野田洋次郎 × iri インタビュー「運命的な二人の巡り合わせ」
RADWIMPSのニューアルバム『FOREVER DAZE』に収録されている「Tokyo feat. iri」で初めてコラボレーションしたRADWIMPSとiri。浮遊感のあるモダンなトラックの上で、野田洋次郎とiri、それぞれが東京の想いを大切に噛みしめるように歌い、永遠にリピートしたくなるような心地よさを持った「Tokyo」。この曲は、全く面識のないところから、野田がiriの声に惹かれて突然オファーをして生まれた。両者の初対談をお届けする。
きっかけは、野田洋次郎からの突然のオファー
──野田さんはなぜiriさんと一緒に曲を作ろうと思ったのでしょうか?
野田洋次郎(以下、野田)「ここ2年ぐらい、音楽を作るときに自分の声に飽きてきたところがあって、人の声にどんどん興味が湧いてきているんです。iriの曲は結構前から聴いていて、唯一無二の声を持っている人だと思っていて。そうしたらスタイリストの服部(昌孝)さんが共通の知り合いだったので、連絡先を聞いていきなり直で連絡しました」
iri「いきなりでしたね(笑)」
野田「いきなりだよね(笑)。会ったことない人にオファーするのは初めてだったので『会ったことないですけど、一緒にやってくれませんか?』という話をして。一方的に告白するみたいなものなのですごく勇気がいりました。振られる可能性も全然あるので」
iri「絶対振らないですよ(笑)。でもそのタイミングがすごくて。連絡をいただく少し前に、私は『はじまりの日』というEPを出したんですけど、あのEPは洋次郎さんが作詞作曲された『おあいこ』という曲をきっかけに作ったんです」
野田「そうだったんだ?」
iri「はい。『おあいこ』は大学時代から好きだったのですが、歌詞とメロディがすごく温かくて胸に突き刺さるものがあって、自分もそういう曲を作りたいなと思っていた時期でした。それまではトラックメイカーと共作することが多かったのですが、一人で1からギターで製作したんです。なので、連絡をいただいたときはすごくびっくりしました」
野田「すごい。巡りあわせみたいなものって絶対あるんだろうね」
iri「だから、洋次郎さんに話したいことが山ほどあって。でも私喋るのが下手なのでうまく話せないだろうなと思って手紙を書いてきてさっきお渡ししました(笑)」
野田「手紙なんてもらうの久しぶりだから嬉しくなっちゃった(笑)」
iri「先月、デビュー5周年を迎えたのですがコロナ禍になったあたりから自分のパフォーマンス力や作品作りのクオリティに対して情けない気持ちでいっぱいになって……。もう音楽を聴きたくない、歌いたくない、全部シャットアウトしたいっていう時期だったんです。一番自分が落ちているときに洋次郎さんから『Tokyo』のお話をいただけたので救いあげてもらった気がして。そのことを手紙に書かせていただいたんですけど……意外とちゃんと喋れました(笑)」
野田「あははは」
──「Tokyo」への参加をiriさんにオファーしたとき、曲はどれくらい出来ていたのでしょうか?
野田「デモは出来上がっていて、自分が書いた1番の歌詞も出来ていました。“東京”について歌っている名曲がたくさんあるのでハードルもありましたが、3年程前くらいから自分が生まれ育った場所を自分の視点で描きたいという感情がふつふつと沸いてきて。東京を描いた曲は上京した視点で描かれるものが多いけれど、東京で生まれて東京以外に帰る場所がない自分の歌を歌ってみたいなと思ったんです。それで、去年ぐらいから実際に曲を書き始めました。オケができたときにiriの声が不思議と浮かんだんですよね。やっぱり唯一無二の声を持っているということと、このトラックに合う気がしてならなかった。俺はそういう直感を信じているところがあって、実際に参加してもらって、やっぱり間違いなかったという気がしています」
iri「ああ、良かったです」
野田「でもオファーするときに『2番の歌詞を書いて歌ってほしい』とお願いしたので、結構丸投げというか(笑)。少し違う角度が欲しいと思ったのと、単純にどんな言葉をのせるんだろうと思って。最初戸惑っていたよね?」
iri「そうですね(笑)。まず、私がフィーチャリングで参加させて頂くことがあまり多くなくて。それもあって洋次郎さんのこの曲に対する想いをすごく知りたかったんです。それを洋次郎さんに聞いたときに──あ、これは洋次郎さんから話した方がいいですよね?」
野田「いやいや、どうぞ(笑)」
iri「すいません。今日喋りたくてしょうがなくて」
野田「全然大丈夫(笑)」
iri「愛が溢れちゃって(笑)。それで、田舎から出てきた人は東京って冷たくて寂しさを感じるところだと思う人が多いと思うんです。でも、洋次郎さんは東京で生まれ育って、アメリカに行かれていた時期もあったけど、東京が故郷。東京ってそういういろいろな想いをすべて受け入れて立っている、すごく良いヤツだと思うんだってことを話してくれたときに、私は洋次郎さんのその気持ちが最初理解できなかったんです。私は神奈川県の逗子が地元で、東京のことを冷たくて寂しい場所だと思っていた側だったので。じゃあどうしようって考えたときに、逗子は夏に人がたくさん来て観光地だと思われているところがあるけど、自分にとっては田舎で温かい場所で、いろいろな思い出が詰まっています。そういうことを考えていくと、洋次郎さんの東京への想いが理解出来たんです。それで2番の歌詞を書きました。そのとき思ったのは、私が日常の中で何か一つのことを感じたとしたら、洋次郎さんは100ぐらいの視点を持っているということです。そこには文学性や哲学性があったりするのですが、すごく血が通っているんですよね。そこがすごく魅力的ですし、だから私も洋次郎さんの歌詞にずっと共感させられてきたんだなと改めて思いました」
変わりゆく東京の街を見つめ続けて
──野田さんが書いた1番の歌詞では、幼馴染のような存在である東京が変わっていくことへの寂しさも歌われています。
野田「東京オリンピックに向けてというところも大きかったと思うんですけど、ここ数年東京の街がどんどん変わり続けていて。『この建物なくなったんだ?』とか『ここ何ができるの?』って思うことが多くて。自分が生まれ育った場所だけど、50年後とかには自分が知っている景色はなくなるんだろうなと思って。でも自分が知っている東京は目に焼き付けておきたいし、姿が変わろうが、この時期はきっと俺とあなたは親友だったよなっていう記録として音楽に残したいと思ったんです」
iri「洋次郎さんはそういう故郷としての東京のことを歌詞で書いていますが、私は東京の大学に通っていた時代や東京で始めた音楽活動だったり、友達とクラブに行って酔っ払って朝ラーメン食べて帰ったこととか(笑)思い出はたくさんあるので、そういうこともしっかり歌詞に映したいと思って書きました」
野田「悩んだ?」
iri「悩みましたよ!(笑)当たり前じゃないですか」
野田「あははは」
iri「消しては書き、消しては書きを何回も繰り返して。最初に洋次郎さんの東京に対する歌詞を読んだとき自分の中で何かが爆発するような衝撃があったんです。それで一回頭がリセットされて、覚を広げてくれた感じがありました」
野田「俺にとって東京は故郷でもあり、今もずっと生活している場所でもあります。例えば、それこそクラブに行って朝帰りするときに見かける、今から出かける人と帰る人が交差するあの独特な空気とか。東京は眠らないで起き続けていて、常に誰かの相手をしている。友達に例えたらめちゃめちゃ良いヤツだろうなっていうか、いつ呼んでも来てくれるような。そういう気持ちもあって歌詞を書きましたね」
iri「洋次郎さんがこの曲に対する気持ちを教えてくださったときに東京への見方が変わって『いつもありがとう』と思いました。ギター背負ってお客さんが全然いないライブに出ていたときもずっと寄り添ってくれた場所でもあるから。それですごく穏やかな気持ちになれたんです」
野田「そっか。戦いの場所でもあるもんね」
iri「そうですね。例えば渋谷に行くとすると、私は自宅から約一時間かけて向かうのですが、その間に気合を入れてスイッチをオンにするんです。それでまた自宅に帰るとほっとするんですね。だから本当にいろいろな思いが詰まっている場所だなと改めて思いました」
──野田さんは「東京以外に帰る場所がない」と言っていましたが、他の場所に住みたいと思ったことは?
野田「俺、実はずっと田舎が欲しかったんですよね。だからツアーで全国津々浦々回ると、必ずその行った場所を歩いて回るんですけど、その土地だけの臭いを感じて嬉しくなるんです。その度に『他に帰る場所があったらどれだけ良かったか』とか思うのですが、自分では作れないので。そうするともっと東京を愛してみようかなという気にもなります」
──会ったことのない関係性から曲を作ってみて、想像していたイメージとギャップはありましたか?
iri「なかったですね」
野田「俺も全くなかったかな。この音楽をやっている人なら、絶対何か響き合うところがあるだろうっていう確信があったし」
iri「めちゃくちゃ嬉しいです。私、洋次郎さんの曲の中だと、柔らかい曲か攻撃的な曲が特に好きなのですが、例えば『おしゃかしゃま』とかカラオケでガンガン歌うんです。でもあの曲めちゃくちゃ難しくて(笑)」
野田「カラオケに一番向かない曲かもしれない(笑)」
iri「すごい嚙みながら歌っています(笑)。あと『有心論』とか『me me she』とか、学生時代に歌詞を書いて好きな人に渡したり、友達からもらったりしていて。それで、『Tokyo』が柔らかい曲だったので余計嬉しかったんです」
野田「iriは音楽の幅の広さというか、深さがすごいなと思って。新世代のおもしろさを感じますね。あと、1曲に対してどれだけの熱量を込めているか、曲を聞いた瞬間に分かる。音楽が大好きなんだなって超伝わってくるのもすごいなと思っていて」
3年ぶりのオリジナルアルバム『FOREVER DAZE』への想い
──iriさんは『FOREVER DAZE』は聴きましたか?
iri「最高でした! 『匿名希望』とか超ヒップホップで、歌詞の洋次郎さんの『は?』って挑発的な感じが最高ですし、『鋼の羽根』も温かみが感じられてすごく好きです。バラードもあるし、攻めている曲もあってジャンルが豊富で、それに喜怒哀楽が溢れ出ている感じがして最高のアルバムでした」
野田「ありがとうございます(笑)」
iri「でも『Tokyo』が一番好きでした(笑)」
野田「他の曲はコロナがあって、もがきながら彷徨いながら作っている感じだったんですけど、『Tokyo』はもっと前から作りたい気持ちがあったので、なるべく俺と東京という関係性だけで、作りたいという気持ちがあったんです。ライブのリハで演奏していても、『Tokyo』は気持ち良すぎて20分くらい演奏してもまだ終わりたくない、抱きしめられるような独特の心地良さがあって」
──さまざまな感情が溢れながらも、未来への強い希望が描かれているような印象がありました。
野田「確かに。毒は今までのアルバムの中で一番薄めかもしれないですね。もうこれだけこてんぱんにやられている世の中だから、あとは希望に向かっていきたいというのが自然とあったんだろうなと思います」
iri「最後の曲の『SUMMER DAZE 2021』でその気持ちが解放されて『救われた~』っていう感じがしました。でも洋次郎さんの声は無理やり押しつけられている感じじゃなくて自然に馴染むので気持ち良いです」
──コラボレーションしたことで改めてリスペクトする部分はどんなところでしょうか?
iri「すごくシンプルなのですが、洋次郎さんは想いがしっかりあって優しいんです。あと作品の言葉の一言一言に無駄がなくてすごく説得力がある。だから私も洋次郎さんと曲を作らせていただいてから、無駄な言葉を排除するようになりました」
野田「へえ、おもしろい(笑)」
iri「あと、さっき言ったみたいに一つのことをすごくいろいろな面から見られている方で、人として自然と見えてしまうようなところがあるのかなと思っていて。今の私には真似できないので、これからさまざまな経験をして、いろいろな視点を養って表現に落とし込んでいけたらいいなと思いました」
野田「俺は自分の声にそんなに自信がなく生きてきたし、もしかしたら自分の凡庸さに対抗するために、歌詞にいろいろな見方を入れてきたのかもしれない。でも逆にiriにはものすごい芯の強さを感じるし、その主観の強さみたいなものに俺は惹かれたんだと思う。声の説得力も相まって、歌が生まれるその源みたいなものが自分にはないものだなと思って。それは今回一緒に曲を作ってみて、より強く思いましたね。だから、この先どんなミュージシャンになっていくのかがより楽しみになりました」
iri「ありがとうございます。私も楽しみです(笑)」
RADWIMPS『FOREVER DAZE』
2021年11月23日(火)リリース
【通常盤】(CDのみ)¥3,300
【15th Anniversary Box(初回限定版)】(CD+Blu-ray+PHOTOBOOK)¥11,000(CD+2DVD+PHOTOBOOK)¥11,000
【完全受注生産限定 15th Anniversary Box(GOODS 付)】(CD+Blu-ray+PHOTOBOOK+GOODS)¥16,500(CD+2DVD+PHOTOBOOK+GOODS)¥16,500
※ラリルレコード/UM STORE限定発売(受付終了)
フィーチャリングアーティストとしてiri、Awich、菅田将暉が参加している楽曲に加え「MAKAFUKA」(ゲームアプリ『グランサガ(Gran Saga)』テーマソング)、「桃源郷」(ABEMA『恋する♥週末ホームステイ 2021秋 沖縄』)、「夏のせい」「鋼の羽根」「TWILIGHT」ほか、全14曲を収録。映画『天気の子』の主題歌「グランドエスケープ」も、RADWIMPSオリジナルヴァージョンとして収録。【15th Anniversary Box(初回限定版)】【完全受注生産限定 15th Anniversary Box(GOODS 付)】に付属するBlu-rey /DVDには「TWILIGHT」のMusic Videoと、昨年11月にメジャーデビュー15周年を記念して横浜アリーナで開催された特別公演「15th Annuversary Special Concert」の模様を新たに編集し収録。最新アルバムを引っ提げたツアー「FOREVER IN THE DAZE TOUR 2021-2022」を、2022年1月までに全国6箇所12公演敢行予定。
衣装(iri)ビスチェ ¥49,500/OUR LEGACY(O 代官山 03-6416-1187) スカート ¥53,900/NEEDLES(NEPENTHES WOMAN TOKYO 03-5962-7721)その他/スタイリスト私物
Photos:Sasu Tei Styling:Masataka Hattori Hair & Makeup:Asami Nemoto(Yojiro Noda), Mihoko Fujiwara(iri) Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Risa Yamaguchi