(劇団 EXILE)、崎山つばさ、寺脇康文
●東京公演 2022年3月4日(金)〜21日(月・祝)
会場/よみうり大手町ホール
●大阪公演 2022年3月24日(木)〜27日(日)
会場/COOL JAPAN PARK OSAKA TT ホール
www.ktv.jp/kowaie-butai/
Photos:Takao Iwasawa Hair & Makeup:Yasunori Okada(PATIONN) Styling:Norimitsu Shiina Interview & Text:Maki Miura Edit:Sayaka Ito