アイナ・ジ・エンド インタビュー「悩みに共感してくれる人と一緒に進みたい」
“ダーク”と“ポップ”という自身の二面性を昇華した連続作品集、2枚のEP『BORN SICK』と『DEAD HAPPY』に続き、セカンドアルバム『THE ZOMBIE』を3カ月連続でリリースするアイナ・ジ・エンド。ファーストアルバム『THE END』に続き自らが作詞作曲を手がけた楽曲には、より多岐にわたる喜怒哀楽が生々しく渦巻く。唯一無二の歌声を持つ表現者として多くのアーティストからラブコールが絶えないアイナ・ジ・エンドに、ミュウミュウのリゾートコレクションをまとってもらい、ヴィジュアルでも二面性を表現してもらった。さらに、ファッションについて、新作について、自身の存在について、BiSHについてなどさまざまな想いを聞いた。
“服によってマインドは大きく変わる”
──今回の撮影のファッションやメイクはいかがでしたか?
「1着目は、黒でシックな感じがミュウミュウっぽくなくて新鮮でした。2着目は、生地が薄いのにキラキラの石みたいなのがついていて。しっかり重量感があるのに爽やかに着られるのが自分の今のマインドにピッタリで楽しかったです。普段はこういうメイクもしないし、カチューシャをしたりもしないので、全部新鮮でした」
──10月のソロツアーの中野サンプラザ公演では、途中で黒のドレッシーなワンピースから私服の黒のキャミとデニム姿に着替えられていましたよね。服によってパフォーマンスする気分は大きく違ってくるのでしょうか?
「あの日は衣装のワンピースが女の子っぽかったんですが、昔中野の近くに住んでいたこともあって、あまりそういう気分じゃなくて。ふらっと散歩がてら来たみたいな感じで3曲歌えたらおもろいかなと思って私服に着替えたんです。やっぱり服によってマインドは大きく変わりますね。パンツだったらちょっとメンズライクな気持ちになって歌声も変わったりしますし。2021年2月のファーストソロツアーでは、前半はタイトめなワンピースを着てたので少女の気分だったんですが、途中で丸龍文人さんに作っていただいたお洋服に着替えてからはダークな自分になった気分でした。血が騒いでいるみたいな感じで。だから、衣装のおかげで1回のライブの中でも二面性が出たかなって思いました」
“生きていかなきゃいけないっていう前向きな姿勢をさらけ出せた”
──“ダーク”と“ポップ”というアイナさんの二面性を昇華したEP二枚とセカンドアルバム『THE ZOMBIE』を3か月連続でリリースされました。二面性をテーマにしたのは?
「スタッフさんから、これまでのアイナ・ジ・エンドって暗めの曲が多かったけど、明るい曲を聞きたい人もいるんじゃないかなっていう意見をもらって。それで明るいと暗い、両極端に振り切った曲を増やしてみようと思ったのがきっかけでした。本当は“楽しい”が一番いいんだけど、人間はずっと楽しいままで死ねないし、多かれ少なかれみんな悩みがある。“人には人の地獄がある”とか言うじゃないですか。だから、気分が上がったり下がったりすることは悪くないんだよ、そういう自分を受け止めて行こうね、っていうアルバムだと思います。自分がどれだけひねくれているかはファーストアルバムで出せたと思っているので、今回はそんな自分でも生きていかなきゃいけないっていう前向きな姿勢をさらけ出せた気がします。ありがたいことに音楽のことをいろいろ教えてくれる友達や先輩が周りに多くいて、いろんなジャンルに触れたことで成長できた実感もあります」
──ファーストに続きアイナさんが作詞作曲を手がけてますが、中でも「ワタシハココニイマス for 雨」は音からも歌詞からも生き抜こうとする力が溢れていて、ソングライティングの進化を特に感じました。
「うれしい。この曲はピッコマのCMに書き下ろしたんですが、有村架純さんが雨の中で走ってる映像があって、それにインスパイアされたところがあるんです。あと、ファーストアルバムでダークな部分は吐き出しきったからもう上がるしかない、生き抜くしかないっていうそのマインドチェンジがよく出てる曲だと思います」
“勇気を出さないと向き合えない日もある”
──歌詞は「誰にもなれやしないさ」や「ちっぽけ 本当の私」という劣等感から始まって、「生き抜こう」で締めくくられます。『ミュージックステーション』のために椎名林檎さんが結成したバンド「Elopers」のボーカルを務めたり、ROTH BART BARONとの A_oや『関ジャム』でのボーカリスト特集だったり、どんどんアイナさんはちっぽけな存在ではなくなっている気がしますが、それについてはどう思いますか?
「でも、今でも家に帰って自分の世界に閉じこもると『ああ、もうどこにも行きたくない』とか思っちゃうし。人と向き合えば向き合うほど傷つくことがあるので、勇気を出さないと向き合えない日もあったり。だからあまり変わってないと思います。この前のMステの時も、緊張して本番で歌ってる最中に右側に立ってる林檎さんのことを一度も見れてないですし。A_oでMステに出た時も、リハでAメロ歌う時に痰絡んだ(笑)。そうやって緊張するところも変わってない。だから、評価していただけるのは嬉しいんですけど、心は別で。自分自身が変わって、もうちょっとポジティブなマインドを持って、なりたい自分に近づいていきたいなと思います。常に笑顔ができる人とか憧れます」
──その気持ちは作品にどう映し出されていると思いますか?
「今自分が抱えているそういった悩みに共感してくれる人はきっといると思ってるので、まだそれをそのまま歌っているところはありますね。その人たちを置き去りにする歌はまだ早くて、一緒に進みたいんです。だからその人たちと一緒に成長してから、愛についてポジティブに歌える人になっていきたいなって思います」
──アルバムに入っている新曲「はっぴーばーすでー」は孤独を抱きながらも、生きることを思いきり慈んでいるような曲だと思いました。
「これはつい最近、9月頃に書いた曲なんですが、私には闇も光もない、何の感情もない日がたまにあるんですね。冷静で無で。そういう時は音楽をやりたいとあまり思わないんですけど、 その時の自分にしか書けない言葉があるので、ある意味チャンスだなって思って。人は一人で、たまたま今誰かといたとしても死んでいくときは一人。別にそれが寂しいとかも思わなくて……。そういう日に書きました」
“歌は生きがい。嫌いになっても結局好きになっちゃう”
──歌い手として様々なアーティストから求められていますが、歌うことに対する気持ちはどう変化していますか?
「やっぱり生きがいですね。踊ることもですけど。プライベートでうまくいかないことが続いて、『もう無理だ』って思っても、ソロツアーのステージに立った時は生きている心地を感じられた。それって会いに来てくれる人がいるからなんだと思いました。BiSHに入る前にソロでやってた時は、お客さんが2、3人とか、多くて10人とかで。その時も楽しかったけど、こうやってソロツアーに何千人もの人が来てくれて、自分の作った曲を聞いてくれて、涙したり、笑ってくれる人がいる。こんな幸せな空間はないなって思ったんです。だから、どんなにうまくいかないことがあってもこれがあればいいって思えるぐらい歌は好きです。それしかできないし。人間なので不調はあって、使いこんだら痛むし、治るのにも時間がかかるので、そこは戦いだなとも思います。だから、嫌いになっても結局好きになっちゃうみたいな存在なのかもしれない。ありがたいことに今忙しくさせてもらっているので、その中でどう自分を消耗せずに好きな気持ちを絶やさず歌えるかっていうことを毎日一度は考えてます」
──いいやり方は見つかっていきていますか?
「歌だけに向き合いすぎるのは良くないので、プライベートの時間を大切するのがケア方法です。そうじゃないといい歌が歌えない。それで、人間として成長しなくちゃと思って、人によく連絡を取るようにしてみたり、夜に皇居の周りをひとりで歩いたりしてます。友達でカメラマンの(蔦村)吉祥丸君に陶芸を薦められたんですが、行く時間がないなと思って、家を出てすぐぐらいのところにある木の下の土をずっと触ってました(笑)。でも、特に何も感じなかったんで、やっぱり陶芸やりたいなって。あと、一日一回瞑想してますね。家帰って、瞑想して、メイク落として、『よし、曲作ろう』みたいな生活になってきてます」
──ソロデビューして約3年ですが、始めた当初と比べてBiSHという存在はどう変化していますか?
「BiSHはお家みたいな感じなので、メンバーといると“楽しい”という感情が沸々と湧き出てくるんです。歌についても、BiSHは歌のバトンリレーなので、同じ曲をやってもライブによって変化がある。そこにはBiSHにしかできない表現があるので、ありがたみをもっと感じるようになりました。ソロはそれこそ極限状態にもっていかないとやってる意味もないと思ってて。だから、リハでも前日は緊張して寝れないし。でも、バンドメンバーでドラムの(大井)一彌くんがさりげなくかけてくれる言葉とか、ベースの(なかむら)しょーこちゃんが何気なくしてくれる音楽の話とか、メンバーひとりひとりが私に触れ合おうとしてくれるのでギリギリやれてる感じです。幸せに生きていきたいですね(笑)」
極限状態に陥ってる人にときめく!?
──ちなみにアイナさん自身は人の二面性には惹かれることはありますか?
「これ初めて喋るんですけど、私、人の極限状態フェチだと思うんです。例えば、笑いすぎて涙が出ている人とか、怒りすぎて怒鳴り散らしたり物を投げてる人とか、そういう極限状態に陥ってる人を見ると結構キュンとくるんです(笑)。『めっちゃ怒るやん!』って。なんか人間っぽいなって。でも、何も感情を出さない人も好きなんです。何も感じない無な人」
──0か100かみたいなことですか?
「そうですね。真ん中のゾーンにいる人は、喋りやすいし接しやすいので、『ありがとうございます』って感じなんですけど、0か100かだとこっちも極限状態になって、なんか楽しいんですよね。家族とか友達とか、私の周りに結構そういう人いるんです。自分が結構不安定なので、安定している人といるほうがいいんですけど、そういう人って極端でめっちゃおもろいなって思っちゃうんですよね(笑)」
アイナ・ジ・エンド『THE ZOMBIE』
各種配信はこちらから aina.lnk.to/THEZOMBIE_DIGI
CD〈通常盤〉¥3,300
2021年11月24日リリース
Photos:Akihito Igarashi Hair & Makeup:Tamayo Yamamoto + Sakura Styling:Shiori Kajiyama Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Mariko Kimbara