にしなインタビュー「素直にありのままでどこまでいけるのかやってみたい」
伸びやかで情感豊かな歌声、感情の機微を繊細に描いた歌詞で10代・20代のリスナーを中心に支持されるアーティスト、にしな。新曲『スローモーション』はエレキギターがフィーチャーされたシャープなサウンドが新機軸。強く相手を求めるが故の歪なコミュニケーションが描かれた歌詞と相まって、「わかり合いたいけどわかり合えない」というヒリヒリした気持ちをひたすら高める。 肩ひじを張らない等身大の佇まいも魅力の新世代アーティストの素顔に迫った。
──新曲「スローモーション」はエレキギターがフィーチャーされたシャープな楽曲ですが、どんなイメージがあったんでしょう?
「最初は大好きな椎名林檎さんの『ギブス』みたいな曲が作りたいなって思ったんです。椎名さんというとすごく色気がある方ですが、『ギブス』は少女のピュアなとがり方みたいなものが素敵だなって。構成をなぞりながら、『自分で書くならどういう曲がいいだろう』と思った時に、『好きな相手と同じ感情になりたい』っていう大きなテーマが生まれました。言葉でいくら自分の気持ちを伝えても、そこにはどうしても思考が入ってくる。『わかり合いたいからこそ思考を通さず一緒になりたい』という気持ちを込めて作った曲です。あと、宇多田ヒカルさんの『Time』のイメージもほんのりありました。原曲を作ったのは2,3年前なんですけど、多分その時の自分の曲に足りないなって思った部分が出てるんだと思います」
──ギターサウンドに加えて、歌詞に「チューニング」や「Em7」といったギターを思わせる言葉が入っていたり、英語と中国が入っていたり、様々な挑戦を感じました。
「ギターの曲にしたいっていう意識があったからそういう言葉を入れてみました。英語と中国悟については言葉の音感をそのまま大切にしたところもありますし、ちょっととろりとしたテーマの曲だったので、カラオケでみんなでふざけて歌えるようなポップさを加えたかったんです。自虐をおもしろく伝えたいというか、ポップにどろっとさせたかったというか。果てしなく暗い曲も書くんですが、ひとつの要素ばかりだと自分自身も飽きちゃうのでバランスには気を遣ってると思います」
──「スローモーション」もそうなんですが、にしなさんの曲は「誰かとわかり合いたい」「繋がりたい」というコミュニケーションが多く描かれている印象があります。
「私自身、諦めが悪いんだと思います。『スローモーション』は特に諦めが悪いなあと思いました(笑)」
──では実生活で「この人とは合わないな」と思っても、諦めずに近づいていったり?
「そうかもしれないです。恋愛に限らず、『合わないかも』って思う人とでも割とコミュニケーションを取ろうとする気がします。『わかり合いたい』って願い続けてるからこそわかり合えないことに苦しくなる。話してて『どうしてうまく伝わらないんだろう』って思って試行錯誤することはよくありますね。面倒くさい奴だと思います」
──その繊細なコミュニケーションが描かれた歌詞もにしなさんの楽曲が同世代に支持される大きな理由だと思うんですが、聞き手の反応で驚いたことはありますか?
「曲をいろんな角度から考察してくださる方っているじゃないですか? 自分が考えていた以上に曲に面白みを見出してくれたり、理解を深めてくださったり。そういう感想を見ると嬉しいですし、すごく勉強になります。特に印象に残ってるのが、『ランデブー』っていう曲に『1.2.3から始まったように』っていう歌詞の後、『どこまでもGO』っていう歌詞が来るんですが、その『GO』を『5』だと考察してくれている人がいて。私は全然意識してなかったんですが、嬉しかったのでそういうことにしておこうと思いました(笑)」
──すごくナチュラルなモードで音楽活動を楽しまれてるように思えるんですが、何か秘訣のようなものはあるんでしょうか?
「ああ、それこそデビューした頃は『どう見られたら良いか』とか、『どういう人であるべきだ』っていうことをすごく考えて『もっともっと』って試行錯誤して、すごく苦しくなっちゃってたんです。自分自身をすごく嫌いになったり、曲を聴いてくれる人のことも嫌いになっちゃいそうな瞬間がありました。果てしなく落ちましたね。でもそこで、誰からも『こうしなきゃいけない』って課せられてるわけじゃないし、自分が作った檻のなかでもがいているのは変だなあと思った。突き詰めたとしても必ず結果が得られるわけじゃないから過程を大切にしたいなって。それに、結果が地球規模で考えると私がやってることも私の存在も塵のような小ささ。そう思ったらすごく心が軽くなったんです。それで、素直にありのままでどこまでいけるのかやってみようって。そのうえで曲が誰かの日常に流れたらすごく幸せだなあと思っています」
──一番影響を受けたミュージシャンというと誰なんでしょう?
「たくさんいらっしゃるんですが、歌うことってかっこいいなって思ったきっかけはコブクロさんです。すごく大きい存在ですね」
──MVのディレクションもされていますが、MVを作る時に意識していることは?
「まず最初に、なんとなく曲に対して抱いている質感や色味のイメージを監督と共有していきます。曲に映像を付ける意味って、映像によって曲の世界観をさらに深めてくれたり、理解を広げてくれることだと思うんです。だから、曲で表現しきれなかったけど、こういう要素を加えたいっていうことを提案したりしますね。そうすると監督が私からは出ないような表現を出してくれて、一緒に作り上げていく感じです。『スローモーション』の監督のUMI(ISHIHARA)さんには、『スローモーション』という曲名なので速度に変化をつけた映像が作れたらおもしろいし、不思議でインパクトがある映像にしたいとお伝えしました。あと、曲の中に男性ふたりが出てくるイメージがあったので、それもお伝えして汲み取っていただきましたね」
──影響受けたり、好きな映像作品はありますか?
「映画の『アデル、ブルーは熱い色』がすごく好きです。もどかしくて泣けます」
──あの映画でもうまくいかないコミュニケーションが描かれてますよね。
「やっぱりうまくいかないものに惹かれるんですかね(笑)」
──映像クリエイター、プレイヤー、アレンジャー等様々な方とコラボレーションする中で、どんな刺激を受けますか?
「自分だけでは曲を広げられる限界があるというか。良くも悪くも私が想像した範囲内でしか描けない。そこを超えられるのは、誰かとコミュニケーションを取りながら発展させていくからこそだと思っています。いろんな刺激をいただきますね。『centi』って曲があるんですが、その曲はトラックをエズミ・モリさんに作っていただいて、そこに私がメロディーと歌詞を付けていったんです。でもエズミさんからトラックを受け取る時に構成のイメージを全く聞かなくて、エズミさんの曲を色々聞かせていただいた上で『きっとサビ始まりなんだろうな』と思って、逆に私はABサビっていう構成で作ったんです。それが結果うまい具合にハマって。コミュニケーションを取らなかったからこそ良い曲ができたのも、誰かとコラボレーションする面白さだなって思いました」
──では今コラボレーションしたい人というと?
「ラッパーの方ですね。特に声が低いゴリゴリの方。Ryohuさんや鎮座DOPENESSさんが好きです。これからもいろんな方とコラボレーションしたり、たくさんチャレンジをしていきたいと思ってます」
──では最後に。オフは何をすることが多いんですか?
「映画を観ますね。意外とアクティブで、マネージャーさんがバスケやサッカーをやる会をたまに開催しているんでそれに参加させてもらってます。あとこの前、キックボクシングの体験を見に行きました。ボイトレの先生に、『インナーを鍛えるにはやっぱ太極拳だよ』と言われたので次は太極拳をやってみようと思ってるところです。でも、一番幸せなのはおいしいものを食べている時だと思います(笑)」
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にしな 「スローモーション」
nishina.lnk.to/slowmotion
Photos:Ryohei Ambo Styling:Lee Yasuka Hair&Make:Eriko Yamaguchi Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Saki Shibata