ティモシー・シャラメ インタビュー「自分も役目を果たしていると評価されたい」 | Numero TOKYO
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ティモシー・シャラメ インタビュー「自分も役目を果たしていると評価されたい」

ウェス・アンダーソン監督の長編映画10作目となる最新作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』で、アンダーソン組に初参加したティモシー・シャラメ。1つのレポートと3つのストーリーからなる本作のうち、パリ5月革命をテーマにした「宣言書の改定」のパートで若き革命家ゼフィレッリを演じたシャラメが(2021年7月の)カンヌ映画祭で語った、寝食をともにした俳優陣とのエピソード、監督の演出術、そして自身の仕事への向き合い方について。

「監督が世界観を実現するために練った数々の仕掛けのひとつとして、自分も役目を果たしていると評価されたい」

──18か月ものコロナの自粛生活のあと、外の世界に出てこの映画の初公開を迎えるのは、どんな気持ちですか。 「信じられません。カンヌから東へ1時間の所に宿泊しています。この映画の撮影時に皆で同じホテルに泊まったときと似た感じがします。部屋に入ると、電話の横には関係者全員の連絡先リストがありました。カンヌでの初公開にも大きなバスに乗って登場します。監督の自前のバスです。 カンヌに来ることができてうれしいです。この映画の話をもらったときはロンドンにいたことを思い出します。エイミー・ハーツォグ作の演劇『4000 Miles』(原題)でオールド・ヴィック劇場に出演する予定でした。共演はアイリーン・アトキンスで、演出はマシュー・ウォーチャスです。3週間リハーサルをするあいだノッテングヒルに滞在していました。すると突然、すべてが中断になりました。 いつもの世界に戻り、この映画を宣伝できることに感激しています。今夜、劇場でこの映画を観たら頭がすごくクラクラしそうです。違う時代の違う空間で撮った映画のように感じるはずです。まるで別世界です」

──世の中がロックダウンになる前にこの映画を観ることができましたか。

「『DUNE/デューン 砂の惑星』の撮影が終わり、その後、2019年の12月に監督がニューヨークで試写会を、出演者を召集して、開催しました。ですから、タイムズスクエアで一度は観ているのですが、今夜また観ることをとても楽しみにしています。この映画自体も、出演者の皆さんの演技も大変素晴らしいと思います。ビル・マーレイやオーウェン・ウィルソンといった方々とともにアンダーソン映画という壮大なつづれ織りの綾のひとつとなれたことを大変光栄に思います」

──そして、フランシス・マクドーマンドとの共演シーンもありましたね。

「もちろん、フランシス・マクドーマンドとの共演も光栄でした。カンヌでもお会いしたかったです。こんな若さで名優と共演できたことは本当に貴重な経験でした。マクドーマンドは『ノマドランド』が終わったばかりでした。クランクアップしてわずか1週間後にこの映画の撮影に駆けつけてくれました」

──こんなに豪華な出演陣のなかに入っていくのは怖くありませんでしたか。

「いろいろな意味でこれまでとまったく違う経験でした。撮影が始まる2週間前に監督からメールをもらったことを思い出します。こんなことが書いてありました。『長年、若手の俳優に入ってもらっていますが、撮影に現れない人や、十分に準備してこない人がいます』このことばを10回以上自分に言い聞かせました。絶対に皆さんの足をひっぱりたくありませんでした。お客さんにこの映画を観て、味わって欲しいですし、監督が世界観を実現するために練った数々の仕掛けのひとつとして、自分も役目を果たしていると評価されたいです。

私の役柄のゼフィレッリの言い回しと、監督の脚本のトーンは両方ともとても具体的でした。コツがつかめると、役がひとり歩きしていきました。しかし、台本通りにもしたくありません。出演の話をもらう前からすでに監督の映画はすべて観ていましたが、なんといっても『グランド・ブダペスト・ホテル』でのレイフ・ファインズの演技が参考になりました。セリフの行間を完璧につかんでいます。その演技はもちろん素晴らしく、それはセリフが見事だからでもあります。あの映画のセリフをファインズは立て板に水のように言ってのけます」

メイキングより
メイキングより

──自分のパートの撮影中、他のパートの撮影もいろいろ観たりできましたか。

「できました。というのは、撮影中に誰もが泊まっていたアングレームのホテルの私の部屋のすぐ隣が編集のアンドリュー・ワイスブラムだったのです。エイドリアン・ブロディのセクションを自分の撮影の前に観ることができました。とても役に立ちました。ブロディやレア・セドゥやベニチオ・デル・トロの演技を観ることで映画の全体像が分かったのです。もう本当に、皆さんすごい演技でした」

メイキングより
メイキングより

──一緒に生活したことで撮影全体にどのような影響があったと思いますか。

「長年、第一線で活躍しながら、消費されることもなく、常に触発され、演じることに興味を持ち続けている大勢の俳優の皆さんとアングレームで寝食を共にしました。豪華とはいえない環境のなか、エリート意識をむき出しにもしない雰囲気で、皆さんの快活さ、親しみやすさ、監督との絆を実感できたことはかけがえのない財産です。それは監督が生みだしたアーティスティックなサロンのような雰囲気であり、表現行為でもありました。そこで存在感を示そうと一所懸命努力する自分もいました。

ビル・マーレイがディナーのときジョークを言っていたのを今思い出しました。私たちの撮影が終わったとき―私とリナ・クードリとスティーヴン・パークは皆同時に終えたのですが―私はグラスをチンチンと鳴らして言いました。『監督、本当にありがとうございます。とても素晴らしいチャンスを頂きました』そして他の2人も続いて一言述べました。すると今度はビル・マーレイがグラスをチンチンと鳴らしたのです。私たちの誰もが『ああ、やられた』という顔になりました。マーレイはアドリブで私達の言ったとおりをまねしてからかったのです(笑)。

マーレイは、長きにわたり名声を得ながらも、映画業界に消費されることのなかった俳優の好例です。消費されなかったというよりも、すべてを見て、あらゆることをしてきた人だということが分かりました。そして、その宴にいることに浮かれ、この映画のことに興奮している姿をみてすごく感激しました。もちろん、新入りの私たちに対するからかいや辛辣さもありました。この映画への出演を純粋に喜んでいるからこそ『諸君の入隊を歓迎する。君たちの階級はこれだ』なんて言ったのでしょう。誰にでもすぐに心を開いてくれるのはとても素晴らしいことです。でも、やはり、ジョークのネタにはされたくありませんけどね(笑)」

メイキングより
メイキングより

──その現場の雰囲気は役柄や実際の演技に滲んでいくものですか。

「そこからのインスピレーションは確実にあると思います。監督のような方と一緒に仕事をすることでの安心感には2つの面があります。ひとつは本当の名匠の掌の中にいるということです。どんな画を撮りたいか正確に分かっていて、無駄なテイクは撮らない、しかし、必要な画は何度でも撮る、そんな方です。

もうひとつの安心感は、美術に関することであろうが、頭の中にある他のどんなことについてであろうが、映画の世界観をはっきり持っている監督なら、役者は自分の役柄以外に何も心配することはないということです。幸運なことに、私はほぼいつもそうした監督と仕事をしています。でも、それと逆の場合は、自分でコントロールする権限のない、自分の仕事ではないさまざまなことを心配しなくていけないハメに陥ります」

──ゼフィレッリはリナ・クードリ演じるジュリエットとすさまじいスリルを味わいます。共演していかがでしたか。

「素顔のクードリはあんなふうではありませんでした。神様に感謝します(笑)。彼女は感覚的に演じる芯の強い俳優です。『スリル』は2人の間柄を表すとても良い言葉ですね。場面としても、映画全体としても、強く印象に残るシーンはオープニングのチェスのシーンです。ジュリエットはテラス席に座り、チェスに興じるゼフィレッリをじっと見ています。でも、その腕は組まれたままです。これが2人の関係性です。

2人の仕事の息はぴったり合っていました。言葉の壁を超えるのは楽しい試練でした。私のフランス語は悪くないのですが、完璧ではありません。まあ流暢と言えますが、ときどきひっかかります。クードリの英語も同じですが、演技はとても素晴らしいです。今までにセザール賞も受賞しています。この映画できっと新しいファン層が広がるでしょう」

メイキングより
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──出世作で名をあげて以来この数年は乗りに乗っています。知名度が上がるなか、どのように集中力を保っていますか。

「なんといっても、ひたすら仕事に取り組むことですね。撮影では準備に頭も体も総動員させなくてはなりません。それによって方向性を定めていられます。今撮影しているウィリー・ウォンカ役でも音楽的な難しい挑戦があります。新しい技をたくさん覚えなくてはなりません。新しいことを覚えるのは得意なんです。

この1年半くらいはそうした挑戦もありませんでした。まったく撮影がありませんでしたから、違う方法で進む道をしっかり見定めなくてはなりませんでした。でも、この休み期間には、ソファーのクッションの折り目をちまちま数えたりして、心のよどみを洗い流すことができました。そうした時間をみつけることは、撮影が入っているときでも大事です。それが『DUNE/デューン 砂の惑星』のポール・アトレイデス役であろうが、『キング』のヘンリー役であろうが、『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』のゼフィレッリ役であろうが、です」

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』

監督・脚本/ウェス・アンダーソン
出演/ベニチオ・デル・トロ、エイドリアン・ブロディ、ティルダ・スウィントン、レア・セドゥ、フランシス・マクドーマンド、ティモシー・シャラメ、リナ・クードリ、ジェフリー・ライト、マチュー・アマルリック、スティーブン・パーク、ビル・マーレイ、オーウェン・ウィルソン、クリストフ・ヴァルツ、エドワード・ノートン、ジェイソン・シュワルツマン、アンジェリカ・ヒューストンほか
配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2021 20th Century Studios. All rights reserved.
https://searchlightpictures.jp/movie/french_dispatch.html
2022年1月28日(金)全国公開

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Edit:Chiho Inoue

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